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【新興市場の星】イヴレス代表取締役 山川景子

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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「おもてなし」をカタチにする会社

「おもてなし」をカタチにする会社

0から1を作る魅力

 ホテルなど宿泊施設への客室備品の販売、開業支援、受託運営を手掛けるイヴレスが2021年7月28日、東京証券取引所 TOKYO PRO Market へ新規上場を果たした。「プロマーケット」と呼ばれており、2009年に開設された株式市場で、経験豊富なプロ投資家に限定することで、一般的な市場よりも柔軟な上場基準が可能となっている。例えば、株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)がなく、オーナーシップを維持したままでの上場なども可能となっている。

 

 「0 から1を作り出す強みを活かして、新しいライフスタイルの提案をしていきたい」と社長の山川景子は今後の抱負について語る。

 

 普段はどこの会社が作ったものか意識することはないが、出張や旅行先などで宿泊するホテルで誰もが手に触れ使っている商品がある。シャンプーなどのバスアメニティ、デスクに置いてある上品な革製品のメモ帳やティッシュケースなど、客室にあるモノなら何でもオーダーメイドで作れてしまう。「おもてなし」をカタチにするユニークな会社がイヴレスなのだ。

 

新しいライフスタイルを提案

 

 2020年から世界的な新型コロナウイルス感染の影響で観光客が激減し、旅行業界は大打撃を受けている。オリンピック特需を見込んだインバウンド需要もなくなり、航空会社や旅行代理店、飲食業の業績悪化は目も当てられない。こうした厳しい外的環境の中でも、山川は「グランピングの流行が示すように、旅行需要は無くならない。リゾート地でのワーケーションなどの新しいライフスタイルも出てきている。他にはない独自性で挑戦していきたい」とホテル周辺事業への強い想いを語る。

 

 パンデミックが発生し、国内宿泊需要の落ち込みの影響を大きく受けながらも、前年の売上高から下げることなく、2021年10月期の売上高は10億6700万円を見込む。

 

 緊急事態宣言が解除され、ワクチン接種率が60%を超えるとコロナの新規感染者も全国的に減少し、収束に向かいつつある。実際にコロナの影響で海外旅行に行けない分、身近な国内リゾートは見直されている。人気の軽井沢や沖縄はすでに飽和状態であり、ポストコロナの新しいツーリズムとして、その他の国内リゾート地にも注目が広がっている。オリジナルアイテムを企画・製造しているイヴレスにとっては追い風となるだろう。

 

一気通貫が強み

 

 イヴレスの事業は大きく分けて3つの事業から構成される。1つ目は、コア事業として安定収益を確保する「宿泊施設向けの備品製造・販売」である。客室の備品、家具、室内装飾のデザインを使い勝手や清掃しやすさに気を配り提案し、条件に合わせて合皮、布、陶器、木材などの素材を組み合わせ、国内外の工場で生産している。現在は50%を国内で生産し、地産地消の比率を高め地域貢献を心掛けている。

 

 これまで一流ホテルとの取引の実績から品質においては高い基準をクリアしている。宿泊施設向けの備品はシャンプーなどのバスアメニティであり、消耗品であるため売上げの4割から5割を占める主力事業である。

 

 2つ目は、ホテルや宿泊施設の新規開業・リニューアル時の調達業務を代行する開業支援事業である。顧客の想いや予算に合わせた備品やバスアメニティの製造から、家具やアートなどのインテリアの選定まで一括で調達を代行するだけでなく、不動産・設計から建設、運営まで開業に関わる業務についてサポートする。

 

 3つ目は、イヴレスで開業支援を行った施設を預かり運営するホテル運営受託事業である。現在、静岡県熱海市と伊東市、沖縄県恩納村の3拠点でリゾートホテルを開業している。いずれも上品でセンスの良いインテリアや家具でデザインされ、各部屋にはキッチンやランドリー、仕事用のデスクも完備してあり、長期に滞在しても快適に過ごせることをコンセプトとしている。

 

 オーダーメイドのモノづくりから始まり、インテリアデザインや調達を通して空間づくりを演出し、ホテル運営により雰囲気づくりまで一気通貫で行え、それぞれの事業の実績が増えることで他の事業にも相乗効果が波及するのがイヴレスの特長であり、強みとなっている。

 

「非日常」的な感覚が好き

 

 創業者の山川は1990年に前職の出版社を退職し独立。海外を飛び回り旅雑誌の記事を書いていたが、旅費交通費込みの報酬では儲けは少なく苦労した。ふと自分は何が好きなのだろうかと考えた。すると観光地巡りも美術館にも興味がなかった。 ただ「ホテルが好き」だった。ホテルに滞在しているだけで「非日常」的な場所にいる自分が感じられて高揚感があった。山川は、気分が落ち込んでいるときは紀尾井町にあるホテルニューオータニへ自然と足が向かった。ロビーの長椅子に座り、ホテルマンの立ち振る舞い、目の前を行き交う人たちを眺めているだけで元気と運気を貰えるような気がした。

 

 よく考えて見ると海外ばかりで国内のホテルに泊まったことがなかった。試しにビジネスホテルに宿泊してみると、そこに置かれている備品はセンスがなく、温かみもなかった。「正直にオシャレじゃない」と感じたという。山川には海外のホテルとの違いが鮮明に映った。

 

 「日本のホテルを変えたい。自分が好きなものを作りたいという想いが湧いてきた。それは自分の中でイノベーションだった」と山川はターニングポイントについて語る。

 

 ホテルが好きな山川は、鋭い顧客目線とオーダーメイドでゼロから一を作ってきた職人気質の両方を兼ね備えている。ゲストがどうしたら「非日常」を感じて喜ぶのか、山川は肌感覚で理解しており、イヴレスのモノづくりのベースになっているのだ。

 

 社名の「イヴレス」の由来を尋ねると、自分たちが手掛けるサービスが素晴らしいと「自己陶酔」できるようにとの想いが込められているそうだ。ポストコロナにおける、新しいライフワークへの期待は大きい。イヴレスの挑戦から目が離せない。

 

(企業家倶楽部 2021年11月号掲載)

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