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特集 第3部編集長インタビュー ジャパネットたかた 代表取締役 髙田 明

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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覚悟をもって本気で取り組めば道は開ける

覚悟をもって本気で取り組めば道は開ける

(企業家倶楽部2015年1・2月合併号掲載)

 ジャパネットたかたといえば、自らMCを務め、熱く語る社長の髙田明氏が有名である。あの語り口、真剣な眼差しに惹き込まれて、思わず購入してしまう客も多いことであろう。その髙田社長が2015年1月、社長の座を長男で副社長の旭人氏と交代することを宣言した。その背景には2010年のテレビ特需の後、経常利益が2年続けて大幅減少するという危機に陥ったことにある。その復活劇で活躍した副社長にバトンを渡し、新生ジャパネットに未来を委ねるという。その真意はどこにあるのか。髙田社長が熱く語る。( 聞き手は企業家ネットワーク会長 徳永卓三)

問 2013年に過去最高益を出さなければ社長を辞めると宣言をしましたが、勝算はあったのですか。

髙田 勝算があったわけではありません。大きな目標と条件を掲げ、それに向かって挑戦してくのが私流のやり方です。2010年12月期に1759億円を売り上げ、136億円の利益を達成した時は、周辺機器を含めて、テレビ関連で960億円を売上げました。ところが12年には、全体の利益は73億円までに下がりました。そこで、過去最高益を出した10年の136億円を超えなければ、社長を退任すると宣言したのです。テレビ依存から脱却、掃除機や炊飯器にシフトし、結果的に13年12月期の売上げは1423億円で、利益は154億円を達成しました。その際のテレビ関連の売上げは60億円程度です。私にとって社長を辞めることは大したことじゃなくて、そこに取り組む覚悟とか、目標に進んでいく姿が、将来を強くすると思ったからです。

問 テレビ関連は900億から60億くらいに落ちて、伸びたものは何ですか。

髙田 布団クリーナーのレイコップは日本の市場の半分は当社が売っています。100万台は超えていますので、平均2万円として400億円の新しい市場が出来上がったことになります。トルネオという東芝のサイクロン方式クリーナーも約150万台を売り上げました。私たちは選んだものを集中的に売ります。テレビやパソコンは利益率が低い。そこで利益率の高い掃除機や炊飯器といった白物家電にシフトすることで最高益を目指しました。どうすれば136億円以上の利益を出すことができるかということを意識していたのです。社員たちも目標を達成するために一体感をもって方向転換してくれました。徹底して拡大政策を取り、雇用に関しても一切リストラしないし、東京・六本木に事務所をつくり、現地採用も含め、150人ほどの体制にしました。

問 拡大政策をとったというのはすごいことです。

髙田 私は「やり続けた努力は100%無駄にならない」という言葉を常日頃から、社員と自分自身に言い聞かせています。たとえ、その時に芽がでなくても必ず次のステップに繋がります。一所懸命にやらなかった仕事は実らない。死に物狂いでやったことは自分に返ってきます。企業の本気度はそういった覚悟を持って、身を粉にして働く、情熱と行動力です。ミッション、パッション、アクションの「3つのション」で夢が叶うと信じています。

問 14年の営業成績は13年と比べてどうでしたか。

髙田 14年は景気が生ものであることを実感した1年でもありました。3月の消費増税で4?5月は少し落ち込みましたが、6?7月は好調に売り上げを伸ばしました。8月までは過去最高益を大幅に更新する勢いでしたが、エアコンが長雨の影響で売れませんでした。それから円安の拡大もあって、景気の雲行きがどうも怪しくなってきました。20年間スタジオに立ち続け、景気を肌で感じることで分かるようになりました。14年度はそういったことを勘案すると、13 年度の最高益を少し更新する程度に収まるでしょう。

問 消費増税延期についてはどのように考えていますか。

髙田 延期について議論する以前の疑問点として、なぜ2段階での消費増税を行うのでしょう。経済は日々、変動します。その中で最良のタイミングを見計らうことは至難の業ではないでしょうか。私は将来的には増税はしなければならないと考えています。ただ、短期間で2段階の増税を行うよりも1回にまとめてしまったほうが、消費者の不満も少なく抑えられるのではないでしょうか。

