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【エンジェル鎌田’s Eye】TomyK Ltd.代表  鎌田富久 ×LPixel代表取締役 島原佑基

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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AIによる医療画像解析で世界をリードする

AIによる医療画像解析で世界をリードする

(企業家倶楽部2018年6月号掲載)

ACCESS 創業者で現在エンジェル投資家の鎌田富久氏が、投資先企業の経営者と対談する「エンジェル鎌田's Eye」。今回はAI によって医療画像を解析し、高効率・高精度で診断できるよう支援しているLPixelの島原佑基代表をゲストに迎えた。2人の対談から、予防医療の未来が見えてくる。

医療画像領域は日本に有利

鎌田 まずはLPixel(エルピクセル)の事業内容についてお聞かせ下さい。

島原 私たちは東京大学大学院の研究室に所属していた3名で立ち上げたベンチャー企業です。人工知能(AI)を駆使して医療画像などを解析し、より速く効率的かつ正確に診断できるよう支援する技術「EIRL(エイル)」、ライフサイエンス研究者向けの画像解析プラットフォーム「IMACEL(イマセル)」といったソフトウェアの開発を通じ、画像解析のノウハウをライフサイエンス領域に生かす取り組みをしています。

鎌田 中でも特に注力されているエイルについて詳しくご説明いただけますか。

島原 MRIやCTの画像を解析し、自動で診断できるAIです。現時点では大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、脳動脈瘤といった、医師からのニーズが多い10領域を対象としています。エイルによって診断された結果の整合性を医師にフィードバックしてもらうことで、診断すればするほど精度が上がっていく仕組みになっています。

鎌田 AIは何を判断しているのですか。

島原 何を判断するかは、領域に応じて変えることができます。例えば、脳動脈瘤の場合、血管のこぶの破裂で患者の3分の1が亡くなってしまう。そこで、破裂する可能性のある血管のこぶを見逃さないように、該当する部分をAIが判断し、印を付けます。

鎌田 人間の目も完璧ではありませんから、AIの力で見逃しやすい部分を検出し、診断を支援する役割を担っているというわけですね。医師不足問題の解決にも繋がります。この分野において競合はいるのでしょうか。

島原 海外を見渡すと、アメリカ、中国、イスラエルといった国々の技術力が非常に高いですね。ただ、実はこの分野において日本は有利な立ち位置にいます。世界ではMRIやCTによる診療は高額でなかなか受けられませんが、日本には国民健康保険制度があるため、個人負担の医療費が安く、多くの人が受けられる。結果、それらの導入率が圧倒的に世界一なので、学習可能な事例数も多く、この分野のAIを開発するにあたって日本には優位性があると言えるのです。世界最高精度のAIを発信するチャンスがあります。

鎌田 起業して間もない頃は、画像解析技術を活用し、製薬、農業、行動科学といった様々な分野に取り組みを広げておられました。その中でも医療にフォーカスされたのは、収益性が高いからですか。

島原 実は、短期的な収益性を求めるならば、医療分野に進出すべきではありません。医療業界は規制が厳しく、収益が出始めるまでには時間がかかる。ただ私は、周りの医師の強い要望に応えたいという想いから、この領域に注力しようと決めました。

破裂しそうな脳動脈瘤を検出して見落としを防止

肝臓がんの疑いのある領域を検出


診断支援に注力

鎌田 御社はソフトウェア開発の会社です。ソフトを直接医療機関に導入してもらう場合と、医療機器メーカーと組んで広めていく場合の2パターンがあります。日本は世界シェア7割を誇る企業があるほど医療機器分野が発達しているので、そうした企業とコラボすれば自動的に御社のソフトが流通し、強みとなるでしょう。

島原 そうですね。今後、AIの医療分野への応用は更に進み、ソフトも多様化するでしょうが、医師が利用するソフトを選ぶ上で強力な動機付けになると思います。

鎌田 御社は、医療の中でもどういった部分に特化していくのでしょうか。

島原 医療は診断と治療に大きく分けられ、私たちは診断に重点を置いています。これまでは病気に罹ってから治す治療がメインでしたが、今は未然に重篤な病気になるのを防ぐ予防が注目されつつある。その上で、病気の早期発見は大きな意義を持ちます。

鎌田 診断支援で医師の負担が軽減できれば、その分の労力を人にしかできない仕事に回していただけるので、社会貢献に繋がりますね。

島原 治療の方法や、許容できる治療リスクの度合いなど、人によって要望は異なります。医師の方々には、そうした対人コミュニケーションの部分に時間と労力を割いていただければ幸いです。

鎌田 新しいサービスが登場すると、往々にして賛否両論分かれるものです。その中で、まずは応援してくれる人にどう広めていくかが大事になるでしょう。

採用にスマッシュは無い

鎌田 御社は採用が上手いですよね。良い人材が多く集まっています。採用のコツを教えていただけますか。

島原 広報を重視しており、起業から6人目にして広報担当者を採用しました。広報と採用は密接に結び付いています。自社のことを地道に紹介していくと、後々予期せぬ効果を生み出すことがありますので、講演など目立った動きだけでなく、フェイスブックの更新といった細かなところまで手を抜かずに取り組んでいます。採用にスマッシュはありませんから。

