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【ベンチャー・リポート】 ソフトバンクワールド2017

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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情報革命を牽引する

情報革命を牽引する

ARMのサイモン・シガースCEO(右)と握手する孫社長

(企業家倶楽部2017年10月号掲載)

ソフトバンクグループは2017年7月20~21日、東京都港区のザ・プリンスパークタワー東京で、法人向けイベント「ソフトバンクワールド2017」を開催した。本イベントではIT技術に関する最先端情報を発信し、ビジネスチャンスを広げる場も提供、各分野を代表するゲストスピーカーが多種多様なセッションを行った。基調講演では孫正義会長兼社長が登壇し、情報革命のもたらす未来と、それを牽引する同社の戦略を語った。

情報革命は知能の拡張

 現代はまさに変革の時代です。情報革命は、これまで人々が想像できなかったような世界へと私たちを導いてくれるでしょう。この時代に生まれ、チャレンジできるのは幸せなことです。

 このソフトバンクワールドが始まった2011年には、皆さんに「iPhone、iPadを使っていますか」とわざわざ聞いていました。今となってはもうそのようなことを聞くまでもありません。そのくらい、たったこの6、7年で世の中は劇的に変わりました。しかし、ここから先は、もっととてつもない変革がやってきます。

 元々、最初の産業革命は18世紀イギリスで始まりました。この背景にあったのはジェントリ。ジェントルマンの語源です。彼らは王族から特権階級として土地を与えられ、その資産運用で生活を豊かに送りました。社会貢献意欲を強く持っていた彼らは、当時のインフラである道路や船にリスクマネーを投資。それが産業革命のための資金源として大いに役立ったわけです。新しい技術とリスクを取る資本、この両方が重なって産業革命が起きたと言えます。

 これまでの産業革命は、人間が持つ筋肉の力の延長でした。つまり、より速く走る、より重たいものを持ち上げる、空を飛ぶ、といった人間の五体が持っているパワーを拡張するものです。一方、私たちソフトバンクグループの志す情報革命は、人間の頭脳の働きを拡張させる革命と言えます。人にとって、手足よりも脳の方が遥かに重要な役割を担っていることは自明ですよね。私はこの知能の拡張をもたらす情報革命に大きなリスクマネーを投入し、大いなる変革を促進したいと考えています。

1兆個のデバイスを繋ぐ

 当初、この情報革命の中心は大型コンピュータでしたが、それがパソコンになり、今度はパソコン同士が繋がってインターネットが生まれ、更にありとあらゆるものに半導体チップが入ってIoT(モノのインターネット)の時代が到来しました。

 私たちソフトバンクグループが半導体設計を手掛けるアームを傘下に置いたのは、このIoT時代を見据えてのことです。世界中のスマートフォンの99%以上にはこのアームの設計したチップが入っていますが、同社はIoTの世界でも90%のマーケットシェアを誇ります。今後もアームのチップは、スマホに止まらず、家電製品、自動車など、ありとあらゆるモノに入っていくでしょう。

 ただ、多くのモノに半導体が入ったところで、これらを繋がなければ意味がありません。私たち人間は携帯電話を通じて繋がり合うようになりましたが、世界を見渡せば、まだ繋がっていない地域や場所はいくらでもあります。そこで、私たちは地球の周りに人工衛星を2000機、3000機と浮かべ、世界中を高速で繋ごうとしています。

 確かにソフトバンクグループとしては、国内で競合他社と「人間の」回線数を競っています。しかし、人が使うスマートフォンの回線数だけでは、世界シェアを100%取ってもせいぜい70億回線にしかなりません。これから私たちが目指すのは、人だけでなくモノも含めた1兆個のデバイスが瞬時に繋がる世界です。

 人同士だけでなく、人とモノ、そしてモノ同士も通信する。そこには必ず半導体チップがあり、その90%はアームが設計したものです。通信によって得られたデータは、アームの持つビッグデータのクラウドに蓄積。これを解析することで人工知能はどんどん賢く鍛えられ、更に解析の精度が向上するという好循環が生まれます。

 従来の産業革命において重要であった資源が石炭や鉄であったのに比べ、情報革命で一番必要な資源はデータだと言えます。これを先に多く得た者が、人工知能をより鍛錬することができ、勝者となるのです。

 もはや人間は、囲碁や将棋、チェスの世界では人工知能に敵いませんよね。人工知能は単なる計算や記憶に止まらず、金融、物流、医療など様々な業界で活用されるようになりました。また、人の喋る言葉を瞬時に多言語に翻訳し、車の流れを予測することで交通渋滞まで緩和しています。タクシー一つとっても、人工知能はその日の曜日、天気、近くで行われているイベントなどあらゆる情報を基に、人々が呼ぶ前に行くべき箇所を予測するという芸当までできるようになりました。

