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【編集長インタビュー】コシダカホールディングス代表取締役社長 腰髙 博

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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経営とは9割地道で平坦なもの

経営とは9割地道で平坦なもの

(企業家倶楽部2018年8月号掲載)

成熟産業と言われるカラオケ業界。ライフスタイルの変化で若者の来店が減る中、コシダカホールディングスは次々と新たなアイデアを繰り出して業績を伸ばしている。同社を率いる腰髙博社長に経営の要諦を聞いた。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)

カラオケ市場の客層の変化

問 日経平均株価も上昇し、2万円を超えています。世間は景気が良いと思いますが、カラオケ業界の最近のトレンドをどのように見ていますか。

腰髙 カラオケ業界は成熟産業だと言われています。弊社もカラオケ事業を始めてから28年になりますが、10年ほど前からその傾向が顕著になってきたと感じています。特に若い人の来店数が減っており、カラオケ人気に陰りが見え始めました。

 ご存知のように少子化ですから、若者の絶対数が減っているのが原因と考えられます。さらに若い人たちのレジャーが多様化したことも原因でしょう。昨今ではスマートフォンが普及し、SNSなどのコミュニケーションツールが発達したため、若い人が友人たちと群れなくなっていると思います。

 私たちが学生の頃はアパートを借りると家に一人でいてもすることがなく寂しいので、「それでは先輩の家にでも行こう」と自然に集まったものです。昔は、外に出かけていって顔を合わせないと話が出来ませんでしたからね。今はスマホさえあればリアルタイムにどこに居ても誰とでもコミュニケーションを取れるので、若い人がなかなか動きません。

問 カラオケ業界を支えてきた若者のライフスタイルが変化してきているのですね。それでは、どんな対策を打たれているのでしょうか。

腰髙 以前は若者が集まれば「カラオケに行こう」という流れになり、友人や仲間たちが集まってコミュニケーションを取る場として繁盛しました。しかし、今は若者の行動様式が変わってしまい、業界としては非常に厳しい状況です。

 一方でシニアの方々のカラオケ需要が高まり、若者に代わりカラオケ業界を支えてくれています。これは全国的に見られる傾向で、現在では完全に客層が入れ替わっています。

問 具体的にはカラオケ業界にどんな変化が起きているのでしょうか。

腰髙 弊社のカラオケ「まねきねこ」はまだまだ地方の店舗が多いのですが、特に郊外ロードサイドの店舗では、平日の昼間はシニアの方で溢れかえっています。以前のオープン時間は昼の12時でしたが、7年ほど前からオープン前に行列ができるようになりました。そこで徐々にオープン時間を前倒し、今は全店、午前9時にはオープンしています。

問 以前のカラオケのイメージですと、会社の同僚と食事の後に二次会で行くか、学生が学校の帰りや休日に行くものと思っていましたが、随分とカラオケシーンも変わってきているのですね。本当に午前中からお客は来るのでしょうか。

腰髙 そう思われますよね。ところが、9時にオープンすると直ぐに部屋の3~4割は埋まってしまいます。午前中に満室になり、午後からも客足は絶えず満室です。15時以降は高校生が来ますので、平日は昼間で3回転するほど繁盛しています。

問 ご近所さんやコミュニティで定期的にカラオケ大会があったりするそうですね。素人の中にもプロ歌手のように歌の上手な人がいて、練習しないと恥ずかしい。外出しない若者よりもシニアの方がお金も持っていますし、元気なのかもしれません。人口統計的にもシニアは今後益々増えていきますから有望ですね。

腰髙 データを見てもシニアの方のご来店が多くなっています。前年比で2ケタ増ですから、ありがたい。ただ、朝からお酒は飲みませんので、単価は安いですね。歌って健康カラオケです。

アイデアで客数を伸ばす

問 大きな特徴として、御社ではカラオケルームに食べ物を持ち込んでもいいそうですね。

腰髙 食べ物だけでなく飲み物でも何でも持ち込み可能にしています。平日のお昼時に60代の男女混合グループがパーティールームに入ると、テーブルの上に持参した食材がずらりと並べられます。女性陣がタッパーに漬物や煮物など腕をふるった料理を入れてきて、「さあ食べて!」という具合。これが典型的な光景です。

