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【編集長インタビュー】ハウステンボス 澤田秀雄

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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3回頼まれると断ることが出来ない性格

3回頼まれると断ることが出来ない性格

(2016年1/2月合併号掲載)

ハウステンボスの再建を始めてから5年が経った。2015年9月期の取扱高は354億円、経常利益104億円を達成。今では九州観光をも牽引するほど業績は好調だ。しかし、かつては開園以来18年間、赤字経営であった暗い過去を持つ。誰も救いの手を差し伸べる者はいなくなり、万事休すかと思われた2010年、ベンチャーの雄、エイチ・アイ・エス創業者澤田秀雄が支援を表明。すると、わずか1年で事業は好転し黒字化を達成。事業再生の難しさから、その奇跡は「澤田マジック」と呼ばれている。天性の企業家、澤田秀雄の経営スタイルと信条を聞いた。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)

難しいことほど挑戦したくなる

問 ハウステンボスの事業再生はお見事でした。今では、事業再生の代名詞にもなっています。黒字化の秘訣はどこにあるのか、誰もが知りたいところですが、事業再生の依頼があった当初は2度ほど断ったそうですね。しかし、最終的に要請を受けました。その理由は何ですか。

澤田 支援要請を引き受けた理由は3つあります。まず、私は人から3回頼まれるとなかなか断れない性格です。(笑)

 ハウステンボスを支援して欲しいとの話があり、1度断りました。2度目は役員会にかけたのですが、役員は全員反対でしたので丁寧にお断りしました。そして、3度目はアポイントさえも断っていたのです。しかし、佐世保市長が朝一番にアポイント無しで来られた。入り口で待っておられて、ばったり出くわして手紙を受け取りました。それが1つ目の理由です。

 2つ目は今まで銀行や証券会社など様々な事業再建をしてきて、自分がやらなくていいことまで沢山関わってきました。今回も難しそうですが、関心がありました。そこで実際に現場を見に行くと、建物が本物でした。このようなヨーロッパの雰囲気がある建物はなかなか作れないと思いました。それを潰してしまうのはもったいない。数千億円を掛けて作ったものなので、可能性がある案件だと思いました。ビジネスは簡単ではないから挑戦したくなる。ベンチャー魂というか、チャレンジ精神ですね。

 3つ目は、エイチ・アイ・エスは観光事業で育ててもらいました。もし、ハウステンボスがなくなると九州の観光は大打撃を受けます。この再建を通して、観光のお手伝いが出来て、地元の雇用が少しでも助かるならと思いました。しかし、やはり2つ目のチャレンジ精神が一番大きな理由かもしれません。

問 事業建て直しのためにハウステンボスに1カ月の内半分は住んでいると聞きました。初めてハウステンボスに乗り込んで行った際には、スタッフに何を話したのですか。

澤田 スタッフ全員に集まってもらいました。「皆さん、何のためにテーマパークをやっているか分かりますか」と最初に問いかけました。「お客さんに喜んでもらい、感動を与え、楽しんで頂く素晴らしい仕事です。世の中のためになっているのだから、自信を持って仕事して下さい」とまず話をしました。

「私が今から話す3つのことをすれば黒字になります。私一人では出来ないから、皆でやりましょう。達成したらボーナスを出します」と伝えたのです。

夢・目標を語る

問 なるほど、スタッフを勇気付ける対話から始められたのですね。次に具体的に何か以前と変えたことはありましたか。

澤田 次にハウステンボスはどこに向かっていくのかと言う将来の夢と目標の話をしました。「5年後には100億円利益の出る会社にしましょう。皆でエベレスト登りましょう。高い山に登るためには、次の3つを騙されたと思って皆でやっていきましょう」とお願いしました。

 私はこれまで多くの会社を見てきました。発展している会社はオフィスや工場、レストランのキッチンが綺麗です。レストランが汚いところにお客さんは来ないし、汚い工場は発展していません。以前はハウステンボスも、あちこちサビがあって、お金がなくて修理はしてなかった。

「せっかく来ていただくお客さんに綺麗な所を見てもらいたい。私も掃除しますから、朝来て15分だけ、皆で掃除しましょう」と言った。

 2つ目は、雰囲気が暗かったですから、とにかく明るく元気に接客しようと。すぐには変わらないでしょうが、取り敢えずお願いしました。

 最後に、「経費を2割下げましょう」と話しました。何をカットして、合理化するかなど具体的な施策を説明しました。合理化・効率化という言葉が難しい人には、「とにかく早く歩こう」と話しました。園内は広大ですから、自転車や電動カーを使い、移動を早くすることで経費を2割削減し、その分予算を増やして良いイベントを開催する。それに尽きます。

