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【核心インタビュー】クリーク・アンド・リバー社 社長 井川幸広 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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懐深いカルチャーでプロを繋ぐ  後編

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事業ドキュメンタリーを作る

問 井川社長のターニングポイントはいつ頃だったのでしょうか。

井川 フリーランスの映像ディレクターを辞め、起業した1990年です。ただ、今もディレクター時代と行っていることはさほど変わりません。それまで私は、ドキュメンタリー作品を多く手掛けていました。今はそのドキュメンタリーを、テレビではなく事業で表現するようになっただけのこと。1作品90分のドキュメンタリー番組から、20年、30年の事業ドキュメンタリーへ。時間軸が違うだけで、本質は何も変わらないのです。

問 ディレクター時代も今も本質は同じとは面白いですね。

井川 創業までのルーツと言えば、最近、社内で演劇事業部による「企業史演劇」を実演しました。これは、我が社の創業経緯を基に台本を作り、20分ほどの劇にしたものです。重要人物は役者の中から本人に似ている人をキャスティングし、2日間で計6回、社員の前で披露しました。至近距離で行いますからなかなか迫力があり、涙を流す人さえいたほどです。

 この企業史演劇が思いのほか好評だったため、今はビデオとVRをつけて一般向けに販売しようとしています。もしかしたら、これは企業家倶楽部と組んだ方が良いかもしれませんね。

問 それは面白そうですね。大きい会社になればなるほど、創業の経緯は忘れられがちですから、会社を知る良いきっかけになると思います。

井川 その通りです。今回の好評を受け、今後は他の会社の企業史演劇も作っていきたいと考えています。社史を作っている会社は多いですが、それではなかなか心に残らない。演劇の方が、印象付けられると思います。現在、1本500万円で売り出したところ、引き合いが来始めました。ゆくゆくは、ソフトバンクグループやファーストリテイリングのような大企業の企業史も扱ってみたいですね。

情熱は歳を取っても衰えない

問 社員を採用する時、重視しているポイントはありますか。

井川 経営領域での採用については、「我が社のカルチャーに合う」と思えばまず採用しています。昨年から今年にかけて70人くらい中途採用をしていますが、クリエイティブ関係出身の人ばかりではありません。キヤノン、日立、東芝、三菱商事など様々な分野から来ています。彼らは元々執行役員クラスの人材ですから、自分の持つ能力が分かっている。その能力で、我が社の営業資産を用いて何ができるか提案してもらうのです。ですから、面接であって面接ではありません。カルチャーに合って優秀な人なら採る。活躍してもらう場所は、後から考えるようにしています。

問 御社のカルチャーとは何でしょうか。

井川 チャレンジ精神があること、パッションとロマンを持っていることです。年配の人の中にも、若者に負けない情熱を持っている人がいます。エネルギーがある人に年齢なんて関係ない。60歳を超えて採用した人だっています。

 だからこそ、会社としてはそういった人たちが力を発揮できるくらい懐深いカルチャーを作れるかが勝負どころです。様々な分野で成功体験を持つ人たちが次世代に自らの経験を伝え、新たな原動力となる。経営の成功法を社長一人しか教えられないのでは、全然厚みがありませんよね。一つの畑に一種類の種しか蒔かなければ、何かあった時に全て枯れてしまいます。色々な成功を学んで、雑草のように力強く若い人たちが育って欲しいと思います。

問 井川社長の夢をお聞かせ下さい。

井川 大きく3つあります。まず、定年なく働ける環境を作ること。ここで働いているプロの人たちは、仕事が生きがいみたいなところがあります。それを定年で区切ってしまってはもったいない。その人たちのエネルギーを十分に活かせる会社を作っていきたいです。

 次に、グローバルに働ける環境を整えること。現在、ロサンゼルスに設立した会社で弁護士出身の人が社長になり、世界中の弁護士を繋ぐプラットフォームを作ろうとしています。また、中国や韓国では多くの日本の雑誌や書籍の版権を我が社が持ち、日本の作家が世界でも活躍できるような場を作ることに取り組んでいます。どの分野でもトップクラスの人たちは、日本・海外を問わず仕事ができます。我が社がそんな彼らを支える仕組みをしっかり築き上げて行こうと思います。

 そして、若い人たちへ能力や経験の伝授を最大限に行っていくこと。年配の社員が培った経験は、我が社の生命線です。それをいかに伝えて次に活かしていけるかが、会社として力を入れなければならないところです。

問 以前、若い人たちを船に乗せて、世界を回る研修を行いたいと仰っていました。

井川 それも実現したいですね。50分野を学んでいる世界中の学生を集めて、教育する。10年くらい続ければ、約1万人が各国の要所要所に入ります。民族、政治、国を越えて我が社のマインドが全世界に広がって行くイメージです。今後も邁進して参ります。


P R O F I L E 井川幸広(いかわ・ゆきひろ)

1960年佐賀県生まれ。毎日映画社撮影部に勤めた後独立、ドキュメンタリー番組等のフリーディレクターとして活動。90年 クリーク・アンド・リバー社を設立。2000 年6月ナスダック・ジャパン(現JASDAQ)に上場。クリエイター・エージェンシー事業をはじめ、医療、I T、法曹、会計分野にも進出。2016 年8月、東証一部に上場。2017年、第19回企業家賞受賞。

(企業家倶楽部2019年4月号掲載)

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