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【デジタルシフトの教科書】第6回 デジタルシフトウェーブ 社長 鈴木康弘

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

真のデジタルシフトは企業・個人を成長・発展させる

(企業家倶楽部2019年12月号掲載)

 

デジタルシフト成功への道

「デジタルシフトの教科書」として連載させていただき、今回が最終回です。第1回では「迫りくるデジタルシフトの波」として、日本企業がなぜデジタルシフトをしていかねばならないかを、第2回では「デジタルシフトの成否は経営者の決意で決まる」として、経営者自ら動くことの大切さと方法を、第3回では「デジタルシフトは推進体制の構築が肝」として、推進体制の作り方と注意点を、第4回では「デジタルシフトのための業務プロセスの構築」として、デジタル化を前提とした未来の業務改革の方法を、第5回では、「デジタルシフトを成功に導くITマネージメント」として、IT構築におけるマネージメント体制・手法についてお話させていただきました。そして、今回は、「真のデジタルシフトは企業・個人を成長・発展させる」というテーマで最後のお話をさせていただきます。

日本でデジタルシフトが進まないのはなぜか

 ここ数年デジタル化、デジタルシフト、デジタルトランスファー、デジタルトランスフォーメーション(DX)と日本においても様々な言葉で表現され、メディアに掲載されるようになりました。

 日本でも一部の大手企業が取り組みを始めました。しかし、まだその取り組みは本気ではなく実験にとどまっている企業が多いのではないかと思います。また中小企業では、取り組んでいない企業が多いのが実情です。 

 それはなぜなのでしょうか。答えは自社の最終目的とデジタルシフトが経営者をはじめ社員一人ひとりに実感できないからなのではないかと思います。企業の目的、個人の将来を深く考えることで、デジタルシフトは他人事では無いことを実感することが、今一番大切なことであると思います。

企業の目的は収益向上と社会貢献

 企業の目的とはなんでしょう。

 企業の目的の一つは収益を向上させることです。企業は毎年毎年、売上を増やし利益を増やしていきたいと思っています。
 しかし、マーケットは変化し続け、競合企業も努力をする中、収益は維持することでさえ難しく、前年と同様のことをしていたならば収益は悪化することになるでしょう。企業は、常に努力を重ね続けていかなければ一つ目の目的である収益向上を成しえることはできません。

 もう一つの目的は社会貢献です。企業の社会貢献で大切なことは、企業活動により得た利益から税金を納めることと、従業員である社員の雇用を守り、成長を促し、社員の所得をあげることです。更に余裕のある企業は社会貢献活動、募金などにより更なる社会貢献をしていくことでしょう。

社員一人ひとりは将来不安を無くしたい

 最近、国内マーケットの縮小に伴ってかあまり良いニュースを耳にしません。中でも高齢化による税負担増、中高年のリストラ、非正規雇用社員の生活苦など、個人の将来不安を掻き立てるようなニュースが多くなりました。大手企業の相次ぐ不祥事、子供への虐待などのニュースも増え、日本人の倫理観の変化も感じずにはいられません。現在、多くの企業に属する社員が将来への不安を抱えるのも無理からぬことだろうと思います。一昔前の良い大学に入って、一流企業に就職すれば一生安泰などという価値観はもはや崩れ去っているのが現状です。ならばと、一念発起して努力を重ねても、年功序列人事制度・ピラミッド型組織から脱却できていない多くの日本企業では、社員一人ひとりの努力は小さなもので、なかなか大きな変革を起こすことができず。結果、将来不安を無くすことはできないでしょう。


真のデジタルシフトは生産性の向上

 将来と言えば、日本において忘れてはならないのは、労働市場の変化です。10年後の2030年の労働需要は7073万人に対し、労働供給は6429万人と、644万人が不足すると予測されています。産業別にみるとサービス業は400万人、医療福祉では187万人、卸・小売では60万人の人手不足が発生すると予測されています。

 その人手不足を埋める手段として、女性の活用により102万人、シニアの活用により163万人、外国人の活用により81万人補っていくことができるそうです。しかし、それでも298万人の人手不足が発生します。そこを埋める手立てとしては「生産性の向上」しかありません。また、これだけの人手を埋めるためには、単なる業務効率化ではなく、革新的な改革をデジタル活用によって行い、生産性を向上させるしか方法は無い。人材不足が予測される中、これらの変革はITの力を使わなければ成しえないことは容易に想像できるでしょう。もちろんデジタル化により顧客の利便性を高めていくことも大切です。顧客の利便性を高めつつ、生産性を向上させることが真のデジタルシフトなのです。

デジタルシフトは企業が必ず取り組まねばならない改革

 生産性とは一体何なのか。生産性とは、インプット(投入した資源)を分母として、アウトプット(得られた成果)で計算することができます。そして、生産性を向上させるためには、分母であるインプットを削減し、分子であるアウトプットを拡大することで実現できます。

 その取り組み方法には、改善レベルと革新レベルがあります。改善レベルの取り組みとは、既に多くの企業が日々行っていることであり、分母を削減するために業務効率化・社員教育・コスト削減などの取り組みを、そして分子を拡大させるために販売方法・作業手順・商品の工夫や改善などを実施します。対して革新レベルの取り組みとは、分母を削減するためにビジネスプロセス再定義・デジタルシフトへの発想転換・組織の改革などの取り組みを、分子を拡大するために斬新なビジネスモデルを生み出し・画期的な商品を開発し・成果を出す人材を大切にしていく取り組みを実施します。

 改善レベルの取り組みでは3%程度の成果が得られるのに対し、革新レベルの取り組みでは、30%以上の成果が得られる可能性があるというように、成果において大きな違いがでてくることでしょう。

真のデジタルシフトは企業・個人を成長・発展させる

 デジタルシフトは社会の流れであり後戻りすることは無い変革です。これらマーケットの変化を経営者が感じ取り、変革を決意し、慎重に社内に推進体制を構築し、顧客の利便性を高めつつ生産性を向上させる業務プロセスを設計し、IT自主マネージメントを実施し、目的達成を継続していきデジタルシフトを成しえていただきたいと思います。企業はその変革に立ち向かい、経営者そして社員の皆さんが一丸となり立ち向かっていくことができたならば、企業も個人も成長を遂げ、ビジネス・人生もより豊かなものへと発展させてくれることでしょう。全6回で「デジタルシフトの教科書」として連載させていただき、読者の皆様に少しでもご参考にしていただけることを祈念し、筆を置かせていただきます。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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