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【トップに聞く】セコム 代表取締役社長 中山泰男 

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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全員経営でお客様一人ひとりに安心を

(企業家倶楽部2017年12月号掲載)

日本に安全・安心をお金で買うという全く新しい産業を創造、「社会システム産業」として、今や一兆円企業へと成長するセコム。創業者の飯田亮氏の豁達(フータ)の精神を受け継ぎ、2016年5月に社長に就任した中山泰男氏は、矢継ぎ早に経営施策を打ち出し、更なる成長に挑む。その心は何か、中山社長の真意に迫る。聞き手:本誌副編集長 三浦貴保


問 社長に就任されて1年半弱、大変精力的に活動されてきましたが、率直な感想をお聞かせ下さい。

中山 ゴルフに例えると、フロントやレギュラーではなく、バックティーやチャンピオンシップティーに立ったようなもので、常務時代とは景色が違う。常務の時は担当ラインでなければ、言うべきことは言いましたが、やはり自分のラインを重視していました。社長は気持ちと責任範囲が違います。最後までやり遂げなければなりません。

問 最終責任者ですからね。常務の時代よりはるかにお忙しい。

中山 物理的な時間よりは気持ちですね。もう1つは、創業者の飯田の言葉「もう5分考えろ」が、大変重要だと認識するようになりました。一旦考えても、実際もう一回考えると「あの判断は必ずしも正しくなかった」と思うことがときどきあります。結論を出しても、もう5分さらに考えることを、より意識するようになりました。

問 社長に就任されるとき、飯田さんからお話しがありましたか。

中山 「まあ明るくやってくれ」と。明るく伸びやかにおおらかにという豁達(フータ)の精神です。

激動の時代は全員経営で

問 社長として、何をどのように実践してこられましたか。

中山 まずは「社員満足を原点とする全員経営」を掲げました。一般的に経営スタイルは、大きく分けると2つあります。

 1つは「俺についてこい」という経営スタイル。ボートに例えると「レガッタ」。目標が明確でコースも決まっていて、水面はなだらかですから、リーダーの指示通り一所懸命漕ぐことで、良い記録が出る。

 もう1つ対極にあるのは「ラフティング」です。これは激流の川を下るので、さまざまな方向から風や波がくる。リーダーが指示を出していたのでは間に合わない。一人ひとりが波の来る方向を予見し備えるなど、主体的に行動しないと転覆する。

 今は激動の時代ですから、一人ひとりが主体性をもって動かないと速く正確に転覆せずに辿り着くことはできない。まさに「全員経営」でないといけません。テクノロジーの進歩もこれまでとは桁が違う。第3次AI革命と言われていますが、AIをが違ってくる。

問 「全員経営」をどのように社員全体に浸透させていったのですか。

中山 就任直後にわかりやすい例として、3人の石切り職人の話をしました。「何のために石を切り出しているのか」と問われ、1人目は「石を切ってお金を貰う」、2人目は「自分の技術力を磨き、村一番の石切り職人になる」、3人目は「建設中の教会を作るため。その教会は村人みんなが集まる場となり、村の文化を創っていく。素晴らしい仕事です」と答えた。この3人目です。常に主体性があり、何のために仕事をしているか、高い目的意識を持っている。これは「全員経営」の必須条件です。

 さらに「全員経営」が成り立つには満足感を感じていないといけない。社員が満足すればこそ良質な商品・サービスが提供でき、社会から信頼が生まれる。正の循環です。セコムの社員には、社会に役立ちたいという「セコムの想い」があります。「セコムのおかげでこんなに助かっている、ありがとう」と言われるのが一番の褒め言葉なのです。社員満足を原点とした全員経営、それによってしなやかで強い持続的成長をしていきたいですね。

問 社員に向けてどのように社長メッセージを伝えたのですか。

中山 最初はメールで、その後は精力的に社内の会合に出て直接伝えています。本部長会議やラインの会合、地方にも出向き、当社のグループ企業にも出かけています。

問 やらされ感では駄目ですね。

中山 やりたい感ですよ。それぞれの主体性を発揮でき、モチベーションが上がることが大事。そのため全員経営は必然です。社員がワクワクする会社、社員が成長を感じて自己実現できる会社にしたいです。

PPAP作戦でワクワクする会社に

中山 もう1つ、PPAP作戦を展開してきました。オープンな組織にし、社員が自由闊達に語り合う組織にしていこうというわけです。ピコ太郎さんのペンとパイナップルとアップルはそれぞれ異物ですが、経済学者のシュンペータが言っているように、異物と異物が結合してこそイノベーションが生まれる。それには自由闊達でオープンな組織が必要です。イノベーションの種はいくらでもあります。

問 PPAPとは何の略ですか。

中山 最初のPはPositive(ポジティブ)。前向きに考えよう。次のPはPassionate(パッショネイト)。パッションをもってやろう。AはApproval(アプルーバル)です。お互いを認め合う。最後のPはPartner(パートナー)です。会社組織として上司と部下という関係はありますが、ベースはパートナーとして考えようということです。PPAP作戦で組織はよりオープンになりますから、一段とイノベーションが起こりやすくなる。今年の年始の挨拶で発表、様々な会合に出席し、メッセージを送り続けています。今では「この会に出てください」と社員から声がかかるようになりました。

