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【スタートアップベンチャー】情報医療代表取締役 原 聖吾

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

医療をデータ化し健康な社会を作る

(企業家倶楽部2017年4月号掲載)

■アプリで診察を受ける時代

 私たちの生活に欠かせない医療。病気になれば病院まで行って診療を受けるのが一般的だ。しかし今、スマホさえあれば好きな時間に好きな場所で診察を受けられるサービスが広がり始めている。それが、遠隔診療システム「curon(以下クロン)」だ。

 仕組みは、病院側がウェブアプリ、患者側がモバイルアプリを導入することにより、両者がオンライン上でやりとりするというもの。患者はスマホ上で診察を予約、病状を記したり検査データを送ったりすることで医師の診断を受け、処方薬まで出してもらえる。決済も可能なので、病院に行くことなく一気通貫したサービスを受けられるのだ。

 病院側としては、クロンの導入費用や継続的な利用料は一切かからない。患者はスマホで決済を行った際、病名に応じて通常の診療費に若干の手数料が上乗せされるが、通院の交通費程度だという。それならば、どこにいても使えるクロンに軍配が上がろう。

 このアプリを開発したのは、2015年創業のベンチャー企業だ。その名も情報医療。代表を務める原聖吾は「我々が医療データを扱う先駆的な存在であると示していきたい」と意気込む。社員数はパートタイマーを含め10名ほどながら、医師の経歴を持つ原やAI(人工知能)に精通したエンジニアなど、高度な知見を持つ精鋭揃いだ。

 そんな彼らが行う事業は、社名の通り医療に関するデータの収集・分析を軸として二つの柱からなる。その一つが、前述のクロンを活用した遠隔診療事業だ。原はこのサービスのメリットについて「患者さん側としては、地理的、時間的に制約のある方でも診療を受けられる」と胸を張る。仕事で時間の調整が難しいサラリーマンや、身体的に病院へ行く負担が大きい人にとって、時間や場所を気にせずに診察を受けられるのはありがたい限りだ。

■継続治療をAIで支援

 ただ、遠隔診療は全ての病気に対して行えるわけではない。やりとりする情報が限られるため、診察に支障が出ない疾患領域に限らざるをえないからだ。具体的には糖尿病、高血圧をはじめとする生活習慣病やアレルギー系の疾患など、慢性的な病気の継続治療に使われることが多い。

 また現行制度では、遠隔診療は対面診療と組み合わせて行うことが条件となっている。例えば地域のかかりつけ医に定期的に通っている場合、対面診療が必要なのが半年に一回の採血時だけならば、その時以外は遠隔診療を活用するといった具合だ。

 慢性疾患における遠隔診療の活用は、病院側にとっても大きな意味を持つ。患者に継続して治療を受けてもらえるからだ。原は「継続治療を途中で辞めてしまう人は多い。生活習慣病で言えば、1年間で半分ほどの人が治療を辞めると言われている」と明かす。

 通院の手間を減らして患者が治療を受けやすくすれば、病院側も本来必要な治療を続けられ、患者も健康を取り戻せる可能性が高まる。さらに、本当に診察を必要としている患者に時間をかけて対面診療を行えるため、病院業務の効率化にも繋がるのだ。こうした理由から「クロンの導入病院数は大きく伸びている」と原。実際、東京都の山下診療所や東京ビジネスクリニックなどで既に活用されている。

 病院や患者にとって様々なメリットがある遠隔診療だが、情報医療にとっても、ウェブ上に蓄積される膨大な医療データを収集できるのは大きい。それを元に「一人ひとりの患者さんにとって最適なやりとりをAIに学習させたい」と原は語る。

 どんなタイミングでどんな言葉をかけると治療を続けてもらえたか。データを分析して、治療の継続に最適な対応を行えるよう支援するのが彼らの目的だ。医療分野でのAI活用と聞くと症状の診断支援が連想されるが、情報医療では治療の継続に着目することで他社との差別化を図っている。

■医療知識と技術の両立が強み

 このように、医療データは分析してこそ真の価値が生まれる。そこで情報医療がもう一つの柱として行っているのが、データ分析事業だ。

 同事業の顧客は、もともと医療データを持っている製薬企業や調剤薬局、保険会社のほかに、社員の健康増進を目指す一般企業も含まれる。例えば、社員の健康診断データから、病気の予防方法を提案するのだ。 この事業でも、膨大な医療データを収集できる。スマホの遠隔診療事業とデータ分析事業の二つを両輪として行うことで、データの蓄積と分析の双方を行えるのだ。そのためには医療への深い理解とIT分野の高度な技術力が欠かせない。だが、「両方を十分に備えている企業は少ない」と原。「その点、私たちは医療分野の知見とAIの専門性を持つことで、価値を出せる」と強調する。

■データ化が最適な医療を作る

「医療を仕組みとして良くしたいという想いはずっとありました」

 原は大学の医学部を卒業して医師となった後も、シンクタンクや大手コンサルティング企業へ参画、様々な形で医療・ヘルスケア分野に貢献してきた。この間でビジネススクールにも留学し、紆余曲折を経て立ち上げたのが情報医療だ。

 現在行っている事業の構想については、「医療データの分析は、医療の仕組みを良くする基盤になるとずっと思っていた」と明かす。その根底にあったのは「どんな医療に価値があるかは、病院側の意思決定や政策立案の上で肝要にもかかわらず、それがデータになっていない」という問題意識。実際、日本の診療所で電子カルテを使っているのは全体の3割ほどだと言う。医療情報をデータ化して、どんな疾患予防や診療方法に効果があるかを分析するのが原の狙いだ。

 例えば、30~40代の男性100人が日々どのような生活行動をして、その結果としてどんな病気になったかに関するデータが整理されていれば、予防などに役立てることが出来る。

 だがそのためには、医療機関のデータと生活行動のデータを連携して分析することが欠かせない。幸い後者のデータについては、ウェアラブルデバイスの普及で爆発的に蓄積量が増えている。だからこそ原は「主に医療側のデータをきちんと整備したい」と意気込む。

 実際、情報医療では既にオムロンと提携し、データ連携を目指している。オムロンの血圧計で日々測ってもらったデータを元に、スマホの遠隔診療で処方を行うのだ。

 現在は、月に一度、医療機関で測ったデータから薬の量を調整するのが一般的だが、「今は限られたデータの一部分だけで判断している。日々計測したデータを遠隔診療で医師が見る方が、患者の負担も少ないし医療の質も上がる」と原は提唱する。「医療に関する情報が一人ひとりのものとして蓄積、活用されることで、人がより健康になる社会を作りたい」

 高度な知見を持つ専門家集団が、日本の医療を大きく変えようとしている。

【企業概要】

社 名 ● 情報医療(MICIN,Inc.)

本 社 ● 東京都千代田区5番町2番町パレス402

創 立 ● 2015年11月

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