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日本初の量産衛星打ち上げへ

日本初の量産衛星打ち上げへ

(企業家倶楽部2021年1月号掲載)

2014年に打ち上げられた「はやぶさ2」が6年の時を経て小惑星リュウグウからサンプルを持ち帰り、宇宙史に新たなページを刻んだ。宇宙が身近に感じた人も少なくないだろう。そんな中、ついにこの日がやってきた。アクセルスペースは日本初の量産衛星4機の打ち上げが2021年3月に決定したと発表した。今回はそれに伴い開催された打ち上げ予定の衛星発表イベントとアクセルスペースの「AxelGlobe」事業への想いを取材した。(文中敬称略)

 アクセルスペースは11月、出荷に向けて最終準備段階にある4機の超小型衛星の打上日について、ロシアの打上事業者、GK Launch Services社より公式に、2021年3月20日に設定されたと発表した。「この4機の衛星を日本で同時に製造することは初めてのことです。日本の宇宙開発の歴史の中でも非常に重要な機会となっています。ぜひご期待いただければと思います」と代表の中村友哉が説明する。この4機の衛星はすでに製造が終了しており、12月上旬には日本を離れ発射場であるロシアへと運ばれる。

日本初の量産

 アクセルスペースは08年に設立、民間気象情報で世界最大手のウェザーニューズ社への衛星製作からスタートし、現在約80名の社員のうち50名以上がエンジニアである。これまでに5機の人工衛星を開発し、打ち上げ、運用まで経験してきた。13年に初号機、17年に2号機と、合計2つの衛星をウェザーニューズに提供。14年にほどよし1号機を打ち上げている。

「ほどよし1号機」は、東京大学・次世代宇宙システム技術研究組合とアクセルスペースとが共同で開発し、14年に打ち上げられた超小型衛星で、50キロ級の地球観測衛星であり、6.7 mの地上分解能を持つ。これまでに3〜4000枚の画像を撮影している。50キロ級の衛星では前例が少なく大きなインパクトを与える打ち上げとなった。

 そして、18年12月にロシアのロケット「ソユーズ」により打ち上げられたのが「GRUS-1A」である。この衛星で撮影された画像を使ったサービス「Axel Globe」を19年夏よりスタートしている。ここに今回4機が追加される。

 このGRUSは2.6mの地上分解能を持ち、ほどよし1号機では農業などに用途が限定されてしまっていたが、GRUSでは都市部など幅広い活用が見込まれる。さらに4機になることで今まで2週間に1度だった観測頻度が2日に1回となり、同じ個所を繰り返し観測していくことができる。「さまざまな業界で本格的な利用が進んでいくフェーズに入ってきました」と中村は解説する。

 衛星画像で観察することで、季節変化の可視化や農作物の適した収穫期の推定ができる。さらに、ディープラーニングなどを組み合わせ、船や車のカウントなども新たな用途として予想される。AxelGlobeは解析も行い、付加価値を付けた上で、サービスとして提供していくことが特徴であり、解析の仕方によって使い方は無限大に広がる。「今まで衛星画像をどうやって使ったら良いかわからないという人と新たなビジネスを作っていくことが大事だと思っています。日々の事業開発の中で繰り返し、一つずつ実績を積み上げていきます」。

衛星画像の本格利用へ

 衛星の同型機の量産は国内初である。アクセルスペースではこれまで「宇宙機設計グループ」という1つのグループが設計からすべて行っていたが、今回は「デジタル製造推進グループ」を新設。今後量産への準備を進めていくGRUSで撮影された羽田空港進む船もはっきりと確認できる(エジプト、スエズ運河)の本格的な量産を見据えた専用チームを作り、2つのチームでの製造となった。今回の4機の生産にあたり、量産に向けてすべての工程のデータを取ることができた。今後このデータを最適化し、新しい量産への準備をしていく。すべて人間の手、習熟度だけではなく、AI等の技術を組み合わせることで「デジタル量産」で世界に挑戦していく。「少量多品種をどうやっていくかが肝です。大きな工場を建てラインを作って製造することは考えられますが、作る量が確保できないと維持できません。1機や10機程度の単位をどうパラレルで作っていけるか。事業にフレキシブルに対応できる製造スタイルを今後しっかり検討していきます」。今後10年で世界的に衛星を打ち上げていくことが加速すると予想される。アクセルスペースは今後1年以内に数十機の衛星を並行して製造できる体制を整え、GRUSの量産のみならず、世界中の顧客の衛星を製造する本格的な量産体制を進めていく。

宇宙をもっと身近に

 今回の打ち上げから3カ月以内に5機体制でのサービスを始める。さらにこの衛星が10機になると世界中どこでも1日1回撮影できる。「ここからビジネスの拡大が加速していくタイミングだと思っています。5年後、衛星のデータを使うことが当たり前の時代は必ず来ます」。数十機のGRUS衛星からなる地球観測網Axel Globeの完成は22年。その大きな一歩である21年3月の打ち上げに注目したい。

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