問 屋内ピクニックのようで楽しそうですね。カラオケルームの時間貸しの他に飲食は大きな収入源でしょうから、常識を打ち破る新しい発想だと思います。初めて知った時は驚きましたが、「持ち込みOK」を始めたきっかけは何だったのですか。

腰髙 最近は他社さんにも真似されていますが、持ち込みOKにしたのは「部屋が空いているのだから、来店動機にさえなれば何でもいいよね」ということでした。実のところ、どんなに繁盛しているカラオケ店でも部屋の稼働率は3割程度です。全営業時間に当てはめて、3割5分稼働すれば十分に採算が取れる。つまり営業時間の6割ほどは空いているわけです。それなら空気を置いておくよりは1円でも10円でもいいじゃないかとスタートしました。

 商売はお客様ありきですので、まずは店に来ていただかないと始まりません。持ち込みOKで、カラオケ料金はリーズナブルにしようという発想は、そうして生まれました。

問 それにしても他社と比べて料金を安く設定していませんか。都心型の店舗、東京・神田小川町店のチラシを拝見したところ、郊外型のロードサイド店の料金とさほど変わらないように思います。平日、30分の一人あたり室料が、午前6時から午前11時まで10円、午前11時から午後6時まで100円、午後6時以降は翌朝6時まで400円。室料の他に何か1品注文すれば、これだけの安さで歌い放題というわけですね。

腰髙 この店舗は山手線の内側ですので料金は高めの方で、こんなに頂けるのはむしろありがたいです。実際、ロケーションによって料金は全て違います。ある意味スーパーの特売みたいなもので、朝うた10円は特売品のような感覚です。ここでお客様の「まねきねこ」に対するイメージをしっかり打ち出して、「まねきねこはリーズナブルなんだ」と訴求しています。だからと言って、通常価格が他より高いということはありません。他よりはずっとリーズナブルな料金設定をしています。お陰様で営業利益率10%を確保しています。

問 若者は終電を逃した際、タクシーで帰宅すると高額なので、カラオケルームで朝まで過ごすと聞いたことがあります。「フリータイム」と言って、2000円ほどで朝までいられるのが相場とのこと。この料金が実現できるのにはどのような秘訣があるのでしょうか。

腰髙 若者の間では夜通し遊ぶことを「オール」と言うそうですね。私たちは業界の中では、損益分岐が低いお店を作っていると思います。具体的には家賃や建築費など、諸々の部分で営業努力をしながらコストを下げた出店をしています。

 お陰様で「まねきねこはリーズナブル、安心感がある」と言って頂けるようになってきました。当社はコンセプトとして「安心・安全、リーズナブル、フレンドリー」を謳っています。オールラウンドのお客様に対して来店しやすいように心掛けているのです。

カラオケの収益性に驚く

問 カラオケ事業を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

腰髙 大学を卒業後、そのまま家業のラーメン屋に入社しました。地元の群馬で「上州ラーメン」という屋号を掲げ、4店舗のチェーンで繁盛していました。年中忙しかったので父親から「厨房に入れ」と言われ、ラーメンを作っていたのですが、5年目くらいに「もう嫌だ」と思いました。

 人気があり客は入るのですが、実入りが少なかった。資金繰りが火の車でしたので、よく父親と言い合いをしていました。それで多角化を検討していたら、カラオケボックスには若者が溢れかえっており、これは面白い商売だと思うようになったのです。ラーメン屋も店舗商売ですし、飲食店という点ではそれほどかけ離れてはいません。何より新業態で大手の寡占でなく、個人店ばかりでしたので、何とか生き残れるのではないかと考えました。

問 実際にカラオケ事業を始めてみてどうでしたか。

腰髙 一番驚いたのは、その収益性です。ラーメン屋は注文を頂いたら、麺を茹でて、スープを作って、具を載せて、運んで、ここまでやって一杯500円です。ところがカラオケは「何時間ご利用ですか」とお客様に伺い、「2時間ですね。ごゆっくりどうぞ」と言った瞬間に2000円頂ける。同額頂くために、ラーメンならば4杯作らなければなりません。

 加えてお酒代も頂けます。当時は飲み放題コースがありませんでしたから、お酒好きの団体が来ると生ビールの注文数を「正」の字で書いていき、「やった! 20杯!」と歓喜するといった具合でした。

