MAGAZINE マガジン

【デジタルシフトの教科書】第4回 デジタルシフトウェーブ 社長 鈴木康弘

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

デジタルシフトのための業務改革プロセスの構築

(企業家倶楽部2019年8月号掲載)

 

デジタルシフトにはルールの設定が必要

 デジタルシフトを推進するにあたり絶対なのは、業務のプロセスを明確にルール化することです。コンピュータは、人間ができないことを瞬時に実行してくれますが、大前提としてプロセスルールを与えることが必要です。「AIが全てやってくれるのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、残念ながらそれはSF映画の世界の話で、今は絶対に不可能です。コンピュータは、人間が設定したプロセスルールに正確に業務を実施してくれます。そして、24時間365日人間と違い文句も言わずに仕事をしてくれます。「ルールなら当社には嫌というほどあるよ」とおっしゃる方も多いと思います。

 しかし、その殆どは規程類であり、例えば稟議規程、就業規程、経理規程などであり、やってはいけない禁止事項を定義したものです。しかし、このルールではデジタル化はできません。ここでいうルールとは、仕事のプロセスルールのことであり、そのプロセスどおり仕事を進めれば仕事が完結するレベルのルールのことです。どんな企業でもルールが既にあります。業務のプロセスルールを定義し、コンピュータにそのプロセス実行を指示してはじめてデジタルシフトが可能になります。

最初にやるべきことは業務改革手順の決定

 業務改革とは業務のプロセスルールを再定義することです。この基本的な流れは、現状の課題を洗い出し、同時に未来のあるべき姿を定義し、そのギャップを改革タスクとして改革業務に落とし込み、ゴールを目指していきます。同時に、変化するマーケットに対応するために、このプロセスは常に進化させ続けていくことが重要です。企業ごとに違う風土、歴史、人材、業務ターム(期間)がありますから、企業ごとに自分たちにあったプロセスを構築していく必要もあります。大切なのは、最初に改革の手順を決定して、周知が徹底されていることです。いくら優秀な人が集まっていても、この手順が不明確では、改革行動はまとまらず最終的には空中分解することとなります。

改革推進チームのメンバー選定

 本格的に改革を進めようとしたときに、トップ層の方向性、意思が明確であることが大切なことは、前回(第3回)でお話しました。ここでは、そのトップ層のもとで、実行部隊である改革推進チームの選定につきお話をします。改革推進チームとは、全社の業務改革を推進しながら、業務プロセスルールの設定を具体的に実行する体制のことです。顧客視点であり、全社視点であり、そしてデジタルを理解している人を任命することが望ましいのですが、なかなかその全てを兼ね備えた人はいません。社内で全てが無理な場合は、外部人材を活用したチームづくりをすると良いでしょう。但し、リーダーは社員でなければいけません。また、出来ることならば、人材は社内公募で、本人の意思で立候補した人材を登用すると成功確率が高まります。どんなに優秀でも、任命で登用すると、自分事の仕事ではなくなり、改革ではなく、改善で終わってしまうからです。

現状課題の洗い出しと全社共通認識化

 業務改革を進める上でまずやるべきことは、現状の業務プロセスの把握と課題の洗い出しです。全社の現状把握は大変です。大企業、歴史のある企業ほどその大変さは増します。大企業は、組織が細分化されているために、その全体像を把握することは大変ですし、歴史のある企業ほど、属人的な業務が多い傾向が高いからです。しかし、それを「業務フロー(図1)」に落し込んで全体像を把握し、その上で、各所で発生している課題を明確化します。それらを全社の共通認識にしていくことで、現状課題の洗い出しは完了です。


未来のあるべき姿を描き全社目的化する

 全社で共通認識化された現状課題を洗い出したら、次にやるべきことは「未来のあるべき姿」を明確化します。その場合、大切なのは常に「顧客にとって魅力的な姿」を意識していくことです。10年後、5年後、3年後、世の中がどうなっているかを想像し、ディスカッションしていきます。そして、ターゲット時期を決めたならば、その時の顧客像を明確化していきます。顧客像は、年齢や仕事、生活スタイルなどで数十パターンになると思います。その上で「CXデザイン(顧客体験設計、図2)」を構築していきます。こちらも、現状課題の洗い出しと同様に、全社の共通認識、共通目的化していきます。


未来と現状のギャップ把握と計画化

 現状と目指す姿を明確にしたら、そのギャップを把握し、解決アクションに落し込んでいきます。日々社会情勢は大きく変化し、I T 技術は目覚ましい変化を遂げています。そのような中、将来はかなりデジタル化により変わっているでしょうし、解決アクションを考えても、デジタルシフトは必須であることを、再認識することになると思います。解決アクションを明確にして、各々をいつまでに完了させるかを決めれば、計画の方針は完了です。今までの仕事の何を変えて、何を変えないのか。デジタル化の範囲、システム開発の範囲がどこまでなのかなどを具体化することができます。

必ず出てくる抵抗勢力との付き合い方

 デジタルシフトは、会社の業務改革です。改革は痛みを伴います。将来の顧客が幸せになることで、必ずしも今の働き手が幸せになるとは限りません。今ある仕事が変わり、無くなる仕事がでてくるかもしれません。新しく覚える仕事も当然出てくるでしょう。そうなると、それをよしとしない人は当然反対をします。例えトップが号令をかけ、会社の方針だとしても必ず抵抗勢力は生れてきます。面と向かって反対することはなく、往々にして水面下で反対し、隙があれば足を引っ張ってくる事が多いかと思います。多くの改革は、これに悩まされますが、特効薬はなく、現状の理解と未来の姿を粘り強く説明し続けることで時間とともにこの問題は解消していきます。

外部をうまく活用する方法

 自社だけで改革が難しいときは、外部をうまく活用すると良いと思います。最近は、デジタルシフトを支援する会社も増えてきました。大手コンサル、大手システム会社から個人コンサルまで幅広くなってきました。選定するときは、二つのポイントを押さえると良いと思います。一つ目は、担当してくれる人が、自ら改革経験があるか、もう一つは自社にノウハウが蓄積される進め方をするかです。当社もデジタルシフトを推進する企業を日々サポートしていますが、基本スタンスは「クライアントが自立して改革を推進できるようにご支援する」こととしています。支援企業の中には、改革経験のない人が、欧米の事例を語り、顧客の要望をそのまま分厚い資料にまとめるだけのケースもあるようです。その後、当社に相談に来る企業様も多いことを考えると、最初の選定はとても大事だと思います。(つづく)

一覧を見る