問 お呼びがかかったところに社長自ら出向くのはスゴイことです。

中山 嬉しい話で、社員から声がかかるとやりがいがある。これも正の循環です。社員がうまく社長を活用しているわけです。

 セコムの強みは、この全員経営が社風に馴染むということです。社会を良くしたいというセコムの想いは社員に浸透しています。休日でも、道端で倒れている人に出会ったら、近くのAEDを使って助けるなど、自然と身体が動いてしまう。

 それは根底に「社会に役立ちたい」、「人々に安心を提供したい」という想いがあるからで、それがセコムの強さです。また、危機の時にはセコムには「一家総出」という言葉があって、社員が一丸となって対応します。その求心力と集中力はすごいものがあります。

問 非番でも救助するというのはまさにセコムイズムですね。

中山 常務時代から感じていましたが、社長になって一段と誇りに思うところです。

日銀からセコムへ

問 10年前、なぜ日本銀行からセコムに転身されたのですか。

中山 日銀時代に大分と名古屋で支店長を経験、民間企業の素晴らしさを感じました。日銀も金融や決済システムの安定など重要な仕事であり、ずっと日銀に勤務するのもいいが、民間企業のダイナミズムの下で仕事をして日本経済を活性化させたいとの想いがあった。

 そこで可愛がっていただいた三重野康総裁(当時)に相談すると、「セコムはどうだい」と薦められたのです。その後、創業者の飯田に会うと、「うちに来てもいいよ」と言ってくれました。「喜んで!」ということで、セコムにお世話になることになりました。それと長嶋茂雄さんの大ファンだったこともあります(笑)。

問 実際にセコムに入られて、どう思われましたか。

中山 両社には大きな共通点がありました。それは「信頼」です。日銀は信頼がなければ業務が成り立たない。同じようにセコムも信頼がないと成り立ちません。絶対に失っていけない基盤は「信頼」で、両社が一番大切にしている共通項です。

問 飯田さんにお会いになっての印象はいかがでしょう。

中山 創業者であり、無から有を生んだ方ですから、懐が深くさすがだなと感じました。奥深さと温かさとが両方ある方ですね。海外のビジネススクールでも、日本企業によるサービスイノベーションの事例として取り上げられています。これは、警備業というそれまでに無かった事業を創造した飯田亮の成し得たことがいかに大きいかを物語っています。

問 飯田代表のお話は奥深く、心を打たれる言葉がいっぱいあります。

中山 言葉の天才ですね。当社は積極的にCSRに取り組んでいますが、飯田は「社会と恋愛できる会社にしたい」と言っていました。このような名言はいっぱいあります。

問 お会いするとワクワクします。

中山 3・11の東日本大震災の時、飯田は「ページが一気に2枚くらいめくられた感じだ」と言いました。あの折は世間で「想定外」という言葉がよく使われましたが、今の我々のキャッチフレーズは「想定外を想定内に」。それがセコムの役割です。

「あんしんプラットフォーム」を推進

問 今年創業55年周年を迎え、今や1兆円企業へと成長しましたが、それだけ安全・安心の需要があったということでしょうね。

中山 その需要を創造し続けてきたと言えます。

問 以前、飯田さんが「社会システム産業」と言われたときに、よく理解できませんでしたが、結果的に今実現しているのがそうなのですね。

中山 最初は警備業として創業しましたが、社会に安全・安心を届けたいという強い想いから、根幹としてのセキュリティ事業、人の命を守るということで医療や健康分野、そして情報通信にもウイングを広げ、今では7つの事業セグメントがあります。これら複数事業分野の強みとかけあわせることで安全・安心で、快適・便利なサービスを、新たな社会システムとしてお届けしています。

問 2030年ビジョンを創られましたね。

中山 中核を担うのが「あんしんプラットフォーム」です。セコムが培ってきた社会とのつながりをベースに、セコムと想いを共にする産官学などのパートナーが参加して、暮らしや社会に安心を提供する社会インフラで、一人ひとりの不安やお困りごとに対して、きめ細やかな切れ目のない安心を提供することで、多様化する安心ニーズに応えていきます。

問 高齢者向けのサービスなど、一人ひとりにまで踏み込んだサービスを提供しておられます。

中山 一人ひとりというのは大事なポイントです。テクノロジーの進歩がそれを可能にしました。IoTやAIの進歩によって一人ひとりのニーズが細かく分かる。一方で新たなリスクも生じてきます。変わりゆく社会の中で、それらを捉えて、あるいは先んじて、変わらぬ安心を提供し続けます。そのために、セコムはこれからも変わり続けていきます。

問 「他の企業も一緒に」とは新しい発想ですね。

中山 だからプラットフォームなのです。オープンイノベーションも活用します。

問 中山社長の夢、今後の目標を教えてください。

中山 社会から「セコムがあるから助かる」と思われる企業にしたい。「気付いたらセコム」というくらい、空気のように溶け込んで、30年後、50年後「セコムのおかげで助かった。ありがとう」と言ってもらえる会社、そしてお客様の潜在ニーズを常に先回りし、サービスを創造し、社会とともに持続的な成長を目指していきます。

P r o f i l e

中山泰男(なかやま・やすお)

1952年11月生まれ、大阪府出身。東京大学法学部卒業後、1976年日本銀行入行、96 年営業局金融課長、98年大分支店長、2001年政策委員会室審議役。03年名古屋支店長、05年政策委員会室長。07年5月セコム株式会社入社、同年6月常務取締役就任。10年常務取締役総務本部長、16年5月代表取締役社長就任、現在に至る。

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