 これこそまさに知能の拡張ではないでしょうか。人工知能が人間よりも賢くなる時代は、もうすぐそこまでやって来ているのです。

人工知能は人間を超える

 私は、コンピュータの知能が人間を超える「シンギュラリティ」は必ずやってくると信じています。時期としては30年後くらいでしょうか。人間が囲碁で勝てなくなったように、記憶、推論、予測、知恵では人よりコンピュータの方が遥かに賢くなることはもはや疑う余地がありません。良いか悪いかは別として、望まずとも必ずやってくる未来です。ならば、それを良い方向に導こうと、私たちソフトバンクグループは考えています。

 従来、この人間の知能を超える知性は、パソコンやスマートフォンに組み込まれているだけでした。しかし、それらがロボットに搭載された時、彼らは私たち人間と同じように町を歩きはじめ、空を飛び、海に潜ります。そして、そのロボットたちはクラウドと繋がり、世界中に散らばる一兆個のモノと通信し合うでしょう。そうARMのサイモン・シガースCEO(右)と握手する孫社長なれば、彼らは我々を遥かに凌ぐ存在となります。

 スマートフォンとガラケーが決定的に違うように、スマートロボットと従来のロボットでは雲泥の差があります。今工場で活躍している組み立てロボットは、言わば知恵を持たないロボット。プログラムされたことだけを単純にこなし続けるロボットです。しかし、人工知能を組み込むことによって、彼らはスマートロボットに生まれ変わる。そうなれば、単純作業に従事するのではなく、自らが学習して賢くなり、よりスムーズ、よりパワフルに仕事ができるようになります。また、より優しく、人の心まで理解した行動が可能となる日も遠くありません。

 私たちは、人型ロボット「ペッパー」を世に出しました。今は「ただの操り人形ではないか」などと言われていますが、これは新しい時代への入り口に過ぎません。ペッパーは、今後どんどん進化していきます。今彼を馬鹿にしている人も、後々彼らロボットに人類が追い抜かれていくのを目の当たりにすることになるでしょう。

成功は一度の偶然にあらず

 これまでの情報革命は、単に新聞やラジオ、テレビといった古い情報産業がインターネットに置き換わったに過ぎませんでした。しかし、これからは金融、医療、交通機関、農業など、ありとあらゆる産業が再定義されます。

 ソフトバンクグループは、そうした新時代のジェントリを目指しています。テクノロジーを理解し、リスクマネーを投資するのです。事実、ソフトバンクは30年に渡り、そうして成長を遂げてきました。

 特にこの18年間の実績としては、私たちが投資したリスクマネー約1兆数千億円が、結果的に20兆円を超える巨大なリターンを生むに至ったわけです。これほどの規模で、かつこれほどの収益率の実績を出した企業は世界中なかなか類を見ないのではないでしょうか。

 こうした話をすると、いつもアリババグループに投資したことが大きかったと思われがちです。もちろん、アリババに投資できたことは私にとってラッキーでした。創業者のジャック・マーにも非常に感謝しています。

 しかし、このアリババを除いても収益率には大差が無かったという事実だけは、ここで強調させてください。それどころか、収益率の高かった上位5社を全て除いたとしても、全体の収益率としては誤差程度しか変わりません。つまりこれは、私たちの高い収益率がたった一度だけの幸運によってもたらされたのではなく、ソフトバンクグループの実力であるということを示しています。

 これまでも、アリババはもちろん、ヤフージャパン、ボーダフォンジャパンなど、弊社は投資するたびに生まれ変わってきました。アメリカのスプリントも、よく「大赤字なのではないか」と心配されますが、実際には既に収益化できています。

 私たちは単に一回打席に立って、偶然一度きりのヒットを打ったわけではありません。戦略を練り、意図的に考えて、何度も何度も打席に立ち、たくさんの空振りを重ねる中で、当たった回数の方が多かったのです。

 情報革命におけるジェントリになる。すなわち私は、今回も意図的にリスクを取りに行こうと考えています。投資の規模を拡大するため、総額10兆円のキャピタル「ソフトバンクビジョンファンド」も立ち上げました。昨年1年間における世界中のベンチャーキャピタルの調達総額が7兆円であるという事実を鑑みても、これがいかに大きな額であるかお分かりいただけるでしょう。

 時代は私たちにとって追い風です。たった10年前、世界中の時価総額トップ10の中にいた情報関連企業はマイクロソフト1社のみでした。しかし直近では、トップ10の中に既に7社もIT企業が名を連ねています。しかも、世界第7位には私たちと関係性の深いアリババグループが入っている。今から20~30年経てば、このトップ10の中にソフトバンクカラーの会社がいくつか入っていることになるでしょう。ソフトバンクはまさに新しいジェントリとして、彼らを支援し、大きく育てていきます。

 ソフトバンクグループは、ただ一つのビジネスモデル、一つのブランドで世界を牽引しようとは考えていません。同じ志、同じ想いを持つ企業家たちで集まって、皆で力を合わせて革命を起こそうというわけです。革命は決して一人だけの力で成し遂げられるものではありません。力を持っていない一般市民が、協力して旧態依然とした世界に挑戦し、これを変えていく。ソフトバンクグループは情報産業という領域から、その主軸となれれば幸いです。

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