問 円安による影響はありますか。

髙田 これだけ円安になると仕入れ値が高くなります。安く売らなければ買ってもらえませんから利益が出にくくなってきました。

会長も顧問も引き受けず

問 2015年1月16日で社長交代を宣言しておられますが、本当ですか。

髙田 会長にも顧問にもならず、役職には就きません。私は創業してから29年もの間、この会社を指揮してきました。もし、私が役員に残れば社員は気を使って、仕事がしにくくなるでしょう。副社長に全権を託して、やれるだけのことを好きなようにやってもらった方がいいと考えたのです。ただ、テレビはこの会社の核ですから、社員たちが1年間だけ指導して欲しいということで、外部のコンサルタントのような形で私が関わることになります。この1年間で、テレビ放送のチームをプロ集団に育て上げます。

問 組織の意思決定者は1人にすべきだという考えなのですね。私も賛成です。

髙田 副社長は優秀で、私にできないこともたくさんできます。従って世襲で社長を任せるわけではありません。ただ、経験が足りませんから、アドバイスを求めてくるなら、助言してあげようと考えています。私も会社も元気なうちに引き継ぐのが大事です。

問 副社長は大丈夫だと思いますが、テレビ関係はどうでしょう。育成は上手くいっていますか。

髙田 今はまだ無理ですが、1年で育てます。いまでも私と変わらない数字を出す者もいます。女性陣も本当にうまくなりました。問題は私が辞めてから1年後も同じレベルを維持できるかどうかということです。私は人間性や考え方について人一倍厳しく指導しています。9叱っても1しか褒めません。今の若い人がメンタル的に耐えられるかという難しさはありますね。創業者が抜けて、社員一同でその後を引き継いで、維持し続けることは、どの会社も向き合う試練でしょう。

1年後67歳で次の人生を発見

問 社長をやめた後、個人的には何をしようと考えていますか。

髙田 今まで、できなかったことをやってみたいです。仲間と語り合ったり、遠くに旅行したりしようと考えています。ゴルフも忙しくて出来なかったので、もっと上手くなるように練習したい。一番やりたいことは大学時代には話せていたフランス語と英語の勉強です。テレビ出演が終わるのが67歳ですから、フランスとアメリカに1年半ずつ行けば70歳で両方の言葉を喋れるようになります。企業の社長をやっていたことを隠して70歳になろうというおじいちゃんが一般家庭にホームステイするなんて面白いでしょう。

問 フランス語もできるのですね。

髙田 フランス語は大学の時に独学で勉強しました。貿易会社に勤めていた23歳の時にヨーロッパで仕事をしていたことがありますが、フランスに行った時には1人で移動手配から全て行ったことがあります。フランス語は読むこともできますから、すぐに喋れるようになるでしょう。

問 海外でいいものを見つけて、そこから放送しそうですね。

髙田 そこには戻りません(笑)。旅行やホームステイに関して個人的に情報を発信してみるのは面白いと思いますが。ただ、会社に関しては影響力を一切持たないようにします。

負けず嫌いが頑張りの源

問 完全に辞めることについては私も賛成ですが、会社への影響も大きいのではないでしょうか。

髙田 少なくとも今後10年間は今の副社長がトップになるでしょう。この2年間は副社長と色々な議論をして、いい戦いができました。努力が結果に結びついてきているから、私もできるだけ遠くから見守るようにしています。

 新聞の折り込みチラシでもいい仕事をしました。これは20年間私が欠かさずチェックしてきましたが、14年10月頃からは任せています。担当者は大慌てになって、副社長の責任で作りましたが、素晴らしい出来栄えだったのです。私もアイディアには自信がありますが、若い人たちは私とは違った発想をします。ダイソンの掃除機を売り込む時のチラシは特に面白かった。私だったら表面にダイソンのクリーナーを載せて、裏面は他の商品を載せます。ところが、副社長はダイソンに特化し裏面にも同じ商品の使用例を詳しく書いているのです。普通の考え方ではそんな発想はできません。

問 副社長と若い社員が実力を発揮し始めたのですね。

髙田 仕事は人に任せるよりも自分でやった方が早いということもあり、私はなんでも自分でやってしまいますが、副社長は人に仕事を任せることができるタイプです。私よりも人を育てるのが上手いかもしれません。彼は役職を与えるには時機尚早な人材にもポストと責任を与えます。任された若手たちは副社長と共に私を超えようと、必死に努力しています。私と副社長の最も似ているところは負けず嫌いなところです。

