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【モチベーションカンパニーへの道】マーケットエンタープライズ 社長 CEO 小林泰士

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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お客様とWinWinな関係性を築く

お客様とWinWinな関係性を築く

マーケットエンタープライズ 小林泰士社長
(企業家倶楽部2020年1・2月合併号掲載)

 カバンや服など不要なものはフリマアプリで売る。何か欲しいものがあれば、オークションやフリマアプリで探してみる。数年前には考えられないほど、私たちの生活にリユースが浸透している。このリユース業界で右肩上がりに成長し、今期100億円まで売上を伸ばす見込みで、旋風を巻き起こしている企業がある。それがマーケットエンタープライズであり、社長を務めるのは小林泰士だ。(文中敬称略)

電話一本で査定価格が分かる
 マーケットエンタープライズは主にネット型リユース、メディア、通信の3本の事業を展開しているが、収益の多くを占めるのがネット型リユースである。当社のリユースは、リユースセンターへの持ち込み、宅配、出張買取で個人から商品を買取り、店舗ではなく、販売サイト「ReRe(リリ)」で売るというシンプルなビジネスモデルである。なぜ群雄割拠なリユース業界で成長を続けているのか。それは利用者を第一に考えた仕組みがあるからだ。

 リユースを利用する場合に障壁の一つとなるのが、店頭でないと査定価格が分からないということだ。査定価格に納得がいかなくても、査定した店員さんがいる手前、断り切れずにその価格を飲んでしまうことは多々ある。そのような悩みを解決するのが「事前査定」という仕組みだ。

 電話で買い取って欲しい商品の情報を伝えるだけで、その場で「○○円」と査定価格を教えてくれる。価格はその場で決めているのではない。各商品ごとにデータ化されている落札価格、確実に売れて利益の取れる買取価格に基づいて査定価格が決められているのだ。

 もしその価格に納得をすれば、その場で出張・宅配買取の手続きが可能だ。「消費者の心配の種であった金額の部分を伝えることで、売りたくなければそこで電話を切ることができます。お客様からすると透明感のある売却になるのは良いでしょう」と小林は語る。

幅広い買取で差別化

 さらに利用者が気にするのは「買い取ってくれるのか」ということだ。リユースショップに持っていっても、「古いから買い取れません」や、「取り扱いのない商品です」と言われて、泣く泣く商品を捨てたという経験をした人は多いかもしれない。しかしマーケットエンタープライズは違う。

 家電やカメラといった一般的にどの店でも買い取りを行うものから、エアガンや美容機器、カーナビなど、取り扱いが少ないニッチなものまで全部で29の買取専門サイトがある。まさに他のリユースショップが買い取ることができない幅広い商品を取り扱っている。

 幅広い商品を取り扱うことが認知され、事前査定を行うコンタクトセンターには日々、様々な問い合わせが来る。その問い合わせの中から新たな買取サイトを開設することもある。最近では、農家、建設会社、医療事業者からの多数の問い合わせを受け、農機具、建機、医療機器それぞれの買取サイトを開設した。

 買取範囲が多様化したことによる変化について小林は「今まではリユースというものは個人から買い取り、個人に売るというC2B2C(C=個人、B=法人)が一般でした。ですが今は農家や建設会社などの事業者から買い取るようになってきたので、B2B2Cという形になってきています」と分析する。「ITを駆使した事前査定」、「多様な商品の取り扱い」は手間がかかり、多くのリユース企業はやりたがらない。しかしそれによって多くの消費者が不便さを感じていた。マーケットエンタープライズがこの領域に挑戦するのは「お客様とWinWinな関係性を築ける商売」に小林が拘っているからであろう
 
WinWinなビジネスをするために起業

 小林が「WinWinな関係性」を意識するのには理由がある。大学卒業後、ベンチャー企業に就職した。入社当時は営業がどんどん物を売ってくる時代で、小林も1年目から通信機器や不動産など様々な商品を販売した。しかし、営業活動をしていく中で、小林はお客にとって最適とは言えない商品でもより多く売ることが、会社では評価されるという構造に疑問を抱いていた。つまりお客とWinWinの関係性で仕事ができていなかったのである。

 そう思った小林は、WinWinな事業をするため、会社を退職し100万円を握りしめて仲間とマンションのリビングでマーケットエンタープライズを創業した。初めに小林が目を付けたのが電池だった。創業当時は使い捨てカメラが普及しており、撮影後はつど処分していた。しかしその本体の中にアルカリ電池が入っており、それを100本単位で売るという「格安電池ドットコム」をスタートさせた。「もともと捨てるものなので利益率は100% 。お客さんは日本一安く電池を買うことができますし、それに加えて環境に優しい。これでやっとWinWinなビジネスができるぞと思った」と小林は当時を振り返った。

 しかし出来たばかりのサービスはうまくいかなかった。小林は毎日のように秋葉原で飛び込み営業を行ったり、時にはフリーマーケットを行脚して販売を重ねた結果、月30万本を出荷するまでに成長した。

 次に目を付けたのはフリーマーケットであった。学生時代からフリーマーケットが好きであったことに加えて、電池を売るために様々なフリーマーケットに参加し多くのノウハウが貯まったため、「楽市楽座」というサイトを立ち上げ、それを集客ツールとして全国でフリーマーケットの運営を始めた。

 フリーマーケットの運営をしている中で、小林はあることに気付く。会場で売られているモノのほとんどが服や雑貨などの安価な商品ばかりで、高価なモノや大型のモノは売られていなかったのである。その気付きから小林はネットを通じて多種多様な商品を取り扱う現在のネット型リユース事業をスタートさせた。「創業から消費者とWinWin の関係性かどうかを考え続けた結果が現在に至るのでしょう」と小林は語った。

 マーケットエンタープライズの企業理念は「WinWinの関係性が築ける商売を展開し、商売を心から楽しむ主体者集団で在り続ける」である。これは小林が起業前夜に思い浮かべていたことだ。

賢い消費が主流に

 ここ数年でリユースの市場は大きく成長した。「メルカリ」や「ラクマ」といった同業のサービスが世の中に浸透し、今までリユースに関心がなかった主婦や学生が利用したことも大きい。しかしそれ以上に、「個人の価値観」が昔と比べて大きく変化したことも無視できない。
 今までは「所有すること」が普通であり、かつ、新品で買うことに重きを置いていた。しかし、シェアリングが流行していることからも分かるように、「所有すること」の価値が低くなり、自分が持っているものが「再販価値があるか」に重きを置くようになった。つまり、購入・消費行動に「賢さ」を求める、「賢い消費」をすることが主流になっている。

 このように人の価値観が大きく変わっているが、「賢い消費を望む消費者に様々な選択肢を提供できるような新しい形の商社、最適化商社を作っていきたいですね」と小林は胸を張って答えた。今後時代の追い風を受けてさらに拡大するであろうリユース業界。益々マーケットエンタープライズから目を離せない。

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