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【我が社のユニークネス】ベステラ 代表取締役社長 吉野佳秀

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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本物の技術で世界市場を獲る

(企業家倶楽部2017年12月号掲載)

発電所など巨大プラントの解体を手掛けるベステラ。2015 年9月2日、東証マザーズに上場し、2017年9月14日付けで東証一部上場を果たした。今回は吉野佳秀社長に同社の成長エンジンとなっている豊かな発想力と、これを涵養するためのユニークな施策について聞いた。

問 東証一部上場おめでとうございます。

吉野 ありがとうございます。

問 御社は資金も潤沢で、顧客にも恵まれています。それなりのコストを費やしてまで上場を目指されたのはなぜでしょうか。

吉野 世間的な認知度・信用度を向上させる意味合いが大きかったですね。私たちの技術は、火力発電所の解体など大きな工事に力を発揮するものですから、取引先は必然的に大手企業となります。しかし、彼らに提携の話を持って行っても、「下請けの技術など使うわけにはいかない」と断られるのが常でした。

 特に電力会社は、経費を積み上げた上に利益を乗せて電気料金にできるため、大幅なコスト節減をせずに済んだ。少なくとも東日本大震災までは、いくらお金がかかっても、その負担は消費者によって賄われるシステムでした。したがって、わざわざ頭を下げてまで小さなベンチャー企業の技術を使うという発想はどこにも無かったのです。

 それならば私たちは、自らの力で特許を取り、会社を大きくしていく他ありません。あえて上場という道を選んだのは、このためです。

世界展開を見据える

問 御社は海外展開も視野に入れておられますか。

吉野 もちろんです。発電所などのプラント施設は、日本国内だけでなく世界中にあります。私たちが手掛けるのは、火薬で爆破するような乱暴な壊し方ではなく、「早く、安く、安全で、知らぬ間に建物が無くなっている」と驚かれるような美しい解体ですから、必ず世界に通用するでしょう。私たちは、主要な特許は全て世界特許として出しています。日本企業が見向きもしなくても、海外勢は私たちの技術を評価してくれるかもしれませんからね。

問 海外と言いますと、具体的にはどこになりますか。

吉野 真っ先に特許を出すのは英語圏かつ市場の大きいアメリカでしょう。ヨーロッパは、それぞれの国の言語で特許を申請せねばなりませんから大変です。

問 世界に競合他社はいるのでしょうか。

吉野 本業の片手間で解体を行っている建設会社はありますが、私たちのように解体を専門としている企業は無いと思います。

 弊社は解体の実行部隊を持っていません。解体技術のノウハウを提供した上、現場監督と技術者のみを派遣して、実際の解体は協力会社にお願いしている。海外展開が成った際にも同様に、現地企業と提携関係を結んで、解体を進めていくことになります。

解体競争は始まっている

問 中国など国土が広く、14億人近い人口を抱えていますから、プラントも多いのではないですか。

吉野 中国の発電プラント市場は魅力的です。彼の国は今、環境問題に力を注いでいます。地球温暖化を食い止めようというパリ協定に関しても、アメリカのトランプ大統領が反対する一方、中国の習近平国家主席は積極的ですからね。

 そうした中、中国で稼働しているほとんどの発電設備は旧型の石炭火力発電です。発電効率としては37~8%。東京湾にあるLNGを利用した最新火力発電が、発電効率54~5%であることを考えても、旧型の施設は解体が必要となります。

 もちろん、これは日本においても同様で、約40%の発電効率しかない古い石油火力発電所の解体を進めなければなりません。1kwの電気を発電するのにかかるコストは、LNG火力13・4円、石炭火力12・9円、水力11・0円、原子力10・3円などに対して、石油火力は約30~40円と圧倒的に高い。しかも、この発電によるCO2排出量も多いとなれば、壊すしかありません。

 日本政府が発表しているエネルギー構想でも、2010年時点で全体の7.5%を占めていた石油火力発電を2030年には3%まで引き下げることが目標とされています。たった4.5%と思われるかもしれませんが、これは東京電力だけでもボイラー約30基を壊さねばならない数字で、その解体工事は既に決定事項です。

 こうした環境改善の流れの中で、解体すべき火力発電施設は日本中、世界中にあります。だからこそ、この解体技術を早く確立し、輸出していかねばなりません。

早く、安く、安全な解体を

問 火力発電施設の解体方法として、御社独自の手法があるのでしょうか。

吉野 火力発電所は建屋の上からボイラーが吊るされている構造となっています。火を焚いた時、一気に1500℃になると鉄が伸びる。その時に下がつかえないようにしてあるわけです。

