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【トップの発信力】佐藤綾子のパフォーマンス心理学第18 回

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

「あなたは見られている」対人距離15メートルで見えるもの

(企業家倶楽部2013年10月号掲載)

 先日、企業家ネットワークの授賞式がありました。その時に、壇の脇に並んで座って控えている受賞者の企業トップの方々の顔と身体つきを見ていたら、不思議なことに気づきました。

 皆さん、年齢も顔の骨格も肌の色も髪型もお召になっているスーツも違うのに、共通した大きな特徴が2点あったのです。

 それは、「姿勢」と「顔」です。詳しく言えば、姿勢と顔から発信している「オーラ(aura)」が、他の人とまったく違ったのです。

 仕事ができるから素晴らしいルックスになるのか、ルックスが良いから素晴らしい仕事ができるのか? ルックスが良いからといってビジネストップに躍り出るということは、男性の場合は少ないでしょう。では、ビジネストップはルックスが良いという言説は成り立つのでしょうか? 

 結論を言えば、「成り立つ」のです。

 授賞式当日、居並ぶ受賞者が一人ずつ壇上に上がってスピーチをしました。壇上でまずマイクの前に立つ。その瞬間に、実は勝負アリ、です。

 毎日の仕事がおもしろくないと感じている人や、自分の夢や希望が見つからない人の背筋は、おおむね丸くなり、頭部は垂れて、うつむきがちになるのです。一方、この受賞者たちは一斉に胸筋を上げ、したがって視線も高く上げ、背筋を伸ばしていたのです。

 この「姿勢」と「視線」こそが、人に与える第一印象を形成する大きな材料なのです。

 さて、この姿勢というものは、相手から見てどのくらいの距離でわかるものでしょうか?

 姿勢の良し悪しは、相手に対する距離15メートルの地点ではっきりとわかります。これは実際に、私が大学の卒論ゼミの学生たちと、御茶ノ水駅の聖橋口前で大がかりな実験をした結果です。

 これは、「遠方から駅に向かって歩いてくる人々の姿勢を、どのくらいの距離でキャッチするか?」を質問票によって調査したもので、相手が15メートルの距離までくると、「元気のいい人か、元気がない人か」「成功している人か、失敗している人か」などを判断できることがわかりました。

 人は「姿勢」から、さまざまなメッセージを発信しています。相手が自分の目の前にまで来なくても、離れたところでわかってしまう。これは大変恐ろしいことです。

 そうなると、遠くからも常に多くの人々に見られている可能性のあるビジネストップは、「背骨」と総称される一連の脊椎のつながりを、どう操作するかが大事な課題になってきます。

 ダランと力を抜いてお腹を突き出して立ったり、背中を丸めて座るのはイメージダウンであり、同時に話の説得力が伝わりません。

 頭頂部の「百会(ひゃくえ)」と呼ばれる中心部分を、天に向かって引っ張られている感覚で引き上げ、足裏は地面の中に引き込まれる感じで、その上下の引力によってスッと立つ。

 そして、自分のやっていることや自分のルックスに対して自信がある、という「自己肯定感」の高さを、全身で発信しましょう。これが、15メートル先から見えるパワーとリーダーシップのあるトップの姿勢です。

 その日も受賞者が壇上でスピーチをすると、ステージだけがライトアップされ、会場は全体的に壇上よりも暗くなりました。この照明の明暗によって、壇上の人々の表情はより鮮明に印象づけられることになります。

 しかも昨今は、ちょっと規模の大きい会場の多くには、前方あるいは両サイドなどの何箇所かに大型モニターがあります。すると、スピーカーの表情が大画面に映し出されるわけです。

 その時に最も目立つのは、「目の光」です。目が生き生きと輝き、会場全員を見渡している。そんな雰囲気が必要です。

 これは実は、「アイコンタクト」と総称される「視線の強さ」ですが、具体的には、

 ①見つめている時間の長さ

 ②方向性

 ③強さ

 この3点から合成されます。

 その中ではっきりわかるのが、仕事がうまくいっていたり、自分に自信を持っている時に「目に力が入る」、いわゆる「目力」がある視線になることです。

 この時、実際には目の上のまぶたの筋肉「上眼瞼挙筋」に力が入っています。一般的な二者間の会話の場合でも、相手との距離が3メートル前後までくると、相手の目力が実にはっきりとこちらに向かって強い矢のように発信され、すぐにインパクトが伝わってきます。それで、自信の有無がすぐに伝わってしまいます。

人の話を聞いている時の「口角下制筋」

 この受賞者たちには、実はもう1つ大きな特徴がありました。他の人がスピーチしている時の、話を聞く態度が非常に良かったのです。

 「私とは業種が異なりますが、あなたの話にはとても興味があります」「あなたの多大なる努力を、私はよく理解できます」「あなたの会社は素晴らしいですね」

 そういった「承認」、「称賛」、「共感」などの気持ちが、人の話を聞いている時の口の両サイドの動きではっきりとわかるのです。

 唇の両サイドには、筋肉を上に引っ張っている「口角挙筋」と、下に引っ張っている「口角下制筋」があります。「この人の話はおもしろくない」とか「くだらんことを言っている」と思えば、口角挙筋は唇の両サイドを上に引っ張らず、口角下制筋と重力の力によって、口の両サイドはダランと下がってしまいます。下がったところに、いつの間にか贅肉がつくので、ちょうど「こぶとりじいさん」のように口の両サイドに小さな肉がたまり、老け顔になります。

 まわりをよく見回してください。仕事や人間関係がうまくいっていない人は、この「こぶとりじいさん」のような口の両サイドの筋肉が盛り上がって、垂れ下がっているのが特徴です。

 成功しているトップは、人の話を聞いている時に、こんなだらしない口元をしないのです。「おもしろいですね」「興味ありますよ」と言わんばかりに口角挙筋をクイッと持ち上げ、大頬骨筋にも力を入れて、微笑んで聞いているように見えます。

 トップは話している時も聞いている時も、こうして見られているのです。

 自分の「姿勢」と「顔」に責任を持ちましょう。

あなたは正しく立っているか?4つのポイントでチェック

POINT-1

脊椎が上下に引っ張られている意識を持つ

POINT-2

左右の肩が水平、どちらかが前に出てない

POINT-3

左右の骨盤が水平、どちらかが前に出てない

POINT-4

両足が平行して並んでいる(片足どちらかが前に出てない)

頭頂部が天に向かって引っ張られている感覚

足裏が地面の中に引きこまれる感覚

Profile 佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『プレジデント』はじめ連載9誌、著書170 冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。19年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はinfo@kigyoka.comまで

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