商品は相手に伝わった瞬間に売れる

問 ところで、テレビのライブ放送の時でも原稿は本当にないのですか。

髙田 原稿があると、却って喋れなくなってしまいます。原稿どおりに読んでいては人に伝わりません。2?3時間の講演をやる時でも、話す内と順番を頭に入れるだけです。商品を紹介する時はその商品を自分がよく理解しないと伝えることができません。いずれにしても、自分の頭でよく考えたことしか聞く相手は理解してくれないのです。

問 商品を紹介する時のポイントは何ですか。

髙田 商品はただの物ではありません。その商品やサービスによって、その人の人生がどのように変わるのか考えなければいけない。分かりやすく伝えることは難しいことです。伝えたつもりになってしまっていることが一番恐ろしい。私も社員に何度言っても伝わらないことがあります。100回言っても相手に理解してもらえないこともある。だったら、熱意を持って徹底的に伝えなければいけない。

 物が売れる瞬間こそが伝わった瞬間です。お客さんが理解し始めただろうという時間から電話が鳴ります。だから、何回同じように話しても伝え方が悪いと商品は全く売れません。伝わるというのは相手が理解したかどうかということ。政治などでも、いくら頑張って演説しても難しい話をそのまま話していては、国民は理解してくれません。

問 田中角栄や小泉純一郎は演説も上手くて、分かりやすかったですね。

髙田 伝える手法としては、核心だけを続けざまに言っていくのがいいでしょう。田中角栄さんも小泉純一郎さんも原稿を読んだりしません。アメリカの大統領も素晴らしい演説をしますが、予備選で鍛えられ凄まじい勉強をすることで4年間の任期を乗り越える力を蓄えます。だから、彼らは見事なスピーチをするし、良い言葉をたくさん発言します。スティーブ・ジョブズはプレゼンが上手いとよく言われますが、1か月前からプレゼンのプロを雇って、部屋にこもって猛勉強していたそうです。それぐらいやらないと伝わりません。

問 これからのジャパネットの社員にはどのような人物になって欲しいですか。

髙田 常に自己更新していく人間になって欲しいです。室町時代の能楽師である世阿弥は、常に人間が高みを目指して自己を成長させることを考えていました。我々が売り上げ1000億を達成して満足したら、そこでもう終わりです。結果よりも常に自分が努力し続けるというプロセスが大事。13年に、最高益を出せなければ社長を辞めると宣言しましたが、結果は1年間自分が走り続けるための目標だったのです。本気の努力が実を結ぶと思います。

問 企業を経営していく中で危機がいろいろあると思います。御社も2004年に情報漏えい事件がありました。最近はマクドナルド、ベネッセも危機に陥っています。こういう危機の時のトップの心構えについてどうお考えですか。

髙田 企業が危機を乗り越えるときに一番必要なのは理念だと思います。企業がどういう姿勢で、世の中と向き合っているのか、理念を持たない人や企業は、消費者から見限られると思います。常にまじめに謙虚にお客さんに向き合っている姿勢を企業家はもたないといけない。もう1つは、そういう危機も自分の中で受け入れることですね。現実を直視することです。現実を受け入れないと、超えられない。従って危機こそが自分への試練だと思えば何にも辛くない。それに向かって行っているうちにいつの間にか乗り越えている自分がいる。これはよくいうブレイクスルー思考ですね。瞬間瞬間をいかに全力投球できるかという精神を持てば必ず苦難を乗り越えられる。私も現実を受け入れて今の瞬間を一生懸命生きていくということを大切にしたいですね。


p r o f i l e

髙田 明(たかた・あきら)1948年長崎県生まれ。大阪経済大学卒業後、機械メーカーへ就職し通訳として海外駐在を経験。74 年に父親が経営するカメラ店へ入社。86年に「株式会社たかた」として分離独立。99年に現社名へ変更。90年にラジオショッピングを期に全国へネットワークを広げ、その後テレビ 、チラシ・カタログなどの紙媒体、インターネットや携帯サイトなどでの通販事業を展開。2014年企業家大賞受賞。2015年1月に同社代表取締役を退任予定。

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