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【サーキュレーション】代表取締役CEO 久保田雅俊

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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プロシェアリングで時代のニーズを切り拓く

プロシェアリングで時代のニーズを切り拓く

プロシェアリングという新たなマーケットを創出し、圧倒的な経験・知見を持つ「プロ人材」が企業の課題を解決し成長へ導く。また、個人の働き方も変わり、その道のプロの市場価値は高まっている。業界を創出し、フロントランナーとして走り続けるサーキュレーション久保田雅俊代表取締役CEOにプロシェアリング市場の動向と今後の展開について伺った。(文中敬称略)

プロシェアリングという新しい市場創出

 2018年にいわゆる「働き方改革関連法」が成立する4年前の14年、8名で創業したのがサーキュレーションである。久保田は労働環境の変化を先読みし、同社を立ち上げたのである。その背景には、大学時代、病に倒れた父親の会社の清算という経験が大きく影響したと言える。この時、「中小企業の脆弱さ、経営における『経験・知見』の重要性を痛感した」と久保田は語る。

 大学卒業後、大手総合人材サービス企業に入社した。父親の介護を続けながら、IT業界の採用コンサルタントとして活躍した。当時、27歳で部長に抜擢されるなど、数々の華々しい成績を残してきた。その会社で社内ベンチャーを立ち上げ、会社初となるイントレプレナーとしてカンパニー社長になっている。元々、企業家精神にあふれていたと言えよう。立ち上げた社内ベンチャーは、中小企業の課題に対し、シニアが「顧問」として経験・知見を提供するというマッチングビジネスで、いまのサーキュレーションの元になっている。

 同社が創出したプロシェアリングという市場。プロシェアリングとは、外部の「経験・知見」を複数の企業でシェアし、企業が抱える様々な経営課題を解決する新たな人材活用モデルであり、利用する企業の新たな成長戦略であると言えよう。

 企業を取り巻く環境はめまぐるしく変化し、そのスピードは思った以上に速い。その変化に対応し、経営を円滑に行っていくのは至難の業となってきている。大企業ですら、その変化に対応に苦慮する昨今、中小企業となるとなおさらである。

 例えば、コロナウイルスで一気に広がったテレワーク。円滑にテレワークを導入し、働き方が変わっても、以前と変わらぬ成果を出せた企業はどれだけあったであろうか。この一例を取っても、自社内で解決できない課題は数多く存在する。それらを、その道のプロを活用し、課題解決に導き、成果を出すのがプロシェアリングサービスである。

 同社のプロシェアリングサービスは、プロシェアリングコンサルタントが、同社独自メソッドに基づき取り組みたい課題テーマをすり合わせするところから始まる。課題の共有とゴールを明確にした上で、最適なプロ人材を選出し、プロジェクトが始まる。プロジェクトがスタートした後は、プロジェクトの進捗管理を行いゴールへと導いていく。このような流れで課題解決に導いていく。プロがかかわる時間や日数、スタートする日、全てにおいて柔軟でスピード感のある対応が可能である。「最短で翌週の月曜日から対応することもできる」と久保田は話す。

 確かに、今は人材難と言われ、企業が求める人材は、どの企業でも欲しい人材であり、募集をかけたとしても、求める人材を採用するまでには、相当の時間がかかる。その点、このサービスを使えば、必要な時に必要なその道のプロ人材を活用することができるメリットがある。

 経営とは課題解決の連続である。一つの課題が解決した後も、常に新しい課題が生まれ、それらに対処していく必要がある。外部のプロ人材を活用し、目の前の課題、また将来発生しうる課題に対して、タイムリーに費用対効果高く、解決また対応できることが、プロシェアリングサービスの最大の魅力である。

プロのためのプロ集団

 サーキュレーションには約1万5000名の「プロ人材」が登録している。その1万5000名のプロ人材は、年齢、業界、職種、役職、就業形態、と多種多様である。プロ人材とは、「現状の経営課題や事業課題を解決できるスキルを有している人、未来に起きる社会課題や企業の課題を解決できるスキルを有している人」と久保田は定義する。さらに、日々、自分自身のスキルを磨き続けているプロこそが本物のプロであると言う。現在から未来まで、経営からAIなどの最先端技術に至るまで、全方位でプロを用意している。これだけ見ていても、解決できない課題はなさそうだ。

 同社は、設立当初よりデータベースを活用し、データを重視してきた。登録するプロ人材については、オンライン、オフラインを活用し、登録プロを客観的に評価する。それにより、そのプロの強みを明確にする。さらに、関わったプロジェクトでの評価なども加わることで、新たなプロジェクトに対して、最適なプロを提案することが可能となる。

