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【緊急リポート】ランクアップ社長 岩崎裕美子

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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想いの強さを試されている

想いの強さを試されている

(企業家倶楽部2020年6月号掲載)

 
子を持つ母親のリスク感覚

問 3月26日に小池百合子東京都知事が会見を開き、「都民に対して週末の不要不急の外出を自粛するよう」要請がありましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の勢いが収まりません。そんな中、ランクアップではいち早くコロナ対策を打ち出し、全社的な在宅勤務を始めました。他社に先駆けて、早い段階でそのような判断をできた理由は何ですか。

岩崎 新型コロナウイルスの感染拡大に備え、従業員の安全確保を目的として2月3日から時差通勤やテレワークを実施しました。早めに決断した理由は、やはり弊社はママ社員が多いからです。

 子供を持つ女性社員が多く、約70人の社員に対して40%に当たる30人弱が母親で子育てをしています。私自身も子供を持つ母親なのでよく分かりますが、母親は子供を守ることに敏感ですからね。また妊婦もいます。満員電車で通勤する際の感染リスクから身を守ってほしいと考えました。

問 他社に先駆けてスピーディーな経営判断でしたね。普段から危機対応を考えているのでしょうか。また、情報はどこから得ているのでしょうか。

岩崎 毎日ドラッグストアやスーパーに買い物に行くので、商品棚の数が減っているなと社会の変化に気付きました。マスクも早い段階で半分くらいに在庫が減っていたので、社員には呼び掛けていました。

 そんな折テレビのニュースで、中国の武漢で感染が広がっていて、どうやらこのウイルスは咳や人と会話する程度でも飛沫感染の恐れがあると取り上げられていました。満員電車で感染する可能性があるなら、「毎朝9時に出勤する必要はないので時差出勤にしよう、さらに在宅勤務もできるようにしよう」と決めました。

 その日は週末の土曜日でしたが週明けからテレワークと時差出勤を実施しようと2月1日に社員に伝えました。日本国内でも最初の感染者が出始めた頃だったと記憶しています。いつ自分たちの周りでも感染するか分からないという危機感がありました。

過去の体験から学ぶ

問 全社員がテレワークになった場合でも、会社の運営に支障はありませんか。

岩崎 もし無策のままで感染者が増えてしまったら困るのはお客様に商品が届けられなくなることです。2011年の東日本大震災の際は自宅待機にしたのですが、自宅では思ったように仕事ができずに苦労しました。その経験があったので、自宅でも作業ができるテレワーク制度を導入していました。その結果、すぐに在宅勤務に切り替えることができました。

問 震災の時の体験が活かされているのですね。テレワークを可能にする設備投資は高額ではなかったですか。

岩崎 テレワーク導入のコストはそれほどでもありません。それよりも有事の際に出社できない、自宅で仕事ができないことがとても心残りでしたので、ネットワークのセキュリティの壁を越えてでも在宅勤務ができるようにしました。

 緊急事態はいつやって来るか分からないので事前に準備しておきたかったのです。

 さらに、海外事業部や営業部は新幹線や飛行機などの移動中もサーバーにアクセスして仕事ができる環境にしたかったのもあり、モバイルワークと併せてテレワークを数年前から進めていたのも幸いしました。

問 普段から万全の準備をしていなかったら、いきなり「明日からテレワークを始めます」と言ってもシステムも追い付かないし、社員も戸惑いますね。ランクアップでは過去の体験から学び、数年前からシステムも導入していました。普段から準備をしていたので、今回のコロナの様な緊急事態のときでもスムーズに在宅勤務に移行することができたのですね。

 実際に全社的なテレワークを約2カ月間実施してきて、見えてきた成果は何でしょうか。

岩崎 テレワークにして問題なく運営できていますので決断してよかったと思います。良かった点は何点かあります。弊社では毎朝8時30分から朝礼をしていますが、9時30分から勤務開始の時短の社員はこれまでは出れなかったのです。しかし、通勤せずに自宅に居ればほとんどの社員が朝礼に参加できるようになりました。

 時短社員は9時30分から16時30分までと時間の制約があり、その時間内で打ち合わせを組まないといけなかったのですが、テレワークになるとフルで働いていただける人もいます。子供のお迎えの時間がなくなり、ママ社員自身に少し余裕が生まれたと感じます。

(テレワーク導入後の社内風景)

