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【トップの発信力】佐藤綾子のパフォーマンス心理学第25回

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

ヒラリーに見るリーダーの華 リーダーブランド4つのスキル

(企業家倶楽部2015年1・2月合併号掲載)

日本「憧れ」演出で遅れ

 「ブランド」は強い。製品自体の長年の信用はもちろんのこととして、その企業のイメージ発信が上手なこともまた、注目すべき力でしょう。

 この「ブランド力」については、政治家にもまったく同じことが言えます。

 日本でも、党全体が落ち目の時であっても、その党の中のある人だけが、ブランド力で見事勝ち残った例があります。

 人にも物にも「発信力」を重んじるアメリカはなおさらで、とても興味深い出来事がありました。11月4日に行われた、バラク・オバマ大統領への事実上の信任投票ともなったアメリカの中間選挙です。

 いざ開票してみると、大統領の不人気がはっきりと出てきたことで、上院でも下院でも民主党の敗北が明白となりました。

 中間選挙は、どこまでいっても中間のものですから、この後、票を取り返すかもしれないとして、この選挙を見る時に「どちらが勝つか」ではなく、「リーダーのスピーチの華」という観点で、イメージ発信について思わせる、これほどおもしろい選挙はなかったのではないかと思われました。

 その理由は、ヒラリー・クリントン氏です。

 オバマ不人気が響き、ヒラリー氏の所属している民主党は、必ずしも追い風ではない。むしろ逆風でした。その中にあって、ヒラリー氏は何人かの候補者の応援演説をしました。

 結果として、彼女が応援した候補者26 人のうち12人は当選し、13人が落選。残りの1人については、決選投票に持ち越されています。こうなると、ヒラリー氏の応援が功を奏さなかったと言われそうなものです。

 日本であれば、自民党の応援演説には小泉進次郎氏が駆け回り、その候補者たちのほとんどは当選しているのですから、応援者が悪いと言われても仕方がないところでしょう。

 ところが、応援者が悪いという論法に持ち込んで、なんとかヒラリー氏に責任をとらせようと躍起になっているのは、共和党の面々だけです。

 圧倒的多数の国民の心の中には、「民主党は敗北したけれど、ヒラリーだけは勝っている」という印象があります。なぜでしょうか?

 それは、彼女が演説に向かうところ、どこでも見せる圧倒的なスピーチの力です。

 まず、名前を呼ばれて演台の前に立つ時、ヒラリー氏は思い切り胸を張って片手を大きく上げ、「帰ってきたわよ」と言います。この時の彼女の声は大きく、満面に笑みをたたえ、自信たっぷりといった感じです。

 その微笑みのまま、「アメリカをどんな国にするべきか」「女性たちはどう闘うべきか」「全米の女性が立ち上がれば、絶対勝てる」というメッセージを、国民にパワフルに語り続けます。

 このように元気のいい話の内容と、出だしの迫力が、これまた巧妙なのです。出だしでは、必ず笑いをとります。

 「皆さん、こんにちは。応援してくれて、ありがとう。拍手も、ありがとう。でも、私がここに来たのは、私のためじゃないのよ。大統領になれ、ですって? ありがとう。でも、今じゃないのよ」

 といった調子で、自分が応援している候補のことを話しはじめます。

 これを聞いた人々は、誰の応援であるかなど構っちゃいないというような心境で、「今目の前にいるヒラリーが大統領になるのが最高だ!」と口々に叫びます。「ヒラリー大統領こそ、実現すべきことだ」というわけです。

トップの話し方には非言語のパワーと笑顔を

 このヒラリー氏の表現の仕方を分析すると、4つの大きな特徴があります。

 1つ目は、出だしでユーモアの先発パンチを出すこと。先ほどの「ありがとう。でも、今来たのは私のためじゃないの」といった感じです。

 2つ目は、第一声から声量たっぷりに、普段よりも少し高く大きめの声で、「どうもありがとう」と拍手に応えることです。

 3つ目は、姿勢が堂々としていることです。

 ヒラリー氏は若い頃よりも、だいぶ体重が増えました。したがって、うつむき加減よりも胸やお腹を前に出していたほうが、自分も楽ということもあるでしょう。それにしても、堂々と胸を張り、両手を大きく上げて、皆に最初の挨拶をします。この姿勢で引きつけるのです。

 最後の4つ目は、最初の笑顔を最後まで保ち続けること。満面の笑みです。

 「ここに来て話すことができて、うれしい」と言う時に大きな笑顔をつくりますが、その時の頬の筋肉は話している間中、ほとんど同じようにグイッと力が入って、ビッグスマイルのまま上がっています。顔の両頬に小さな山ができたような筋肉の盛り上がり方です。

 この顔でずっとまくし立てると、聴衆は最後に熱狂的な拍手でヒラリーを見送る、というのがいつものパターンです。

 会社の経営者や組織のトップでも、人前でスピーチをするならば、ぜひ次の4ポイントを守ってください。

 1)出だしのユーモア(言語表現)

 2)たっぷりの声量(非言語表現)

 3)颯爽とした姿勢(非言語表現)

 4)最初に大きな微笑みを浮かべ、最後までキープ(非言語表現)

 この4点を、ぜひ心がけてみてください。スピーチに圧倒的な力が宿ります。

 結局のところ、よくよく考えて長所に到達する前に、その人の発信するイメージの総和から、安心と信用の「ブランド力」を人は感じ取るのです。

 組織が不人気でも、そこに所属している本人はスターだなんて、ちょっと日本ではない話ではありませんか。

Profile 佐藤綾子

佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『日経メディカルOnline』、『日経ウーマン』はじめ連載10誌、著書178 冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。20年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はi n f o @ k i g y o k a . c o m まで

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