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【新興市場の星たち】KIYOラーニング社長 綾部貴淑

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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世界一「学びやすい」学習手段を提供する

世界一「学びやすい」学習手段を提供する

(企業家倶楽部2020年10月号掲載)

7月15日、オンライン専業の資格講座サービスを展開するKIYOラーニング社が、東証マザーズに株式上場。今注目のDX(デジタルトランスフォーメーション)銘柄ということで成長性に注目が集まり、初値は公開価格2300円の2.3倍となる5360円を付けた。「IT技術を使って学習を革新する」と社長の綾部貴淑は更なる事業拡大に意欲を見せる。人間の根本である「学び」を変革する教育ベンチャーに迫る。(文中敬称略)

魅力的な資格取得市場

 世の中には実に様々な資格がある。法律や財務、医療・福祉に語学とジャンルも多種多様で資格講座を開設している専門学校や問題集など関連書籍も多くある。人生100年時代を迎え労働年数の長期化など「生涯学習」に対する熱の高まりもあり、資格試験市場は今後も大きなポテンシャルがある。

 教育産業市場全体では2兆7000億円と裾野が広い。その中でもKIYOラーニングが手掛けている国内個人向けの資格取得と語学教育市場だけでも約4000億円あり魅力的なマーケットなのだ。

 税理士や宅建士、司法書士、行政書士、社会保険労務士など企業経営において法律で必要とされるため有資格者は重宝されてきた。その為、自らのスキルアップや更なるキャリアップのため資格取得を目指すビジネスパーソンや学生は多い。

 例えば「中小企業診断士」の資格を取得しようとすると、難易度が高いためこれまで一般的には大手の専門学校や通信講座で勉強することになる。

 受講料も約30万円と高額なうえ、働きながら試験日に向け勉強する時間を確保するのも一苦労だ。生半端な覚悟では途中で挫折してしまう人も多かった。

 そこでKIYOラーニングでは、忙しい社会人でも隙間時間を使って学べるオンライン資格講座「スタディング」を開発し運営している。価格も約5万円から始められ、年率約80%増で利用者を増やしている。

続けることが難しい

 これまでは資格取得を目指す受験生はスクールに通うか通信講座で学習する人がほとんどであった。テキストを使って講師の授業をノートに書き写し、問題集で自己採点をする。机に向かって長時間学習するのは誰でも辛い時間である。それも合格するには膨大な量の知識を学ばなければならない。受験勉強を「続けること」ができず、途中で挫折してしまう人が多いという課題があった。

 そこで同社ではどうしたら学習を「続けられる」か効率的な「学習法」を追求した。

 まず、テキストをなくし、スマートフォンやパソコンを使い、情報番組を見るように学んでいくスタイルを採用した。

 スマートフォンならどこでも持ち運べるので、通勤時間やちょっとした隙間時間を使って学習が可能だ。忙しい社会人は限られた時間を有効に使え、重いテキストを持ち運ばなくて済む。

 資格講座も社会人に人気のあるビジネス・経営、法律、会計・金融、不動産、IT、語学など幅広く27種類をラインナップ。オンライン上で無料講座を試し、コースを選択して申し込めば、すぐに受講開始となる。思い立ったが吉日、この手軽さがオンライン資格講座のメリットである。

合格者の勉強法

 受講生はどこの資格講座を受講するか選択する際に合格者数を見て決める傾向がある。既存の大手資格学校や通信講座の強みは長い歴史があり多数の合格者がいるという実績である。教育産業では「安心感」や「信用力」が一番の担保となる。

 一方のKIYOラーニングはオンライン専業の資格講座サービスを展開している。短期間で合格した人の勉強法を解析し、誰でも再現できるように学習システムを開発しているのが強みである。短期間で合格する人は、早く基本的な内容を理解し、練習問題で反復学習をしている。問題練習をしながら合格する実力をつけることが、最適な学習法であるのだ。

 スタディングでは、ユーザーの学習履歴をAIを使って統計的に分析し、一人ひとりに合った最適な学習法をアドバイスできる。従来の2時間ほどの長い講義ではなく、1講座30分ほどと短く、分かりやすい動画講座に編集されているので、集中力を持続できるのだ。講義後には必要な問題集が用意され、復習でき無理なく合格力を身に付けられるのだ。