問 スタッフの反応はどうでしたか。また、約束のボーナスはいつ頃出ましたか。

澤田 それまで社長が9回も変わり、経営は長く赤字で、ボーナスも10年間一度も出ていませんでした。

「また新しい社長がやって来て、2年ほどしたらお手上げで帰ってしまうだろう」といった感じで、現場は活気がありませんでした。しかし、私が朝の掃除を始めるとスタッフも掃除をするようになった。出来るだけ明るく振舞い、元気に挨拶をすると段々変わってきました。明るい挨拶のある会社が爽やかでいいですよね。優しいだけではないですよ。お客さんが来る表は掃除されていても、スタッフのいるバックヤードが掃除されていなければ、「何度も言っているのに何してるんだ!」と厳しいことも言います。

 ボーナスは2010年4月に再生を始め、6カ月で黒字化出来ましたので、1年目の12月には出しました。

問 僅か半年で黒字化とはあっぱれ。さぞかし現場のスタッフも喜んだことでしょう。プロ野球チームだって、弱小チームを変えるのには3年は掛かるといいます。この話を受けるときに現在のような好調な業績を予想されていましたか。

澤田 始めてすぐに結果が出て私も助かりました。社長が話したことを出来なかったら説得力がなくなります。これはマジックでも何でもなくて、皆の努力があったからです。

 自信があった訳ではありません。引き受けるときに、「もし3年頑張っても結果が出ないときには、辞めさせてください」と市長には話をしました。本体のエイチ・アイ・エスに悪影響が及ぶといけません。

 ですから、ハウステンボス再建を始める前に市長には3つのお願いをしました。1つ目が、3年間、必死にやってダメだったら撤退させて欲しい。2つ目が、しばらく経費削減のために固定資産税をカットして欲しい。3つ目は、是非多方面で、行政には環境局など関係する部署があるので、観光予算を使って応援してくださいとお願いしました。事業再建は、総力あげて取り組まないと難しいので、協力してもらえれば私も一生懸命やりますと市長と約束しました。

訪れると元気になる王国

問 最近は中国や台湾、韓国など日本国内だけでなく、海外からのお客も多いようですね。澤田社長から見て現在のハウステンボスの状況はどうでしょう。

澤田 海外向けに何か特別な企画をしているわけでは無いのですが、ハウステンボスは九州・四国・中国地方の人気テーマパークとして、ナンバーワンに3年連続で選ばれています。イルミネーションは3年連続で日本一に選ばれています。その結果、九州に旅行に来た人にとって外せない場所になっています。当然、旅行会社が企画するツアーにも組み込まれています。

 また、集客力があるのでドラッグストアなど小売業からもハウステンボス内に出店したいという話を頂きます。ココカラファインさんには「儲かるかどうか分かりませんがいいですか」とことわって出店してもらったのですが、中国からの観光客が「爆買い」して繁盛しています。うちのスタッフも利用していますが、どんどん便利になり、生活しやすいようになってきています。温泉もあるのですよ。

問 澤田社長が最近、最も力を入れていることは何でしょうか。

澤田 来園して頂くと、1年中、季節の訪れを告げる四季折々の花たちが迎えてくれます。園内は広大ですから、花を見て歩いているだけでも、気付いたら5000歩位は歩いています。他にも「光の王国」や「ハウステンボス歌劇団」があり、アトラクションを見て回るだけでも自然に体を動かしており、健康に良いですよ。綺麗な花や若い人が一生懸命に歌って踊るショーを観賞すると、年配の方が元気になると言ってくれます。

問 「健康と美」をテーマにしたアトラクションもあるそうですね。

澤田 はい、今後力を入れていこうと考えています。園内に健康レストランと野菜工場を作りました。地元の無農薬野菜と新鮮でバランスの取れた長崎の地産地消メニューを提供しており、評判がいいです。ベンチャー企業の技術で我々も野菜を作っています。LED照明で土を使わず栽培液で育て、季節を問わず生産できます。

「健康と美の王国」では、ゲーム感覚で健康チェックもできます。人によって体質も違いますから、まず健康チェックして、何が足らないのか、血管がどうだとか、簡単な検査ができる装置を用意しています。その結果に応じて、足りないものは品揃え国内最大級の「健康食品とサプリの城」で補えます。

 医食同源ですから、新鮮で美味しいものを手頃な値段で食べられるようにしようと、園内のレストランをどんどん良くしています。ハウステンボスでは、花や音楽、ショーに触れて、心身共に健康になってもらいたいですね。


profile 澤田秀雄(さわだ・ひでお)1951年大阪府生まれ。高校卒業後、旧西ドイツマインツ大学に留学。80年インターナショナルツアーズ(現エイチ・アイ・エス)を設立、95年株式を店頭公開。96年スカイマークエアラインズを設立、98年新規参入を果たす。99年協立証券を買収し、エイチ・アイ・エス証券(現エイチ・エス証券)を設立。2004年6月エイチ・アイ・エス会長。モンゴル銀行、ウォーターマークホテルを展開する。10年4月ハウステンボス社長就任。16年エイチ・アイ・エス会長兼社長就任。99年第1回企業家大賞を受賞。現在は企業家賞審査委員長を務める。

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