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【孫泰蔵のシリコンバレーエクスプレス】MOVIDA JAPAN代表取締役兼CEO孫 泰蔵氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

最新アメリカ西海岸情報 魅力あるオフィスが差別化になる

(企業家倶楽部2012年6月号掲載)

■世界最高峰の頭脳が集まるスーパープレゼンテーション

 今回はロサンゼルスで、年に一度開催される話題のイベント、TEDに参加してきました。TEDとは、「テクノロジー」・「エンターテインメント」・「デザイン」の頭文字を取ったもので、Idea sworth spreading ( 広める価値のあるアイデア) をコンセプトに、世界中の様々な分野の第一線で活躍する人物が集まるカンファレンスです。動画を使ったプレゼンテーションはどれも飽きさせず、ユーモアに富んだ素晴らしいものです。まさに人類の英知の結集と言えるでしょう。

 しかし、誰でも参加出来るわけではありません。参加するには論文審査を受けなければなりません。私も忙しい中、せっせと論文を書いて提出し、さらに約70万円近い参加料を払い参加資格を得ました。過去には、元アメリカ合衆国大統領のビル・クリントン氏も講演したことがあります。

 TEDは2009年から東京でも開催されています。今年は6月に第4回目のTED × Tokyo2012が開催される予定なので注目です。おそらく今後日本でもブレイクすることでしょう。

 TEDでは、コミュニティを作ることが一つの目的で、世界に広めるに値する各界の世界最高峰の頭脳が集まるため、参加者もスピーカーも誰でも繋がりを持て、濃いネットワークを作ることができます。詩人や社会科学者など幅広い分野のトップらおよそ100人が面白いプレゼンテーションを1週間を通じて行います。

 TEDはビジネスに偏っているわけではなく、文学や芸術、宇宙物理学など様々な人類の英知の最前線が集まり、ここからビジネスが生まれることもあります。またベンチャー投資家も多く集まっているので投資を促す動きもあります。T E Dは1984年に設立され2006年からプレゼン内容をYoutube などを通じインターネット上で無料で動画配信するようになり、その名が広く知られるようになりました。もちろん、日本語にも翻訳されている動画がたくさんアップされているので、一度ご覧になることをお勧めします。参加者は限られていますがネット上で誰でも自由に見ることができます。今やダボス会議と並び影響力のあるイベントになっています。

■ロボットが世界を変える

 ペンシルベニア大学のヴィージェイ・クーマーさんというインド人の飛行ロボット研究を紹介しましょう。4つのプロペラが付いたヘリコプターのようなロボットです。ロボットの4つのプロペラはコンピュータ操作で一つ一つスピードを変えられます。上手くスピードを制御することで自由自在にロボットを動かすことが出来ます。小さく敏捷なロボットは群れを作り、互いの存在を認識し臨機応変にチームを組んで建設や災害時の調査など様々なことをこなせることでしょう。

 さらにカメラを取り付けて画像認識の技術を取り入れ障害物があればよけられるようにしました。ロボットは自力で状況を判断し自由自在に動くことができます。原子力発電所の事故処理でも活かしてもらうべく福島に送ると言っていました。開発者は昆虫のアリを見て小さな生き物が共同で大きなことをやっていることにインスパイアーされ、同じロボットを何機か作りお互いが均等な距離を保ち動こうとするプログラムを書きました。原理もわかりやすく説明し、互いに隣のロボットの位置を監視しながら隊飛行する動画を見ました。編隊の形を変えることもできます。小さなヘリコプターが数十機、一糸乱さずに編隊飛行するデモはまるでスターウォーズやアバターのような世界ですね。

 さらには機体にレーザーを付けスキャニングし、障害物がどこにあるかロボットが記憶し、建物の構造を立体的に把握します。最後は彼らロボットだけで6種類の楽器を演奏してくれましたがそれはもうスタンディングオペーションものでした。飛行ロボットの技術はエンターテインメントや教育をも大きく変えることでしょう。こうした研究成果はベンチャービジネスに繋がります。私自身もロボットは絶対に次の5年?10年の中で新たな産業として栄えると思います。私たちが思った未来は意外と近いところにあります。TEDでの体験は驚きの連続でした。

■サンフランシスコがHOT

 現在サンフランシスコでスタートアップを支援する500Startupsという組織と提携しています。250社くらいに投資しており、ただ今2号ファンドを作っています。今のところ1号ファンドもとても良い成績なのでますますこれから規模を大きくしていきます。おそらく500社もあっという間に超すでしょう。何かトレンドがあるわけではなく多種多様なベンチャー企業がたくさんあります。

 my Gengo という会社を紹介しましょう。日本で起業した翻訳サービスの会社です。クラウド(crow d・群れ)ソーシングというシステムを利用しています。世界中の様々な言語を操れる人たちに登録してもらい、翻訳の依頼が入ると彼らに投げます。するとあっという間に驚くほど安い値段で翻訳してくれます。しかもお客様は一度も会う必要がなく全てネット上で完了します。手紙1枚だと25ドルですので、約2000円ほど、Eメールだと700円、ブログだと1000円くらいで翻訳できます。

 以前に比べるとシリコンバレーよりサンフランシスコにベンチャー企業が集まっています。純粋な技術系の会社はシリコンバレーに集まります。最近はどのような会社もセンスがないとみんなに使ってもらえないのですが、特にゲームなどのコンテンツやセンスの問われる事業は「あんな田舎に行きたくない」とシリコンバレーを避け、サンフランシスコの市内にオフィスを構える傾向があります。

■遊び心と胃袋を掴む魅力的なオフィス

 最近上場したジンガという会社もサンフランシスコにあります。創業して5年も経っていませんが一万人を越える社員を抱えています。主にフェイスブックなどで利用されるソーシャルゲームを開発しています。お洒落なカフェやテーマパークのような巨大ビルのオフィスはアメリカでも話題になりました。これからはオフィスも個性を持ちオフィスこそ具現化する時代になります。よくあるグレー一色のオフィスではクリエイティビリティは生まれません。嬉しいことにご飯は食べ放題です。優秀なエンジニアの採用は競争が激しくなっています。インド人の社員が多いのでチーフカレーオフィサーもいます。優秀なインド人のエンジニアの心をつかむための工夫ですね。(笑)

Profile 

孫 泰蔵 (そん・たいぞう)

1972 年、福岡県西新生まれ。佐賀県鳥栖育ち。96 年、東京大学在学中に、日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」のコンテンツ開発のリーダーとしてプロジェクトを総括。その後、数々のインターネットベンチャーを立ち上げ、日本のネット業界の活性化に貢献。2009年、MOVIDA JAPAN 株式会社を設立。これまでの成功体験と失敗経験を活かしてベンチャー企業の創業・育成支援を手がける。現在、若手ベンチャーへの支援プログラム、Seed Acceleration Program を推進。

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