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【第12 回 企業家賞 記念講演録】企業家大賞 Eコマース革命賞 楽天 代表取締役会長 兼社長 三木谷浩史 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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楽天フェデレーション戦略

楽天フェデレーション戦略

(企業家倶楽部2010年10月号掲載)

~国際展開の方針~

徹底して英語化するという、大胆な国際化戦略を掲げる楽天。2010年度第12 回企業家大賞に選ばれた楽天会長兼社長の三木谷浩史氏は、日本で磐石な基盤を持った上で国際的な展開を推し進めている。ブランドコンセプトと成功の5つのコンセプトという価値観の共有、ベンチャーマインドと徹底した実行力を兼ね備えた人材育成を重要視する「楽天主義」とは如何なるものか、その真実を明かす。

日本企業をやめて日本に拠点を置く世界企業になる

 楽天は2012年度末までに英語を「グループの公用語」とする方針を表明しました。つまり徹底して英語化するということです。日本のマーケットが少子化の影響を受ける中、生き残る道は大胆な国際化戦略しかありません。それも単純な事業戦略だけでなく、日本企業であることをやめ、日本に拠点を置く世界企業になるということです。

 国際化戦略というと、「国内の成長が止まったから海外へ出るのか?」と聞かれますが、楽天では両方がうまく成長中です。1997年2月に創業して14年目になりますが、昨年の売上高は約3000億円、経常利益は約550億円と増加しており、さらに大きくできると見ています。つまり日本で磐石な基盤を持った上で国際的に展開をするわけです。それが正しいかどうかは歴史が証明してくれるでしょう。

 では、なぜ海外へ出るのか。たとえば地域別のGDPシェア予測を見てみると、グローバルにおけるアジア地域のシェアは2006年の24%から2050年には53%へ、金額にすると48兆ドルから155兆ドルへ拡大すると予想されます。ところが日本のGDPシェアはバブルの頃は18%だったものが、06年で12%、今年はさらに下がって1桁。50年には3%にまでシュリンクすると見られています。そんなふうに著しく下がる日本だけでビジネスを行なっていくのか、それとも世界を相手にするのか。答えは明らかでしょう。それに世界を相手にすることで、日本国内のサービスがレベルアップするのも事実です。

 また各国のEC(ネット通販)化比率を見ても同様です。これにはいろいろな資料がありますが、たとえばイギリスのEC比率は7.3%、ドイツは3.9%、アメリカ3.5%、フランス2.9%。そして日本は1.7%です。つまり日本はネット後進国なのです。こうした実状を背景に、楽天は海外展開する国・地域を現在の6から将来的には27にしたいと考えています。また現在のグループ全体の売り上げのうち海外は1%で、残り99%が日本ですが、これも将来は海外比率70%を目指します。

 そのためにドラスティックな3つの戦略的方向性があります。①各大陸のハブとなる国でしっかりしたビジネスを展開する企業を買収するか、ジョイントベンチャーを行なう、または自分で作って事業を立ち上げ、全方位型に拡大する。②地域統括拠点から周辺国へ進出し、各地域での拡大を狙う。③楽天市場から参入し、順次、楽天トラベルや楽天証券などその他のサービスへ拡大する。その3つです。

 楽天はフランスでナンバーワンのECサイトなどを運営する「PRICEMINISTER(プライスミニスター)」や、アメリカ有数のネット通販サイト「Buy .com(バイ・ドット・コム)」を完全子会社化しています。また中国検索最大手「百度(Baidu)」と合弁企業「楽酷天」を設立しました。ちなみに「楽」は「ハッピー」、「酷」は若者の言葉で「クール(かっこいい)」、「天」は「デイ」です。さらに台湾ではコングロマリット企業「統一超商」と合弁企業を設立。タイやインドネシア、その他4カ国へも年内に進出する計画です。

 新たな戦略オプションとしては、進出地域・国の現状に合わせて3つのモデルを複合的に展開していきます。楽天のB to Bto Cモデルは店舗育成、地域貢献型。また「プライスミニスター」は、安全・安心型Cto C。これは成長市場や個人間取引で有効です。一方、「バイ・ドット・コム」は販売主として品質保証をする在庫非保有直販モデル。こちらは黎明期・新興市場で有効です。この3つのモデルを国によって使い分け、あるいはコンビネーションで活用して、将来的には27カ国で展開していきます。