逆境を機会と捉える

問 新しい発見もあったのですね。有事が終わった後も一部、テレワークを採用するといったお考えはあるのですか。

岩崎 現状でも月に2日は在宅勤務を認めていました。新型コロナウイルス感染症の問題が終息した後でもテレワークの方が集中して仕事ができる人もいるでしょうから、日数を増やしたり、柔軟性を持たせていきたいと考えています。

問 他にも何か気付きはありましたか。もっとこうしてみたいなど、今後の課題は何か見えてきましたか。

岩崎 毎週、朝礼の後に1人8分間、自分の体験を皆の前で話す「講和」というものをしています。過去にいろいろな失敗を経て成長しましたという経験をシェアするためのものです。その後、5人ほどのグループになり感想を話し合うのですが、講和は対面の方がリアリティがあります。そばに居るからこそ温度感が伝わると思います。

 テレワークで困ることは、製品を発送するなど物理的なことです。改善する点は、コールセンターにかかってくる電話も自宅でとれるように変えていきます。さらに、21年度の採用面ではオンライン面接も取り入れました。内定者5人の内、内定を出すまでに一度も直接会わなかった人が2人います。最終面接までネットで完結しました。

 私自身も北海道出身ですが、地方の学生さんは東京までの飛行機代など交通費がかかり、気になる会社の採用面接を受けるのも大変です。オンライン面接は地方の学生は助かると思います。

問 企業家の方は常に前向きですね。有事の際も新しいこと、試してみたいことを考える機会と捉え、ポジティブな発想で困難を打開しているように思います。

岩崎 この機会に会社に集まらなくても運営していける方法を考えました。具体的には、お客様とのイベントですが、今後はオンラインで始めます。今まで「会える通販」を企画運営してきましたが、これを機会にネットで繋ぎながらもライブ感が出るようなインタビューをするなどオンラインサロンを試しています。

ミッションドリブンな企業経営

問 企業経営をしているとリーマンショックや災害など外的環境の予期せぬ変化が数年ごとに起こります。そのような有事に対してどのような心構えを持つようにしていますか。

岩崎 常にリスクマネジメントは考えていますが、実際は何かが起きた後に学びがあり、改善しようというのが実態です。前回の東日本大震災の教訓から、テレワークができるようにしようと社外に居てもサーバーにアクセス可能なVPN(仮想専用線)を導入してあったので、今回助かりました。

 有事が起こった時に潰れなかったから教訓を次に活かせるのです。今、私が思うのは、お客様のために会社を運営し続けることです。

問 事業を継続し続けるためにしていることは何ですか。

岩崎 ランクアップの企業理念は、「たった一人の悩みを解決することで、世界中の人たちの幸せに貢献する。」とあります。肌に悩んだ私が作ったのがマナラ化粧品です。引き続き化粧品でお客様をどんどん輝かせて行きたいと思います。

 さらに、「たった一人の悩みを解決する」新規事業を毎年どんどん生み出していきたいと考えています。事業を分散するポートフォリオの目的もありますが、悩みの数だけ会社を作っていきたいと考えています。

問 具体的に何か新規事業で始めたことがありますか。

岩崎 社内に新規事業創造ワークがあり、春から秋にかけて外部から講師も呼び審査をしています。発案者は自分のやりたいことを最後まで追求することができます。事業計画を辛抱強く練り続け、本当に社会の役に立つのか審査員から問われ続けます。

 そこから、新卒1年目の社員が企画した学生向けの就活スクール「ジョブランチ」という事業が立ち上がりました。彼自身が以前、自己肯定感が低い学生であり、そういう学生を救いたいという想いから生まれた新規事業です。
 就活生の悩みを解決し、理想の企業から内定を得るメソッドを教えるセミナーです。

問 次世代の経営者にメッセージをお願いします。

岩崎 24時間という皆に平等に与えられた時間があります。経営をしていると、何も悪いことをしていないのにある日突然、隕石の様に逆境が降ってきます。この15年間に何度も逆境がありました。いつも経営者は試されているのだなと思います。お客様のことを考え、日々頑張って積み上げていっても、逆境が立ちふさがり、震災や世界恐慌が起こります。

「それでも、あなたは諦めないのですか」と問われているのだと思います。だから、どんなことが起きても、これはチャンスだと思うようにしています。逆境をどうやって乗り越えれば良いのかと常に考えることができるので、そこが私の強みだと思います。

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