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【注目企業】ラボネットワーク代表取締役社長 櫻井均

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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写真館に新たな価値を与えたい

写真館に新たな価値を与えたい

(企業家倶楽部2015年4月号掲載)

3Dフィギュアが話題

 簡単に自分そっくりのフィギュアが作成できる時代が到来した。キタムラの子会社であるラボネットワークが手がける3Dフィギュア作成サービス「Mini-me」は、服の皺から表情などの細部でさえ2分程度の全身スキャンのみで再現する。スキャニングされたデータはコンピュータに取り込まれ、3Dデータ化。撮影を請け負った写真館はそのデータをラボネットワークに送信し、同社がそれを基にフィギュアを作成するという寸法だ。

 フィギュアを作成するのは、同社が開発した3Dプリンター。特殊な粉に糊とインクを交互に拭きつけながら立体に成型する。開発期間はおよそ1年半。いくつもの失敗作を超えてサービスの実現に至った。

 2014年3月より本格的に開始したこのサービスについて、ラボネットワークの社長である櫻井は「企業経営者の方にも好評で、最近は妊婦さんが大きくなったお腹の自分を形に残したりとそれぞれの楽しみ方をされているようです」と語る。

 「Mini-me」のサービスを導入する上で写真館の負担は2万円の機材レンタルのみ。本体価格やその開発費も考慮すると割安だ。撮影はどの提携店舗で行っても一律定価3万円で、ラボネットワークはその半分を利益として受取る。

 ただ、好評にもかかわらず現在このサービスが行われているのは全国で40数箇所だと言う。では、ラボネットワークはどのような思いで事業に取り組んでいるのだろうか。

目新しさを提供するラボ
 30秒に1冊。多くの写真が印刷された1本のロール紙は姿を変え、製本された複数のアルバムとなって次々と機械の中から現れる。ウェディングドレスに身を包んだ女性、七五三で兜を被る少年、友人と肩を組むユニフォーム姿の男性。写真の中の誰もが笑顔でこちらを向いている。

 アルバムだけではない。ビデオテープをDVDへとダビングする機器のモニタには、ピクニックや子供の運動会など家族の思い出が映し出される。人々の笑顔を形として残すラボネットワークの「ラボ」は、まさに夢の工場と言っていいだろう。

 埼玉県・川口市にある同社の工場(ラボ)では、全国の写真館やオンラインサイトで依頼を受けた商品の生産がリズム良く行われる。各商品には固有のIDが振られ、注文内容・送付先などはこれで一目瞭然だ。各工程の作業員はこのIDで自分の作業内容を把握。工場の機械化・固有IDでの管理によって、商品の入れ違いや誤発注、配送ミスはほとんどない。

 ラボネットワークはキタムラの子会社として1985年に高知県で創業。主な事業はフィルムの現像に加え、カメラ・カメラ用品などの流通業だった。その性質は今でも変わらず、現在、同社の売上げは約50億円規模。内訳は約30億円が写真やアルバムのプリント、約15億円はカメラ用品等の販売であると言う。

 長年積み上げられて来たノウハウから、同社が手がけるアルバムは高品質。印刷後に写真が最も映えるよう色味を調整するなどのこだわりや、笑顔の写真を自動抽出して大きくレイアウトする技術は写真を扱う会社らしい気遣いだ。さらに、見開いた際にページの変わり目に「谷」ができない「レイフラット」という形式は、両面いっぱいに写真を掲載しても元の写真の雰囲気を崩すことがなく、プロの写真家や花嫁写真などで需要が高い。写真に関する同社の視点と技術は大きな強みである。

新たな需要を掘り起こせ

 そんなラボネットワークの特徴はこのような品質への自信と、それに裏付けされた新規サービス創出への意欲だろう。

 特筆すべきものとしては、ビデオからDVDへのダビングがある。追加料金を払えば湿気などによりカビが生えたテープの修復も行っており、同社のクリーニング技術にかかれば、以前と変わらない映像をDVDで楽しめるようになる。アルバム事業から一歩抜け出したこのサービスが思わぬヒットとなり、工場では当初2台ほどだった機器を拡充させ各家庭から大量に送られてくるテープの山に対応している。

 しかし、このように思わぬヒットを呼ぶサービスがある一方で、前述の3Dプリントサービスは同社のプリント事業の中でまだ規模が小さい。これについて櫻井は「Mini-meの本当の狙いは既存と新規のどちらの写真館に対しても、ラボネットワークは時代に合わせて新しいものを提供できる会社だとアピールすることにあります」と答える。長い間変化の少ない写真業界に携わるラボネットワークにとって、新しいサービスを生み出すということは新たな需要を創出するだけでなく、写真館との信頼関係を育てる武器にもなっている。

子供が鍵を握る

 B2Bビジネスが主体のラボネットワークは、子供たちとその保護者を集客するキャンペーンを写真館側に提案している。

 写真館はその性質上、七五三や成人式といった行事がなければ利用されないことも多い。さらに近年では少子化が進み、子供とその親が主な利用者である写真館はターゲットを新規に開拓する必要があった。そこで、現在提案されているのが7歳と20歳とのブランクを埋める「1/2成人式」であり、10歳を1つの節目とする動きである。

 さらに、同様に1年をアルバムとして記録に残す「イヤーフォトアルバム」も子供の成長を見守る親の需要を高めつつある。同アルバムは背表紙に統一感を持たせているため、地層を重ねるように毎年の記録を残すことができる。2013年度での調査では、日本で児童のいる家庭の平均児童数は1.7人と減少傾向だ。このように各家庭の子供にかける金額が相対的に高くなっていることも需要増加の背景にあるのだろう。

 新たな製品・サービスを次々と提案し写真業界を裏から支えるラボネットワーク。その行動力の源泉には「写真業界を盛り上げたい」という同社の思いがある。「今年は昨年までご好評いただいていた子供向けファッションショー『写シンデレラ』を受けて、新たに『ランウェイニスタ☆コレクション』を開催予定です」と意気込む櫻井。写真業界に一石を投じるラボネットワークの次なる挑戦の行方に注目したい。

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