 また、今までに行ってきた7800件のプロジェクトのデータに加え、さらに、ヒアリングした課題など、膨大なデータを蓄積してきた。それらのデータをAIなど、その時々の最新のテクノロジーを活用し、マッチング制度を高めている。設立当初よりデータの重要性を認識していた同社。このデータの積み重ねが同社の強みとなっており、常に精度を上げるための努力を惜しまない。その姿勢こそが他社の追随を許さない源になっている。

 このように、データ面でお客の課題、プロ人材を把握する一方で、実際にお客と向き合って、課題の共有からプロ人材を活用した課題解決方法の提案、課題解決まで導くのが「プロシェアリングコンサルタント」である。

 このプロシェアリングコンサルタントの育成にも力を入れている。経営者と向き合い、その経営課題を把握するためには「経営に関して分からない言葉があってはならない」というのは久保田の考えだ。まず、プロシェアリングコンサルタントには、登録しているプロ人材の中から、トップレベルのMBA講師を招いて、MBA用語をすべて勉強してもらい、頭の中に叩き込んでもらう。同社のコンサルタントの基礎知識、持っていて当然の知識といったところだ。

 さらに、旬でニーズの高い経営課題や最先端の経営用語とその内容から、実際にプロがどのように解決するかの方法に至るまで、細かく教育をシステム化し落とし込みを行っている。常にレベル向上を図っている。同社で月に4から5本行っているウェビナーは、旬の経営課題や経営をめぐるトレンドを取り上げ人気となっている。毎回300名以上の経営者が参加している。このウェビナーの企画、運営、さらにプロ人材と共に講師までをプロシェアリングコンサルタントのマネジャー、リーダークラスが行っているから驚きである。

 プロ人材を扱う同社もまた高い知識と志を持ったプロ集団である。

プロ人材を中心に広がるニーズ

 順調に拡大を続ける久保田であるが、数えきれないほどの苦労をしてきたという。ただ、「基本的に、クリアできたことは忘れるようにしている」ととても前向きである。しかし、自らを振り返り内省することも多く、その連続で苦しんだ過去もあるという。ただ、反省だけしていても動きが止まってしまうので、一緒に働く仲間には「反省」でなく、感情的にならずに、行動を振り返ることをしてほしいという。「悩ませるために会社を経営しているわけでなく、自社に関わる全ての人の成長を願って経営している」と人に対する想いは人一倍熱いものを持っている。

 久保田は「ベンチャーは茨の道を堂々と歩く」という言葉を大切にしている。これは、小さな問題はたくさんあるが、それら一つ一つに頭を悩ませていたら、前に進めない。とにかく前に進んでいくというポジティブな発想である。ただ、同時に多くの経営者の失敗体験を聞くことで、自己の「知見」とし、大きな失敗をしないように気を付けているという。経営者としての「攻め」と「守り」をバランスよく備えている。この久保田の考えが事業展開のスピードを生み出している。

 プロ人材に目を付け、シェアリングする新しい市場を作ってきたが、このプロ人材を中心としたサービスは大きな広がりを見せている。CTOを中心としたITプロフェッショナルを支援するサービスを提供する「FLEXY」。新規事業の企画立案、実行推進に特化した「Open Idea」。会社にとって必要な情報をスポットで聞いたり、レポートしてもらえる「Open Research」。「人」と「事業」の観点から事業承継をサポートする「人と繋ぐ事業承継」サービスを展開する。

 久保田自身は、新たに作った「プロシェアリング市場」を成長させることに注力していきたいと語る。競合する企業も日を追うごとに増えているが、「ライバルではなく市場を一緒に広げる仲間」と表現する。国内での市場成長を図りつつ、将来的には、グローバルな競争に「日本代表」として参入したいと考える。その武器となるのは、創業当時から蓄えてきたデータであり仕組みである。

 さらに、社会課題解決のための、プロシェアリング「ソーシャルデベロップメント」サービスも今後成長が見込まれる。事業課題から社会課題の解決まで幅広い領域でプロシェアリングを提供するサーキュレーションの今後にますます目が離せない。


Profile 久保田 雅俊(くぼた・まさとし) 学生時代、進学塾を経営していた父が倒れたことから、21 歳で会社の清算を経験。大学卒業後、大手総合人材サービス企業に入社、IT 業界の採用コンサルタントとして活躍。その後、同社初のイントレプレナーとしてカンパニー社長に就任。2014 年に独立、サーキュレーション設立。オープンイノベーションコンサルタントのプロとして、メディア掲載実績・講演実績多数。経済産業省の人材力強化研究会にも有識者として登壇。

(企業家倶楽部2020年12月号掲載)

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