 しかし、これを壊すのは大変。従来は、建屋の上部を支点としてボイラーを地面まで吊り下げ、それを達磨落としする形で解体していました。ただ、これではボイラーは壊せても、外側の建屋が残ってしまいますよね。

 そこで別の企業が考えたのは、建屋を覆うようにもう一つ巨大な箱を作る手法です。そして、発電施設を建屋ごと吊るし、下から切っていきます。すると、建屋もボイラーも一緒に下がってきますから、達磨落としすれば全て解体可能という寸法ですが、当然お金も時間もかかります。

 私はこの二つの方法を聞いて唖然としました。重さ1万トンのボイラーを支えるため、建屋はしっかりとした柱を無数に持っています。ということは、これらの柱の下部を一つひとつジャッキに置き換えていき、徐々に下げては切る作業を繰り返せば、自動的に建屋とボイラーを一緒に解体できるではありませんか。

問 それならば余計な手間もかからず、安全ですね。今後は御社の工法が主流になるのでしょうか。

吉野 残念ながら、これからしばらく主流となるのは、大型の重機で荒々しく切って下に落としていく解体方法でしょう。当然この工法には危険が伴いますし、腸を抉るようなやり方は個人的にも好きではありませんが、安価という面では一応メリットがあります。電力会社も、これまではジャッキを使った丁寧な工法で解体していましたが、もはやそのコストを払えなくなってしまったのです。

 ただし、こうした手荒な工法ばかりに頼るわけにはいきません。高所から物が落ちれば、もちろん相当な音がしますから、近くに民家があれば苦情が出るでしょう。また、隣に稼働中のボイラーがあれば、通常以上に安全性を高めなければなりません。

 そこで「早く、安く、安全に」をモットーとした解体を手掛けるベステラの出番です。私たちならば、周りの方々がいつ壊したのか気付かないくらい大人しく工事を完遂できる自信があります。なにも、全てのシェアを取ろうとは考えていません。ただ、安全かつ丁寧な工法が求められるケースは多々ありますし、それが本流となる時代は間違いなく来るでしょう。

何でもありの勉強会

問 御社では社員に自由な発想を促す場として、毎週火曜日に「卵の会」という勉強会を開かれていますね。これは、吉野社長や社員の方が、新しい工法などの提案をする場となっているのでしょうか。

吉野 たまに特許などの話をすることもありますが、基本的には何でもありの勉強会です。参加自体、強制ではありませんし、手を挙げれば誰でも好きなことを発表して良いことになっています。これまでにも、戦国武将、重力波、材木の切り方など、あらゆる分野が議題となってきました。

 担当者だけは決まっていますが、テーマが予め発表されることは無いため、発表者以外は事前準備ゼロ。あとはプレゼンを聴いた上、その場の思い付きで議論します。毎回、12~3人は参加しているのではないでしょうか。

問 吉野社長からすれば、どんなこともビジネスの種なのですね。

吉野 私たち企業家の原点は商売人だと思っています。商売人は、儲かるかどうか理屈ではなく肌で感じる。レストランに入っても、その店が儲かっているか否か瞬時に判断できます。お昼の稼ぎ時に3回転するのか。20分ごとにお客が入れ替われば、2時間で6回転しますから大したものです。あとは商品の値段と原価、客単価なども見ています。

問 「卵の会」の議題の中で実際の事業に繋がったケースはありますか。

吉野 人材紹介事業と3D計測事業の二つです。前者はその名の通り。後者は3D計測スキャナを使用し、プラントなどの施設を三次元データ化するサービスです。プラントは建設から時間が経過しているものも多く、修理・改築などを繰り返した結果、正しい設計図が分からなくなってしまっている場合もあります。そんな時、私たちの3D計測サービスを利用すれば、改めて正確な三次元図面が手に入るというわけです。解体事業とも親和性が高く、期待しています。

 その他にも、電力会社と共同で考案した技術の特許を出すなど、私が関わっていない案件も見られるようになってきました。私は常々「新たな仕組みを考えろ」と言っておりますが、そのDNAが少しずつ若い世代に受け継がれつつあります。

問 いつ頃から「卵の会」を開くようになったのでしょうか。

吉野 もう10年以上前からです。業務時間が終わってからも仕事の話ばかりしていましたから、「せっかくなら缶ビールの一本ぐらい飲んで、和気あいあいとやろう」ということになったわけです。最初は社外から様々な分野の方を呼んで、異業種交流会という形で開催していました。ただ、他の会社では飲むわけにいきませんから、「ベステラで開きましょう」と提案して、弊社内で始めたという次第です。