鎌田 継続的な努力が不可欠。まさにその通りだと思います。どういった判断で採用しているのですか。

島原 社風に合っているかどうかで破裂しそうな脳動脈瘤を検出して見落としを防止肝臓がんの疑いのある領域を検出すね。イノベーティブなことに挑戦するには、様々なバックグラウンドを持った人同士が議論を重ねなければなりません。弊社の多様性という社風に合い、かつ人間力のある方を採用しています。

鎌田 最近は中途採用で経験豊富な人材が多く入りましたね。結果、島原社長より年上の方が増えた印象です。自分より年上が多くいる会社を経営するのは大変ではないですか。

島原 研究の世界では年齢は関係ありません。年齢を気にしない人しか入ってきませんので、違和感は無いです。

鎌田 なるほど。創業されてから約4年で急成長を遂げられましたが、その源泉にはこうした多様性があるのですね。

ダメ出しの多いビジネスにこそチャンスがある

鎌田 島原社長を含めた創業者3人と出会ったのは、東京大学の企業家育成プログラムで、私が担当メンターでした。島原社長からはベンチャー企業経営者にとって不可欠な楽観的思考と熱い想いをひしひしと感じたのを覚えています。チームには技術力がありましたので、万が一この分野で成功できなくとも、他の分野に応用することで食いっぱくれることは無いだろうと思いました。

 ただ、やはり短期的な収益に繋がりにくいこともあり、当時は注目度が低かった。多くの人はダメ出しされて起業を思い留まるものですが、島原社長は違いました。ダメ出しを受けて、どのような変化がありましたか。

島原 核となる技術は変わっていませんが、伝え方が変わりました。どんなに優れた技術を持っていても、それを伝えられなければビジネスに繋がりませんので、技術を可視化することに注力しています。やはり、先ほども述べたように広報が大事です。ビジネスは技術よりもコミュニケーションで進みますからね。

鎌田 おそらく、島原社長は何と言われようと起業したでしょうね(笑)。皆が賛成するようなビジネスは、他人が既にやっていることが多い。むしろ10人中9人からダメ出しされる製品やサービスの方が、誰もチャレンジしておらず、将来もはっきり見えないわけですから、大きなチャンスが眠っている可能性があります。ダメ出しされても自分自身を信じられるかどうか、熱意があるかどうかが大切です。起業してから何に一番苦労されましたか。

島原 組織づくりです。社員が10人ほどの時は、阿吽の呼吸で物事が進んでいましたが、社員数が増えるにつれて、そうは行かなくなりました。やはり10人、30人、50人と規模が拡大するに従い、教科書通りの問題が起きます。困った時にはすぐ鎌田さんに相談出来て助かりました。

鎌田 確かに、技術に関する質問よりも、採用など人事についての相談を受けることが多かったですね。島原 やはり組織は生ものなので、日々様々なことが起こります。必然的に、組織づくりに関する悩みや相談が多くなりました。

鎌田 最後に、エルピクセルの未来展望についてお話し下さい。

島原 まずは医療領域で結果を残さなければなりません。2020年には弊社のサービスが当たり前のように使われている状況にしたいですね。

鎌田 お話を伺うと、早い段階から海外を意識していたのが分かります。世界で戦いたいという志を持たれているのはとても良いことだと思いますね。御社には技術力がありますから、日本に限らず、世界をリードする会社になって下さい。

島原佑基(しまはら・ゆうき)

東京大学大学院修士(生命科学)。大学ではM I Tで行われる合成生物学の大会iGEMに出場(銅賞)。研究テーマは人工光合成、のちに細胞小器官の画像解析とシミュレーション。グリー株式会社に入社し、事業戦略本部、のちに人事戦略部門に従事。他IT企業では海外事業開発部にて欧米・アジアの各社との業務提携契約等を推進。2014年3月に研究室のメンバー3 名でエルピクセル株式会社創業。”始動Next Innovator 2015(経済産業省)”シリコンバレー派遣選抜。”Forbes 30 Under 30 Asia(2017)”Healthcare & Science部門のTop に選ばれる。

鎌田富久(かまだ・とみひさ)

1961年、愛知県生まれ。東京大学大学院の理学系研究科にて情報科学博士課程を修了。理学博士。1984年、東京大学の学生時代に、情報家電・携帯電話向けソフトウェアを手がけるベンチャー企業ACCESSを荒川亨氏と共同で創業。iモードなどのモバイルインターネットの技術革新を牽引する。2001年、東証マザーズ上場を果たし、グローバルに積極的に事業を展開した。2011 年に退任すると、2012 年4 月より、これまでの経験を活かし、TomyK Ltd. にて革新技術で日本を元気にするベンチャー支援の活動を開始した。

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