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サインポスト社長 蒲原 寧

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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世界初のAI無人レジでグローバルスタンダードに

世界初のAI無人レジでグローバルスタンダードに

小売店の人手不足が社会問題化する中、無人店舗実現に向けて本気で取り組むベンチャーが現れた。日本発のAI 無人レジでグローバルスタンダード確立に挑む、サインポストだ。無人レジ開発のいきさつ、今後の展望について、同社の蒲原社長に余すところなく語ってもらった。(文中敬称略)

無人コンビニへの 挑戦

 昼休みのコンビニやスーパーでレジ待ちの長い行列にうんざりしたことはないだろうか。今、そんな状況が解決されようとしている。

 欲しい商品を手に取り、支払用ディスプレイにICカードをかざして、レシートを受け取ったら買い物は終了。これは未来の話ではなく、2018年10 月から2カ月間、JR東日本・赤羽駅ホームの特設店舗で行われたAI(人工知能)無人決済システム「スーパーワンダーレジ」実証実験の光景である。

 約140種類の商品が並ぶ店内に店員はおらず、レジもない。天井や棚に100台ほどのカメラが設置されており、AIと画像認識技術、物体追跡技術で自動決済を可能にした。コンビニ利用にあたって事前登録をする必要はなく、多くの乗客が無人店舗に驚きの声を上げた。

 このAI 無人レジを開発したのが、サインポストである。17年開催の「JR東日本スタートアッププログラム」で最優秀賞を獲得したのを契機に、同社はJR東日本子会社であるJR東日本スタートアップと実用化に向けた共同開発を行ってきた。

 17年11月に大宮駅で行われた実証実験や、前述した赤羽駅での特設店舗開設を踏まえ、19年2月には「出資比率両社50%ずつの合弁会社設立に向けて合意し、21年2月期までに3万台の採用を目指す」と発表した。

銀行向けコンサルティングで成長

 サインポストは、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ 銀行)に勤めていた蒲原寧が07年に設立した。銀行員時代に銀行の合併・提携に伴う基幹系システム統合事業で培った実績から、蒲原へのコンサルティングの依頼は引きも切らなかった。

「お客さまのIT部門の一員として」とミッションを掲げ、顧客の会社に常駐し、経営・業務課題解決のためにIT領域で業務改善に注力。創業以来、銀行や官公庁向けのコンサルティング業務で成長してきた。

 ソリューション事業の主軸は「ユニケージ」という業務パッケージ。銀行業務は給与支払いやクレジットカードの口座振替など、大量のデータを一括処理する「バッチ処理」が非常に多い。早く処理が終われば、システムエラーなど不測の事態にも対応ができる。「ユニケージ」はバッチ処理を10倍以上高速化できることから支持を集めた。

 流通業界では既に使用されていた技術だが、金融業界でこのサービスを提供しているのはサインポストのみ。開発費も従来の3分の1に抑えられる。「IT部門の一員」であるからこそ、顧客にとって真に必要なサービスが提供できると言えよう。

 それらのサービスが支持され、18年2月期は売上高30億2400万円(前期比75・5%増)、経常利益3億5700万円(同114・3%増)と急成長。17年11月21日には東証マザーズに上場を果たした。

世界初AI搭載「ワンダーレジ」を開発

 日本からは自動車、電化製品、和食など世界に誇れるグローバルスタンダードの製品が多く生み出されてきた。しかしIT分野には、日本独自の製品が無い。これを常々憂いていた蒲原は「IT業界を代表して日本発のグローバルスタンダードのサービスを作る」と決意。そんな中、「駅の改札はICカードをタッチするだけで出入りができ、高速道路もETCで自動通過できるのに、なぜ店舗のレジだけがいつまでも行列を作らなければならないのか」との疑問から、無人レジのプロジェクトが始まった。

 小売店では、人手不足で利用客がレジ待ちにイライラしているものの、人件費が高騰しているため人材確保もままならない。その結果、大手スーパーやコンビニでは「セルフレジ」を導入する企業も増えてきた。

 ただ、「セルフレジ」では利用客が専用端末で商品のバーコードを読み取り、決済せねばならない。一つひとつ商品を読み取る必要があり、高齢者など端末使用に慣れない利用客には使いづらいので、通常の有人レジと併用している店舗が多く見受けられる。

 そこでサインポストは、一括決済できる世界初のAIレジを開発した。独自に作り上げたAI「SPAI(サインポストAI)」を搭載し、画像認識技術を使用した設置型無人レジ「ワンダーレジ」だ。利用客が「ワンダーレジ」に商品を並べてタッチパネルを操作するだけで、レジが自動で商品を識別し、支払金額を瞬時に計算、利用客はICカードで精算する。

