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【著者に聞く】 TomyK Ltd. 代表取締役&Founder 鎌田富久 氏 

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

今こそ起業へ踏み出す時

今こそ起業へ踏み出す時

テクノロジー・スタートアップが未来を創る ~テック起業家をめざせ~
東京大学出版会 (本体価格1600円+税)


(企業家倶楽部2018年4月号掲載)

ACCESS共同創業者で現在エンジェル投資家の鎌田富久氏が、投資先テクノロジー・ベンチャー企業の事例を交えつつ、「なぜ今、起業家が求められているのか」「そもそも起業するとはいかなることか」を丁寧に解説。全ての挑戦者の背中を押す。また本書では、最先端テクノロジーを知り尽くした著者だからこそ見える技術の未来についても語られる。

スタートアップにチャンス到来

問 本書を書かれた動機を教えて下さい。

鎌田 まず、テクノロジー系のベンチャー企業を増やしたいという思いがあります。近年、増加傾向にはありますが、まだまだ発展途上。今回は主に若者向けに書いており、彼らの背中を押すのが一番の目的です。

 また、大企業の中でもイノベーションの機運が高まっています。しかし、具体的にはどうしたら良いか分からず、事業に結び付いていないケースも多い。そこで使えるヒントが、スタートアップの中にあると考えたのもきっかけです。

問 社内ベンチャーなど、大企業においてスタートアップの活力を引き出す上で必要なことは何でしょうか。

鎌田 主に3つあります。まず、経営陣のコミットメント。そもそも上層部がそうした活動を認めている必要があります。2つ目は、既存の組織とは異なる特別なルール。権限委譲し、責任を持たせる仕組みです。既存のルールに縛られていては、スピードが無くなってしまいますからね。そして3つ目は、社員の本気度。本当に起業家として事業を立ち上げようと思っているのか、その心意気が大切です。この3つが揃えば、社内で起業したい人が思いきり挑戦できると思います。

問 増えてきているとはいえ、起業する方はまだまだ少数派です。

鎌田 それは起業家が身近にいないことが一番の原因かと思います。友人・知人が何人も会社を立ち上げていれば、起業という選択肢が自然と生活の中に入ってきます。最近は東京大学出身で起業する人が増えて来たので、「それなら自分もやってみよう」と指数関数的に起業家が増加することを期待しています。そのためにも、私は成功事例を作りたい。成功者と自分の距離が近ければ、「あいつに出来たのなら俺でも出来るかもしれない」というモチベーションにも繋がりますからね。

問 起業したいと思っている人が断念してしまうこともあります。

鎌田 理由として、資金や仲間が揃わないなどの障害が挙げられるでしょう。ですが、お金に関しては少額でも会社を興せるようになってきています。近年は政府も様々な助成金を出しています。更に、ここ数年大手メーカーの調子が悪く、大企業に入ったからと言って必ずしも安泰とは言えない時代になって来ました。スタートアップは今がチャンスです。

問 起業に際して、技術力や人材などお金で解決できない部分はどうすれば良いのでしょうか。

鎌田 それは努力して粘るしかありません。こうすれば必ず出来るという正解は存在しない。ただ、技術を使って製品やサービスを自分たちで作り上げ、ニーズ自体を提案していくやり方は、上手くいけば大勝できます。ゼロからマーケットを作り出す以上、競争相手は皆無ですからね。

 一方、課題解決型という方法もあります。課題が先に分かっていて、それをテクノロジーの力で解決するやり方です。課題がはっきりしている分、競合も出て来やすいですが、ニーズがあることは確実です。スタートアップの王道はこの課題解決型でしょう。

学生の起業にリスクは無い

問 若者の心境にも変化がありますか。

鎌田 今の若い人たちは物欲があまり無いですよね。生まれた時から豊かですし、一人っ子だったり、兄弟が少なかったりして、両親が手厚く育ててくれます。そのため、かえって欲しいものが無いわけです。結果、お金を稼ぎたいというより、自分のやりたいことや志が大切になってきているかと思います。

問 自分自身のやりたいことは、どのように見つければ良いのでしょうか。

鎌田 学生からもよくされる質問ですが、こればかりは色々やってみる中でしか分かりません。いきなり起業せずとも、チームで何かに取り組んだり、ビジネスコンテストに応募したりするのが良いと思います。最近は副業を認めている企業も増えて来ていますから、環境は整ってきたと言えるでしょう。

問 著書の中で、学生が起業するのにリスクは無いと書かれていました。

鎌田 人生100年時代ですし、20代の2、3年など誤差です。しかし、新卒一括採用の流れがありますから、そこから外れて起業するのにかなり勇気がいることは確かでしょう。

 中には大企業に就職してから2、3年経って起業する方もいますね。大企業に入ると仕事が上から与えられるため、特に若いうちは、自分で最終決定して切り拓いていく経験が積めません。失敗しても痛手にならない程度に小さくスタートして、早い時期に起業を経験するのは良いことだと思います。一回失敗しても、またやり直せば良いのです。

幅広い視野と熱意を持て

問 テック起業家の強みと弱みを教えて下さい。

鎌田 強みは、自分の研究領域についてよく理解していて、自分の言葉でアピール出来ることです。一方で弱みは、エンジニアや研究者はどうしても視野が狭くなってしまうことだと思います。それをパートナーが補完するのも一つの手ですが、技術の実用化を目指すなら起業家自身も幅広く物事を見ることが大切です。更に、エンジニアや研究者はオリジナリティを大事にするため、他人に相談しない人が多いことも問題です。自分一人で考えることが良いという風潮があり、人の真似は良くないと刷り込まれています。しかし、ビジネスをしていく上で他社の良い部分は積極的に真似すべきです。

問 起業家に望まれる資質の部分で、「素直で頑固」「楽観的で堅実」「自信家で謙虚」という逆説的な表現をされていたのが印象的でした。

鎌田 成長する人は素直に他人の意見を取り入れる力があります。ですが、もともとやりたいことの軸は決してブレません。いちいち失敗にめげていたらキリがないので、楽観的に構えるべきですが、一方で大失敗すると取り返しがつきませんから、堅実さも求められます。また、自信家でなければ投資家や社員、ユーザーを説得することは出来ず、しかし謙虚でなければ人の上には立てません。難しいですが、どれも起業家にとって必要な要素ですね。もし経営陣が複数いるなら、役割分担をしても良いかもしれません。

問 最後に、起業を考えていない人に向けてもメッセージをお願いします。

鎌田 今はスタートアップを起こしやすい環境ですし、イノベーションが望まれています。新しいことに挑戦するには良い時期だと思います。方法は何でも良いですが、本書が一歩踏み出すきっかけになれば幸いです。日本には優秀な方が多いですし、その力を是非イノベーションに向けていただきたいですね。

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