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【トップの発信力vol.5】佐藤綾子のパフォーマンス心理学

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

2秒であなたは見抜かれている

(企業家倶楽部2011年8月号掲載)

 人はどれくらいの時間で、相手の個性や心情を見抜くのでしょうか?

 私の貴重な実験室データがあります。モデルとなった7人の大学院生に、簡単に1分間で自己紹介をしてもらい、その顔を撮影します。そのうち、たった2秒間だけの映像を切り取り、音声はすべて消去します。この動画を、これまで累計2000人以上の弁護士、医師、薬剤師、学生などさまざまな人々に見せ、7人の性格を単数回答で書いてもらったのです。

 その結果、たった2秒間でも、この7人の個性は、ものの見事に見抜かれていました。しかも、その回答は、映像を5秒、10秒と延長しても変わらなかったのです。誠実な人、優しい人、努力家、頼りない人など、さまざまな7人の実態がたった2秒の顔の表情によって、正確に読み取られていたのです。

 2秒はほんの一瞬です。このことが今回、菅直人首相の浜岡原発に対する一連の言動でも、とてもはっきりとわかりました。

 日本人の対話時間中の平均的なまばたき回数は、これもまた私の実験室データで「1分間あたり37・66回」(約38回)。不安があったり自信がない時は、まばたき回数は増加します。

 菅首相の絶え間ないまばたきは、読者のどなたもお気づきでしょう。自信がなく自分がやっていることに戸惑いがあり、首相就任以来、まばたき回数は増える一方でした。

 5月6日の夜、唐突に記者会見を開いて「浜岡原発を停止する」と発表した時も、やはり彼のまばたきは、1分間に50回を超えていました。停止すると言ったものの、どうなのかと誰もが思ったことでしょう。

 しかし、菅首相が最後に、壇上を降りる直前に記者団の顔をじっと見回した時、不思議なことにまばたきは止まっていました。これは、例えば舞台上で、主演俳優が「見得を切る」のと同じで、自分の統率力がものをいう大切な見せ場だと認識していたからでしょう。結果、中部電力側には大変な苦渋の決断となりましたが、最終的に首相提案を受け入れることにしました。

 さて、その受け入れが決まった時の菅首相の記者会見です。この「主演俳優」は、得意でたまらないというふうにホッと口元をほころばせ、今までとは打って変わってまばたきを止めてカッと記者団を見つめ返し、浜岡原発停止を発表したのです。ドラマの一場面のようでした。自分の筋書き通りにことを運んだという「自己高揚感」と「自己顕示欲求」、「支配欲求」、さまざまな感情と欲求がいっしょになって、まばたきがぐっと減ったのです。鼻腔も膨らみ、得意を物語っていました。

 結局、トップが不安であったり得意であったりすると、その表情を注意深く見た人は、たった2秒でも見抜いているのです。私のような専門家は、2秒どころか1秒に満たない時間でも、その人の感情に気づきます。

 トップはいつも見られています。そうであるならば、きちんと自分のポリシーを設定し、それに基づく表情コントロールが必要でしょう。

Profile

佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。連載月刊誌8 誌、著書162 冊。18 年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰(体験)も好評継続中。

連絡先:information@spis.co.jp

詳細:http://spis.co.jp/seminar/

佐藤綾子さんへのご質問はi n f o @ k i g y o k a . c o m まで

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