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【核心インタビュー】クリーク・アンド・リバー社 社長 井川幸広 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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懐深いカルチャーでプロを繋ぐ  前編

懐深いカルチャーでプロを繋ぐ  前編

東京・新橋駅から徒歩5分ほど、日比谷通りと新虎通りが交わるところに新しく建設された複合施設「新虎通りCORE」。昨年10月、そのビルの4~14 階にクリーク・アンド・リバー社がオフィスを移転した。「50 分野のプロフェッショナル人材を繋げたい」との志を胸に、新たなスタートを切った同社は、今後どのような展開を見せるのか。虎ノ門ヒルズが窓から大きく見える自慢の応接間で、井川幸広社長に今後の意気込みを伺った。 

聞き手:本誌副編集長 三浦貴保


器以上の仕事は来ない

問 昨年10月にオフィスを移転されたということですが、その狙いは何だったのでしょうか。

井川 会社の器を広げたかったからです。私たちは創業時から、3年ほどのスパンで引っ越しを繰り返してきました。その中で、器以上の仕事は入ってこないと気が付きました。器を大きくするのはトップの仕事です。器が大きくなれば、社員がそれに見合った仕事をしようと一層励む。その結果、オフィスが変わるたびに業績がポンと跳ね上がってきたのです。

 興味深かったのは、いつも効果が表れるまでに3~6カ月かかるのですが、今回は移転した直後に売上げが上がったことです。2年ほど前から「会社を移す」と社員には伝えており、積極的に新オフィスの完成予想図を見せていたからでしょうか。器が広がると気分も高まるのですね。みんな、よく頑張りました。

問 なぜこの場所を選んだのでしょうか。

井川 このビルが建つ新虎通りは、東京都がパリのシャンゼリゼ通りのようなオシャレな街にしようと力を入れている場所です。そのためクリエイターの人たちが集まってきており、我が社にも引き合いがありました。

 我が社は人が中心の会社ですから、彼らが働きやすい環境をいかに提供できるかが会社としての任務だと思います。様々な人が集まる都心で更なる躍進をと考え、今回の移転を決めました。

問 このオフィスの特徴を教えて下さい。

井川 まず、それまで別々のビルに入っていたグループ会社を、一つのビルに集約したことです。一元管理することで、テレビ、映画、WEB、ゲーム、VR、YouTubeと全てのメディアに対応できるようになりました。

 また、フリーアドレスを採用しました。各個人専用のデスクを持たず、好きなところに座ることができるため、接点のあまりなかった社員同士の会話も生まれています。多種多様な分野で活躍する人たちが、自然と交流を深める。結果として、生産性の向上に繋がると考えたのです。

 5階には、コミュニケーションスペースがあります。大人数が座れる大きなソファやファミリーレストランのようなテーブルがあり、思い思いの場所で昼食をとったり、話し合いをしたり、様々な用途で使用できます。更に、3カ月に一度はこのビルで働く全社員1500人が5階に集まり、朝礼を行っています。

問 創業して今までに1番大変だと思ったのはいつですか。

井川 一番辛かったのは、創業1年目の時の引っ越しです。家賃が1万2500円のところから60万円くらいのところに移りました。その時は、売上げが上がらなかったら絶対に赤字になるという覚悟でしたね。それを乗り越えられたおかげで、器を大きくすることができました。

プロが一生付き合えるサービス

問 最近伸びているのはどの分野でしょうか。

井川 クリエイティブとメディカルはずっと伸び続けています。クリエイティブの中では、テレビ、ゲーム、WEBの3つとも成長していますが、ゲームの成長が一番です。

 現在、クリエイティブ関係の派遣は約2500人、スタジオ常駐が約750人います。テレビに関して言えば正社員が600人弱もいますから、これだけ正社員のディレクターを抱えているところは他にないと思います。テレビ局よりも多いのではないでしょうか。

 他に伸びている分野で言えば、建築が挙げられますね。1級または2級建築士の方と共に、賃貸物件を手掛けています。車と一緒に生活できるガレージハウスやゴルフ好きの人が集うゴルファーズマンション。建築事業部にこういった案件が10件以上来ており、軌道に乗り始めたところです。

問 以前、井川社長は50分野を手掛けたいと仰っていましたが、現在はどれくらいの規模で行われているのでしょうか。

井川 現在、15分野で事業を行っています。毎年の登録者数は1~2万人ほど増えており、今では約23万6000人のプロと約2万2000社のクライアントにご利用いただいています。

問 これだけ多くの分野を手掛けている会社は珍しいのではないでしょうか。

井川 そうかもしれません。ですが、あくまで自分たちのやり方で進めているだけです。特段、他社との差別化戦略などは取っておりません。

 我が社では、日本の産業の約6割をカバーできるという考えから、50分野での展開を目指しています。多くの分野を手掛けることで、複雑なクライアントの要求にも対応できるようになるでしょう。しかし、対応できるだけのキャパシティも同時に大きくしていかなければならないため、むやみやたらには増やさない方針です。

 ビジネスの立ち上げ方自体は既に分かっていますから、あとは時間の問題です。焦って急展開するとサービスが劣化する。そうならないためにも、じっくり構えながら進んで行くしかないのです。その中で、各分野のデータを集めると共に、プロの人たちや業界からの信頼を勝ち取っていく必要があります。

問 御社に登録されている「プロ」とは、どのような方なのでしょうか。

井川 我が社が対応できるプロは、知的財産を持っている方です。私たちが目指すのは、その業界のコアとなるような事業モデルを作ること。そのため、技術はあっても知的財産がない方に仕事を紹介するのは得意ではありません。例えば、医療関係で言えば看護師は扱っておらず、医師を扱っています。

 その他に、「世界中で活躍できる職種である」、「その人にしかできない仕事である」といった点もプロの条件として重視しています。一人ひとりのプロの生涯価値を上げ、一生付き合っていけるサービスを作っていきたいと思います。

(後編へ続く)

P R O F I L E 井川幸広(いかわ・ゆきひろ)

1960年佐賀県生まれ。毎日映画社撮影部に勤めた後独立、ドキュメンタリー番組等のフリーディレクターとして活動。90年 クリーク・アンド・リバー社を設立。2000 年6月ナスダック・ジャパン(現JASDAQ)に上場。クリエイター・エージェンシー事業をはじめ、医療、I T、法曹、会計分野にも進出。2016 年8月、東証一部に上場。2017年、第19回企業家賞受賞。

(企業家倶楽部2019年4月号掲載)

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