 小売店やメーカーにとって嬉しい特徴は、バーコードやICチップを付ける追加の作業が不要なこと。AIが画像で認識するため、バーコードやチップが要らないのだ。したがって、取り扱う商品を選ばない。道の駅で販売される野菜や、コンサートやスポーツの試合会場などで扱われるグッズにも導入できる。

 非常に高い画像認証率を誇る「ワンダーレジ」だが、誤認識があってはかえって手間や時間がかかってしまう。そのため、レジの上に財布など商品以外のものが置かれたり、認識しにくい商品があったりした場合、AIは「分からない」と判断する。そして、そのように認証された商品に関してのみ、コールセンターに情報が飛び、人力での対応となるのだ。

 17年、電気通信大学の生協での実証実験を経て、現在はJCBのオフィスで実証実験を行っている。19年4月より「ポプラ生活彩家 貿易センタービル店」で導入され、交通系電子マネーを使用して、弁当やパン、飲料など1500種ほどの商品(雑貨などを除く)の精算が可能だ。

Amazon GOとは一線を画す

「ワンダーレジ」の技術を元に物体追跡技術とカメラを追加したものが、無人店舗を可能にした冒頭の「スーパーワンダーレジ」だ。AIが利用客を追跡し、手に取った商品を認識して、購入金額の計算から決済まで一貫して自動で行うため、レジを通過しないスピーディーな買物ができる。店舗側のメリットは人件費削減もさることながら、万引きが不可能になることも大きい。

 18年1月、アメリカ・シアトルに無人店舗「Amazon GO」がオープンした。スマホに表示されたQRコードを店舗入口のゲートにかざして入店すれば、商品を取るだけで買物が終了。便利なことこの上ないが、「Amazon GO」を利用するにはスマホに専用アプリをインストールし、決済口座に紐づいたアマゾンの会員IDを入力する必要がある。つまり、アマゾン会員でなければ利用できない。

「自分が考えることは世界の誰かが考えている」と驚きながらも、蒲原は「サインポストとAmazonは根本的に考え方が違う」と断言する。つまり、Amazonは顧客の囲い込みだが、サインポストの「スーパーワンダーレジ」はあくまで決済手段であり、小売店や利用客が抱えている問題解決のためのサービスなのだ。

 だからこそ、業態やチェーンか否かの垣根なく、導入を望む全ての小売店が利用できる。支払い方法に関しても、現行の実証実験ではICカードを使用しているが、現金やクレジットカードとの併用も計画している。

社会に新たな価値を創出し続ける

 19 年5月に改元され「令和元年」になるが、奇しくも「19年はAIレジ元年」と声を大にする蒲原。世の中に求められているサービスだと確信しているからこそ、「一刻も早く世界中に広めたい」と意気込む。

「ワンダーレジ」の製作に関しては「SPAI」からハードに至るまで全て自社製にこだわったサインポストだが、その普及に関しては積極的に提携を進めていくという。コールセンター業務や海外への販路拡大だけでなく、製造に関する技術提携も念頭に置いている。AI無人レジプロジェクトを事業化して、普及を加速させる構えだ。

 次の目標は「文字認識や農業へも活用を広げ、すべての産業でGDPを高めること」。蒲原は大阪出身だが、「地方に人を戻したい」と地方創生にも力を入れ、サインポストはサッカーJ 1リーグ大分トリニータのスポンサー契約を結んでいる。

 将来、無人店舗に加えて、無人レジと自動運転車を組み合わせた無人販売車が誕生すれば、「買い物弱者」の問題も無くなる日が来るだろう。さらに、農業への有効活用が実現できれば、高齢化が進む就農人口の減少を食い止め、若返りを図れるかもしれない。

 これまでに二度、九死に一生を得た経験から、社会に対する感謝の念が強く「先人から引き継いだ豊かな日本を引き継ぐため」起業したという蒲原。「残りの人生は世の中のために使う」と表情を引き締める。

 企業理念を愚直に実行し、「社会に新たな価値を創出し続ける」サインポストの挑戦は続く。

Profile 蒲原 寧(かんばら・やすし)

1965 年大阪府生まれ。三和銀行で邦銀の先駆けとなる次期基幹系システムを構想。UFJ 銀行合併対応や三菱東京UFJ 銀行合併対応プロジェクトを推進。2007 年サインポストを設立し、代表取締役社長に就任。社会に新たな価値を創出する事業を展開している。

(企業家倶楽部2019年6月号掲載)

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