「短いスパンを繰り返し復習すると覚え方の効率がいい」と綾部は合格者の勉強法について語る。

 年々合格者が増え、それに合わせて受講者も伸び累計で7万人を突破した。

「東証マザーズに株式上場したことで、認知度と信用度が向上することに期待しています。今後もIT技術を使って革新的な学習サービスを提供することで社会の進化に貢献していきたい」と綾部は今後の抱負を語る。

 2度の挫折の経験「かくいう私も過去に中小企業診断士の資格取得を目指し、2度挫折しました。しかし、その失敗の経験が起業へとつながっている」と綾部は創業の経緯について語る。

 1971年生まれの48歳になる綾部は大学を卒業後、会社勤めをしていた。将来、起業したいと考えていた綾部は一念発起し、中小企業診断士資格に挑戦しようと思い立った。通信講座に申し込むと大量のテキストや問題集が入った段ボールが送られてきた。テキストを開くがどう進めていけばいいか分からず挫折してしまった。

 数年後、懲りずにまた2回目の挑戦をするが、多忙のため学習時間を確保できずに続けることができなかった。その後、学習法や心理学に関心があり、関連書籍を読み、セミナーに参加し、今までの「学習法」が間違っていたことに気付いた。

 そのひとつに「マインドマップ」がある。頭の中にあることを言語化し、体系化するのだ。受験日までに学習しなければならい項目を可視化することで、全体を俯瞰して把握することができるようになった。効率的な学習法を身に付けた綾部は3回目の挑戦では余裕を持って合格することができた。

挑戦が好き

 もともと起業志向があり、ビジネスモデルを100個作ったこともあった。より実現可能な事業とするならば「自ら失敗した経験があり、お金を払ったことがあるものがいいだろう」と考えた。

 綾部は小学高学年の頃からコンピューターに関心があった。友人の家に遊びに行くとNEC製の高額なPCが使われずに置いてあった。綾部は貯めていた小遣いを全額渡して、そのPCを譲り受けた。付属で付いていたゲームにすぐに飽きてしまった綾部少年は、プログラムを書いてゴルフやフライトシミュレーションゲームを自作していた。

「幼心に頭で考えたことは実現できる。思い描いたことは形になる」と経験的に知った。この頃から何かをプランニングすることが習慣になり、得意分野となった。性格的にも決まったことをするより、他に良い方法があるだろうと、新しいことに挑戦することが好きであった。今日の様に起業するのは必然であったといえるだろう。

 2008年、世の中で音楽のダウンロードサービスが流行りだした頃、資格講座を音声にしてダウンロードする事業からスタートした。まずまずの滑り出しだったが、講座数を増やし横展開を図ったが想像したようには売上げが伸びなかった。

 ガラケーから変わりスマートフォンが普及した段階で、音声から動画コンテンツへ舵を切った。スタジオを開設し、自ら講師を務め、通勤時間に学習できるソフトウェアを開発した。この決断がターニングポイントになった。

 音声ではスケールしなかったが、動画コンテンツにすると中小企業診断士以外の講座も受講生が増えるようになった。

「学び」を革新する

 人間は何も知らずに生まれ、学ぶことで成長する。つまり生きるとは「学ぶ」ことなのだ。そして、何か新しいことを学ぶときに壁になるのが、「続けること」が出来るかどうかである。現代人は多忙で阻害要因が多く存在する。

 KIYOラーニングは、「学び」を科学し、IT技術を使って革新する稀有な存在である。

「私たちのミッションは『学びを革新し、誰もが持っている無限の力を引き出す』こと」と綾部は崇高な使命を語る。

 そのために、世界一「学びやすく、分かりやすく、続けやすい」学習手段を提供することを目指している。社員には、自らが成長意欲の高い、学んでいく集団であり続けることを求めている。

「KIYO Learning  WAY」という行動指針を作り、雑音に惑わされず、顧客志向で価値を提供するために最大限に努力することを掲げ邁進する。

「学び」と真正面から向き合い、人間の無限の可能性を広げようとする骨太の教育ベンチャーKIYOラーニングから目が離せない。

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