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【出でよ!ガレージベンチャー】だんきちCEO 与島大樹

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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スポーツレッスンに革命を起こす

スポーツレッスンに革命を起こす

(企業家倶楽部2019年1・2月合併号掲載)

「スポーツレッスンを受けたい」と思った時、真っ先に近所のスクールを検索する人は多いのではないだろうか。スマートフォンアプリ『スポとも』を使えば、直接スクールに出向くことなく、オンラインで「いつでも」「どこでも」野球やゴルフなどのレッスンを受けられる。しかも、講師は憧れの元アスリートかもしれない。

スポーツレッスンをスマホで受講

 だんきちは、「スポーツレッスンの新しい歴史を創る」をミッションに掲げ、2013年2月に創業。『スポとも』のアプリ運営の他にも、東京ドームなどのスポーツ関連企業と提携し、オンラインレッスンを展開している。

『スポとも』は18年12月現在、ダンスのみがダウンロード可能だが、以前リリースされていた野球、ゴルフも19年にはリニューアルして再公開予定。その他、テニス、陸上の合計5競技を主眼とする。

 例えばゴルフの場合、アプリをダウンロードしたら、まず自身が抱える悩みを「カルテ」に入力する。そして自分のスイング動画を、正面とサイドの二方向からスマートフォンで撮影。その後、100名を超えるコーチの中から気に入った人物を選び、レッスンを申し込む。カルテを送信後、24時間以内にコーチから返信があり、悩みの原因や解決方法を指導してくれる。動画には音声入力機能や、腕の角度などを細かく書き込みできる機能が備わっており、何度でも見返すことが可能だ。

 スポーツによって特性が違うため、現状では5つの競技に絞っている。野球やゴルフなどの競技は、主に個人のフォームを重視するスポーツ。一方、サッカーやラグビー、バスケットボールなどの競技は、フォームよりチーム戦略を重視する傾向にある。現在の『スポとも』アプリには、前述の5つのスポーツが最も適していると言える。

 その中でも急成長しているのが、ダンスの『スポとも』アプリ。近年、小学校での体育の授業でダンスが取り入れられ、習い事として人気だという。自宅で個人レッスンを受けられ、保護者と一緒に何度も添削された動画を見返すことができる点が好評だ。

動画シェアの時流に乗る

 与島は奄美大島で生まれ、大阪で育った。小さい頃から野球を続け、高校は野球の強豪校に進学。しかし、そこでプロ候補の同級生たちとの実力差に愕然とし、野球の道を断念する。

 両親が自営業であったこともあり「いずれは自分も起業を」と考えていた与島。大学では経営学を専攻し、卒業後はコンサルティング会社に就職した。平日はサラリーマンとして働き、週末は起業への道を模索し続ける日々。そんな時、プロ球団を退団した高校時代の後輩から連絡があった。

 引退後も、セカンドキャリアとして野球に携わりたいと考えたが、どこも飽和状態で仕事がない。球団には戻れないし、高卒で入団したので潰しも効かない‥。後輩の話を聞き、与島の直感が働いた。「小さい頃、奄美大島に住む親戚から『島には指導者がいないから、やりたいスポーツができない』と聞かされていたことを思い出し、これだ!とひらめきました」

 英会話教室にもテレビ電話を使ったオンラインレッスンがある。スポーツでも動画を使えば「教えたいが仕事がない」指導者と、「教えてもらいたいが時間や場所がない」生徒の物理的距離を埋められるのではないか。スマートフォンの普及率が上がり、フェイスブックをはじめとするSNSで動画をシェアする文化が浸透し始めていたこともあり、『スポとも』アプリの開発に踏み切った。


ユーザー第一のアプリ作り

 ところがリリース後、一旦は登録しても、大多数のユーザーが離脱してしまった。予めカリキュラムが用意されているスクールとは違い、『スポとも』では、生徒の積極性が重要になる。「フォームに悩んでいる」「こういう場合はどうしたらいいですか?」など、質問をすればしただけコーチは応えてくれるが、裏を返せば、生徒側から質問を投げかけない限り、コーチは指導のしようがない。また、野球はジュニア層、ゴルフは成人男性など、それぞれの競技によってユーザーの年齢層や属性が異なる。

 最初は野球、次にゴルフと、徐々にスポーツ競技を増やし、アプリの使いやすさ、システムなどを改良していった。

 直近で追加した機能に、「講師レビュー」がある。コーチを選ぶ際、判断基準がないと、どうしても現役当時の成績が華やかなコーチに人気が集中してしまう。しかし、「過去の実績は、必ずしも実際の指導スキルとは比例しない」と与島は説く。実績が無いからこそ悩み、研究を重ね、自分なりの理論を打ち立てている選手は多い。より質の良いレッスンを行う講師を可視化し、ユーザーからもより正当に評価してもらうために設けた機能だ。

「ごく一部のコーチから反対の声が上がりましたが、飲食店でもお客様から評価される時代です。こういった市場原理を働かせないと、新しいことに取り組もうとする人が増えません」と語る与島。より多くレッスンを担当しているコーチには、その分多くの報酬を支払うなど、コーチたちのモチベーション作りにも力を入れる。

メッシからサッカーを教わる!?

 今後の事業展開について、与島は3つの軸で展望を語る。

 まずはスポーツジャンルの拡大。現在はフォームを重視する競技に絞っているが、今後はチームスポーツへの展開も考えている。すでにユーザーから「ホワイトボード機能を追加してほしい」との要望もあり、早急に着手する予定だ。

 次に、リアルへの展開。「全てがオンラインに置き換わるのではなく、オンライン・オフラインを並行して使っていくことが技術向上に繋がる」と与島は語る。「いつでも」「どこでも」受けられるオンラインレッスンを軸としながらも、例えば、月に一度バッティングセンターでコーチが直接指導してくれるワークショップを開催するなど、ユーザーにリアルならではの醍醐味も味わってもらう。

 そして、海外展開。どの国でもスポーツは親しまれているものだ。スポーツがあるところには必ずコーチと選手がいる。今後事業をより拡大していく上では外せないだろう。しかし、国の特徴や国民性、スポーツとの親和性など、考慮しなくてはならない問題は山積みだ。

「どのように展開していくかは慎重に考えなくてはなりませんが、最終的にはリオネル・メッシからサッカーを、デレク・ジーターから野球を、マイケル・ジョーダンからバスケットボールを教われる未来を実現したい」と与島は目を輝かせる。

 AIの翻訳精度も向上しているので、言葉の壁も解消できるようになるだろう。これまでスポーツ環境に恵まれなかった子どもたちでも、日本全国どこにいても有名選手から教えてもらえる環境が整えば、海外で活躍する日本人選手として成長できるかもしれない。

「さらに先の未来として、モーションキャプチャーなどでビッグデータを集めれば、年齢、利き手、身長、体重などから算出して、AIが最適なフォームを提案してくれる仕組みも作れると思います」と語る与島。スポーツ界に風穴を開けられるか。

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