巨大風車を簡単に倒す

問 「卵の会」では知識の幅が広がりそうですね。

吉野 色々と勉強する中で分かったのは、本当に信じられる技術はきわめて仕組みが単純だということです。多くの方が安易に新しい技術に飛びつきますが、本物の技術には「同じ条件を与えれば、誰が何回やっても同じ結果が出る」という科学的に立証された再現性が無ければならない。

問 具体的な事例として、「本物の技術」についてご説明いただけますか。

吉野 私たちは現在、地上にある風力発電の風車を簡単に倒す特許を申請しています。世界中には何万という風車があるのですが、そのうちの何%かは動いていません。古くて発電効率の悪いものも加えれば、約2割は壊さねばならない状況です。

 作る時は良いのです。山の上に道路を敷き、大きなクレーンを運び入れ、立てれば良い。しかし、20~30年を経た現在、道は荒れ、風車の周りには木が生い茂っている。それを改めて切り拓き、新たに道路を作り直し、クレーンを運んで行って壊すのが果たして得策でしょうか。

問 とても効率的とは思えません。その状況下で風車をどのように壊すのでしょうか。

吉野 まず前提として、風車は高さが約50~60メートルあり、地下に埋まっている4~5メートルの土台によって支えられています(図1)。

この土台はコンクリートで出来ていて、下には大きな杭が打ってありますから、当然このままでは倒れません。さて、立っているものを倒すには、重心を移動させる必要があり、これをいかにしやすくするかが肝となります。そこで私は、地中の部分を考えました。

 まずはコンクリートの土台を、地面と平行の向きに真っ二つに切断(図2)。

次に、土台の部分をうまく斜めに切ります(図3)。重心に影響の無い範囲までしか切っておりませんので、これではまだ倒れません。

 あとは斜めに切った先の下の部分を支点とし、ジャッキを噛ませて少しばかり持ち上げれば、頭の重い風車はスムーズかつ安全に倒れます(図4)。下には立派なコンクリートの土台がありますから、これにしっかり支えられ、座屈することもありません。

 こうした風車は山中にあるため、土台を掘るのも容易ですし、水が出てくることも無い。振動や騒音を気にする必要もありませんし、むしろ景観が良くなって地域の方には喜ばれるでしょう。そして倒しさえしてしまえば、残る解体はいかようにもなります。

 これこそまさに科学の力です。風車を倒すため重心移動をするには、どこにどのような力をどの程度かければ良いか。2~3分説明すれば誰もが簡単に理解できる「本物の技術」と言えます。

作った人には壊せない

問 御社の鮮やかな工法にはいつも驚かされます。

吉野 私たちは常々「作った人には壊せない」と説いてきました。彼らは必ず足場を組み、クレーンを置いて壊そうとする。それは作った時の逆を辿っているのです。しかし、私たちはクレーンや足場を使わないことを是としています。

 その代り、私たちは今そこにある力をお借りします。例えば、重力という地球の力もその一つです。今や弊社の代名詞ともなった「リンゴ皮むき工法」も、球体のガスタンクを上から輪を描くように切ることで、鉄が自らの重みでとぐろを巻いて地面まで降りてくる現象を利用しました。先ほどご紹介した火力発電所の解体であれば、無数に立つ建屋の柱があるではないですか。風車を倒したいならば、そこにある立派な土台を使わなくてどうします。

 クレーンや足場を多用する解体は余計にお金がかかりますし、工期も長くなる。すると、高い所に人を長く上げ続けねばなりませんから、危険性も高まります。だから私たちは、「なるべく人を高所に上げない。足場を組まない。クレーンを使わない」と口を酸っぱくして言います。

 早く、安く、安全に。これが壊す人の力です。ものを作る人たちは壊すことをやりたがりません。彼らは良いものを作り上げる願望が強いため、壊すのは本能的に嫌なのです。「作る」と「壊す」は全く別の次元の仕事だと思った方が良い。それがやっと世間にも分かりつつあると感じています。

P r o f i l e

吉野 佳秀(よしの・よしひで)

1941年、愛知県生まれ。1974年にベステラの前身である組織を法人化し、プラント解体事業に特化したベステラを設立。当時は名古屋を拠点としていたが、2002年、東京に本社を移転。2004年7月、「リンゴ皮むき工法」の特許を取得。2010年4月、解体ロボット「りんご☆スター」開発。2015年9月東証マザーズ上場。2017年、9月東証1部に市場変更。第18回企業家賞ベンチャー賞受賞。

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