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【トップの発信力】佐藤綾子のパフォーマンス心理学第16 回

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

人を巻き込む”第一歩

(企業家倶楽部2013年6月号掲載)

 自民党の45歳以下の政治家が集結した「自由民主党青年局」が今、注目されています。その80人あまりのメンバーの頂点に立っているのが、小泉進次郎氏です。この青年局からは、現在の安倍晋三首相をはじめ、歴代の何人かの自民党総裁が輩出されました。
 進次郎氏は、どこに行ってもどんな演説をしても、聴衆からヤンヤの拍手を浴びます。“人を巻き込む”その技術を解明しましょう。
 2年前に出版した自著『小泉進次郎の話す力』(幻冬舎)の中でも詳細をお伝えしましたが、簡単に6点の「巻き込み技法」を紹介しましょう。会社でもちょっとした集まりでも、必ず使える技法です。

“人を巻き込む”6つの技術

1.「視線のデリバリー」

 演説を成功に導くためには、聴衆全体に目配りを怠らない「視線のデリバリー」が大事です。話を届けたい相手一人ひとりに、視線を均等に分配していく。進次郎氏の街頭演説でデータを取ってみたところ、10分の間に平均で右を35回、左を33回見回していることがわかりました。演説の名手・オバマ大統領と同じ技法です。

2.「どこからきたの?」
 彼はどこへ出かけても、自分のまわりに集まってきた人を「どうやって巻き込むか」で、才能を発揮します。
 例えば、進次郎氏が中年男性に「どこからお出でですか?」と聞いて、「いや、ちょっと遠いんですが、隣の市ですよ」と答えが返ってくると、「それは遠いところからようこそ」と返します。
 ちょうどそこへ小学校低学年の子どもが走ってきました。「ぼく、どこからきたの?」「あっち」。すると、彼はちゃんと子どもの目線と自分の目線が同じになるように膝を折り、「あっちなんだね」と指差します。そばではお母さんがニコニコ。子どもとの会話が、ひと言ふた言と進んでいる間に、人だかりが彼のまわりにできました。
 こうして小さい子から働き盛りの男性、子を持つ女性までも、次々と巻き込んでしまうのです。これが「ブリッジング」と呼ばれる、相手との間に橋をかける技法の第一歩です。

3.「相手の情報を調べておく」

 前もって相手のことを調べておくと、直接会ってから相手が一気に自分のファンになってくれるような話ができます。 
 例えば、進次郎氏はある時、慶応大学の論語研究の集まりに招かれました。ちょうどその日が早慶戦。すると、「今日はたまたま六大学野球で、ノーヒットノーランで、竹内大助選手が初勝利をあげましたね」。これで慶応贔屓はヤンヤと湧きます。次は何を話すのだろうと、聴衆が一気に巻き込まれていくわけです。事前に調べておかなければ絶対に話の糸口として使えない話題です。 
 愛媛県に行った時も同じく、「実は、今日は演説のために、マイマイクを持ってきました」(ポンジュースをグイっと飲んで「うまい!」)。これは、愛媛県がポンジュースのメッカだということを調べていなければ使えません。 
 このように、どこへ行くにしても徹底的に調べ、時によっては、その土地の方言も使いこなしてしまいます。愛媛県新居浜市では、「こんなに暑いのに、ようけ集まってもろうて本当に嬉しいけん」といった具合です。 
 ビジネスシーンでも、会って早急に要点に入れば、相手はまず心を開かないのです。前もって調べ、相手にかかわる重要な話を使って口火を切れることが「巻き込み技法」なのです。

4.「年長者巻き込み作戦」 
 いくら優秀だと言っても、まだ若い進次郎氏が年長者に対してあまり尊敬の念を見せなければ、たちまちなんかのしっぺ返しを食います。これは会社でも同じでしょう。

 特に政治の世界は、年功序列や先着順の意識が強いので、さらに用心が必要です。その点でも、進次郎氏は見事と言うしかありません。 
 例えば、父親の小泉純一郎氏については、「プレッシャーがまったくない、と言ったら嘘になります。でも、父のことを言われて、それが嫌ということはないですよ。父があってこそ、今の僕があるわけですから。なぜマスコミがこれだけ小泉進次郎を取り上げたり、注目してくれるのかと言ったら、それは小泉純一郎抜きには語れません。それに、なぜ政治家を目指したかといえば、やっぱり父が政治家だったことは大きいです」。 
 年長者で息子がいる人は、これだけでもシビレます。「親の七光り」と言われることに反発せず、むしろこうした父親への折り目正しさを見せていくことで、年長者は本当にホッとするのです。 
 埼玉県新座市へ演説に行った際には、あまりの暑さに皆が上着を脱いでいる中で、彼だけはジャケットで話し通し、その折り目正しさがまた年長者の好感度アップに繋がったのでした。

5.「にこやかさ」 
 初対面の人に仏頂面で会うか、にこやかな笑顔で会うか。それは、ビジネスマンでも政治家でも大きな問題です。 
 私の知る限り、仕事のできない中間管理職には仏頂面が多すぎます。「なぜ、もうちょっと自分の顔の表情に気を遣わないのか?」と、その人と話す意欲が削がれることさえあります。 
 ニコニコして、「あなたと話したい」というメッセージを表情から発信する人には、聞き手が巻き込まれていきます。努力してでも、いつも笑顔でいましょう。

6.「飽くなき勉強心」 
 選挙が近づいてくると、何かとテレビ番組に出たりして、自分の顔を売りたがる議員がいます。 
 しかし、テレビ局側が難攻不落だと手こずるほど、進次郎氏はテレビに出たがりません。イメージ上の作戦ももちろんありますが、何よりも「ムダを削って勉強したい」というのが本心でしょう。 
 国会答弁や応援演説からも明らかですが、進次郎氏は実によく人の名前、固有名詞、数字を正確に暗記しています。だから、話の中に細かな数字がどんどん出てくるわけです。他の議員が質問しながら、つい机の上の資料を見て確認するような大きな数字でも、彼は顔を上げたまま話し続けています。数字が完璧に頭に入っているからです。 
 勉強することによって、話す内容を徹底的に掌握し、実際の場面では常に相手の顔をきちんと見つめたままで話すこと。これで良いアイコンタクトが期待できます。 
 読者の皆様も、彼の「巻き込み技法」にチャレンジしてみてください。聞き手が最初から注目してくれて、その後の話をよく聞いてくれます。その結果、ビジネスと人間関係がグングン向上します。



誰でも真似できる「巻き込み技法」入門

 1◆ 視線のデリバリー: 聞き手をきちんと見る( 1分間あたり32秒以上)
 2◆ 言葉がけのブリッジング:「 どこから来たの?」
 3◆ 情報収集のブリッジング:「 ご当地ネタ」

 4◆ 友人への敬意を表する◆ 父や自民党の先輩への尊敬を堂々と口にする

 5◆ 初対面で親しみを表現する◆ 明るい表情で笑顔をつくる

 6◆ 飽くなき勉強心をもって学び続ける◆ 不要な仕事やつき合いをカットして時間をつくって学ぶ

Profile 佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『プレジデント』はじめ連載9誌、著書170 冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。19年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はinfo@kigyoka.comまで

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