すべてを国際化し 世界で「楽天主義」を徹底させる

 ここで改めて「なぜ国際展開するのか?」という質問に答えるならば、それはマーケットが大きいことに加えて、成長率が高いからです。2008年から2012年までの各地域のBto C EC市場の伸び率を見てみると、アメリカが17・2%、フランスが19・0%、中国は実に109・3%ですが、日本は10・2%。となれば成長率が高いところでビジネスをしたほうがいいわけです。さらに2020年には世界全体のEC市場は71兆円(日本のEC市場は6兆円)になると見込まれているので、ある程度のリスクがあっても進んで行くべきです。

 さて楽天の経営モデルは「サービスモデル」「オペレーション」「戦略」「行動規範」「テクノロジー」から成ります。これが「楽天主義=楽天WAY」。行動規範や倫理観、品性高潔、大義名分などを重んじる骨太な考え方です。たとえば月曜日の朝会や掃除といった行動規範が共有できれば海外でも問題はありません。また楽天の成功モデルは国内の各事業間という横軸で、ノウハウをすごい勢いで共有するというもの。これが成功の秘訣です。同様に日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国、その他アジアと、海外の各国間でもノウハウを共有します。そのために必須なのが英語です。そこで2012年度末までに社内コミュニケーションを完全英語化することにしたのです。

 現在もまったく日本語のできない外国人を新卒採用していますが、インド人なら3カ月、中国人は6カ月で日本語がぺらぺらになります。日本人は中学校から大学まで1週間に5時間として3000時間も英語を勉強しているのに、話せない。しかし必死になればできるのではないでしょうか。その英語が話せないと、たとえば「百度」の社員が来日しても会議がわからず失望するし、技術者派遣もできません。それでは海外拠点との交流のない会社になってしまいます。だから日本語至上主義ではだめなのです。

 そこで楽天ではすべての国際化を目指します。役員会議や経営会議、毎週の全体朝会、さらに社内資料も段階的に英語化し、人事や開発、ITインフラなども国際化を促進します。一方、パリやカリフォルニア、ニューヨークなど海外の拠点でも有志を募り、週1回2時間程度の日本語教室を行なう予定ですが、みんな興味を持っています。こうしてお互いに努力をしなければならないのです。

 その成功のためには先ほどの「楽天主義」を徹底しなければなりません。ブランドコンセプトと成功の5つのコンセプトという楽天の価値観を共有し、ベンチャーマインドと徹底した実行力を兼ね備えた人材へと育成することが重要です。たとえば右胸の社員章、全体朝会後の朝礼などまで世界で徹底できねばなりません。そうしてこそ世界で成功できるのです。それが同じユニフォームを着るということであり、楽天ファミリーの一員になるということです。それをさせられるかどうかが、世界企業に自立させつつ統治するためのリトマス試験紙です。

 楽天の国際化に加えて、日本が変わるための一番有効な打ち手は日本中の人が英語を話せるようになることでしょう。グローバル経済で日本が生き残るには一人一人が国際化をすること。そのために英語が必要であるのに、実状は英語を学んだ3000時間をドブに捨てている状態です。今回の楽天のアクションが様々な企業に伝播して、日本の英語教育の見直しへの大きな流れになるといい。それを温かく見守っていただきたいと思います。

P r o f i l e

三木谷浩史 (みきたに ひろし) 

楽天代表取締役会長兼社長。

1965年生まれ、45歳。兵庫県出身。1988年一橋大学商学部卒業後、同年日本興業銀行入社。1997年2月㈱楽天を創業、同年5月、インターネットショッピングモール「楽天市場」を開設、日本最大のイーコマースに成長させた。2000年JASDAQ 上場。その後、インフォシーク、楽天トラベル、楽天証券、楽天クレジット等の参画により業容を拡大、インターネットの総合サービス企業として成功。インターネットを使ってエンパワーしていくことを目指す。2004年、50年ぶりに新規球団東北楽天ゴールデンイーグルスを設立。

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