問 逆に苦労はありませんでしたか。

腰髙 1号店は立地も悪く苦戦しました。商売は直ぐには上手くいかないと学びました。経営とは、9割はずっと平坦で地道なものです。そして我慢しているとある時ボーンと跳ねるタイミングが来る。そのチャンスを待てるかどうかだと思います。大抵の人は9割の我慢する期間に耐えられなくなり、止めてしまうのです。

 3店舗まで建築出店でしたので、お金がかかりました。4店舗目からは居抜きを始め、その年にあと2店舗居抜き出店し、店舗数が3から6に倍増。居抜きというビジネスモデルを発見したことは、その後の展開に大きな影響を与えました。ターニングポイントだったと思います。

目指すは1000店舗

問 カラオケ市場は成熟産業だと伺いましたが、そんな中でも御社は業績を伸ばしています。今後の未来戦略はどのように考えていますか。

腰髙 弊社は群馬出身で地方郊外ロードサイド型のチェーン展開をしてきました。それを4年ほど前から都市型のビジネスモデルも開始しました。首都圏一都三県の駅前繁華街への集中出店を試したところ、数字が良かったのです。

 これで、都市型モデルも行けると気付きました。東京、名古屋、大阪だけでなく、地方の中核都市を入れたら出店余地はまだまだあります。現在、出店数は520店舗強ですが、1000店舗は目指したいですね。

 都市部では「まねきねこ」の知名度が低いので心配していましたが、店を開けてみると皆さん会員カードを既に持っているのです。高校時代まで地方にいて、大学生になって上京してみたら「都会にもまねきねこがある」と知り、馴染みのカラオケチェーンに足を運んでくれる方が相当数いることが分かりました。

 コアなファンは「まねき」と呼ぶそうですが、恐らく逆の現象も起こっていると思います。都内で「まねきねこ」を利用した人が転勤で地方に行ったら店がある。全国チェーンのメリットが出ています。

問 一人用カラオケもあるのですね。

腰髙 「ワンカラ」という屋号で展開しています。私が一人用のカラオケがあったらいいなと思い、作りました。一人だとサビだけ歌ったり、人前では歌わないような曲を歌ったり、好き勝手ができる。個人的には、カラオケは一人で歌うのが一番だと思っています。

 気持ちよく歌えて、自己陶酔の世界に浸れるのでハマる人が多いようです。楽器の練習をしている人がいたり、声優さんやアナウンサーを目指している方が発声練習をしたり、利用方法はお客様の方がよく知っています。

問 若い人へ一言お願いします。

腰髙 今、日本では起業することが求められている、望まれているという前提があります。しかし、総じて若い人は起業しようという雰囲気がなく、危機的状況です。そんな中でも起業したいという人がいるならば、まずは思い切って踏み出してみることをお薦めします。特に20代の若い人は失敗したところでどうにでもなります。これは自分で事業を起こす人だけではなく、会社の中で新規事業を立ち上げる人も同じ。思い切りが大切です。

問 腰髙社長の夢をお聞かせ下さい。

腰髙 カラオケは日本の文化で中国や東南アジアに出ていって大きく発展しました。フィリピンでは路上にカラオケマシンを置いて皆で歌っています。アジアではカラオケが普及しています。

 最終的には欧米でカラオケチェーンを展開したい。歌う文化はあるのですが、音楽が必修科目ではないらしく、歌ったことがないという人も実は多くいるそうです。また著作権の課題があり、カラオケボックスの業態は普及していません。課題を解決し、日本と同じようにカラオケチェーンのビジネスモデルを構築し、アメリカ全土でもビジネスを展開したいというのが私の夢です。


p r o f i l e

腰髙 博(こしだか・ひろし)

1960年群馬県生まれ。86 年東北大学卒業後、父親経営のラーメン店に入社。90年カラオケ事業に転進し、93年カラオケ「まねきねこ」1号店(前橋小相木店)を出店。95年代表取締役社長に就任。居抜き出店を転機にカラオケ事業のビジネスモデルを確立、全国展開する。2006 年フィットネスクラブ「カーブス」事業を開始。07 年6月、ジャスダック上場。「カーブスジャパン」を08年10月子会社化。10年9月「コシダカホールディングス」に組織、名称変更。13 年、韓国ソウルにカラオケ「まねきねこ」を海外初出店。14年シンガポールK-BOX グループを子会社化。16 年11 月、東証1部へ市場変更。18年3月、カーブス世界総本部を買収。

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