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【トップの発信力】佐藤綾子のパフォーマンス心理学第27回

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

「うなずき方で見せるトップの品格」

(企業家倶楽部2015年6月号掲載)

「どこで遮るか」が問題

 会社で部下を持っていたり、あるいは、なんらかの研修や講座で受講生に教えていたりする人たちには、共通の悩みがあります。それは、部下や受講生たちが何かを言いにきた時に、「どこまで長く聞き続けるか」という問題です。

 トップになればなるほど仕事が多いのが日本の企業の常ですから、聞く時間も足りません。私のセミナーには、経営者や医師が多く、「部下や患者の話を、どこまで黙って聞いていればいいのか?」「話の長い相手に困っている」という質問がいつもあります。これについて、おもしろい実験があります。

 アメリカのBeckman(1984)らによって為されたもので、医師の患者からの情報収集の有効性を調査したもので、調査件数74件のうち51件(69%)は、「医師から発言を遮られていた」というものです。

 医師は、患者の話を聞き始めてから平均18秒経過すると、患者の発言を遮ってしまうという結果が出ています。しかし、もし遮らなかった場合、患者はどこまで話し続けるのか、という実験を行なったところ、78%の患者が150秒以内に自ら話を終えたと報告されている論文です。

 この調査の場合は、相手が着席して話しているわけですが、自分が座っているところに部下が何かを言いにきたり、研修などで自分が立って教えている時に、相手が座ったまま質問し始めても、ほぼ同じことです。

 私も自分が講師の時に、質問のために手を挙げた受講生の話が長くてどうにも止まらず、他の受講生たちが辟易している顔を見ているのが辛くなる時があります。

 さて、そんな時にはどう話を遮ったらよいのでしょうか?

 この分野は、「インターラプションの研究」として発表されています。遮り方が悪いと、相手は「どうせこの人は満足に聞いてくれない」と思ったり、「この人は自分のことを大切にしてくれていない」と感じ、部下や受講生が自分の本心を話すのをやめてしまいます。

 相手から自分の本心を話してもらうことで情報を得るやり方を、心理学で「ナラティブ・メソッド」と呼びます。本人が語る物語の中には、心理テストや書面などでは得られない重要な情報が入っているため、本人に話させることが大事なのです。

 ところが、対人関係の中で「本心を話す」ことは、意外に難しいのです。後述の私の調査結果をご覧ください。では、どうやって本心を話させたらいいのか?

 具体的な3つの対策を、続けてお伝えします。

相手に本心を話させる3つの対策

①“オートマトン”はNG
 “オートマトン”というのは、例えば、自動販売機にコインを入れると、コロリとペットボトルが出てくるような動き、つまり「自動操縦」です。

 話が長い相手に対して、「そう、そうだね」「うんうん」「はいはい」と同じようなうなずきを機械的に繰り返すと、これは“オートマトン”になります。

 それを見た相手は、「この人は自分の話をちゃんと聞いてくれていない」と直感します。

 そう感じさせないためには、うなずくタイミングや言葉にバリエーションを持たせる工夫をしましょう。

②大きなうなずき

 これは、「そうですか」「なるほど、お気持ちはよくわかります」などと相手の目を見て、背筋を相手に傾け、頭部を大きく振ってうなずくやり方です。すると、上司が「そうなんだ、よくわかるよ」と言った瞬間に、話し手である部下も一息つかざるを得ません。その瞬間を見て、発言権を自分側に取り戻すやり方です。

「そうだったのか、とてもよくわかるよ」「それは大変だったね」などと、ゆっくりめの口調で大きくうなずき、相手の目を見て言いましょう。「君の主張はわかったよ」というストロークになります。

③相手の話の整理

 これは、講演などでもよく使われるスキルです。

 まずは、相手の言いたいことを「あなたの言いたいことは、この3点でしたね」というように数字で示します。そして、相手の言い分を整理して、手短に箇条書きにして言ってあげるのです。

 この3点を上手に取り入れてみましょう。トップに立てば立つほど、何かを言ってくる人の数は増えます。

 部下やクライアント一人に対し、150秒(3分弱)聞いていられればよいのですが、自分が忙しくて、それどころではない場合も多々あります。

 私の実験室データの平均では、日本人2者間の対話の中、1分間で266文字ほど話せます。その平均から考えると、相手が800文字ほど話す間、自分がずっと聞いているということが難しい場合があります。そんな時は、うなずき方にも工夫をしましょう。

「よくわかりましたよ。あなたの主張は、次の3つですね」と、指で「3」のジェスチャーをしながら大きくうなずいて、「整理してみますね」と言ってから、3点をまとめましょう。

 これを聞いて、話し手も「自分はいろいろなことを言い過ぎてしまった。本当は何を言いたかったのだろう」と内心、反省する効果もあります。

 最大の効果は、「自分の言いたいことを、相手が聞いてくれた」と話し手が感じることです。例えばこのように部下が感じるようなうなずき方を上司ができた時、やっと部下は安心します。そして、次から部下は自分の本心を話すようになります。

 表をご覧ください。相手に本心を話せない理由としては、相手が上司であれば、「言ってもわかってもらえない」という信頼の問題があります。家族などでも、「相手に心配をさせたくない」という気遣いの気持ちがあり、友人などでは、「相手の限界を察している」ことが挙げられています。

 下の者の話をロクに聞かず、セカセカと自説だけを言うと、トップの品格が下がって見えます。上司は部下に対して、「大きくうなずき、なんでも理解している」といった、寛大な態度を見せましょう。

 ただし、必要に応じて、前述した3点を使って上手に話を遮りましょう。

 ナラティブの阻害調査(上司が相手の場合)

 ●単なるグチになる気がしたから

 ●自信がなかった(言い返されるのがこわい)

 ●不安だった

 ●その後の影響がこわい

 ●誰かの悪口になってしまうのではないかと思ってしまう場合 (クレームについて)悪い人ではないが、聞く態度がいかにもはやく切り上げてくれ!が見え見えだった

 ●自分の気持ちをうまく表現できない

 ●悩みが皆に知れ渡るのは嫌

 ●心配をかけたくない

 ●基本的に自分で解決を目指すから

 ●本心や本当のことを言っても、理解できないものさしを持っている人なので話さずに終わった

 ●本心を言っても相手には対応できる力量がないと感じたとき

 ●話すのが恥ずかしい・自分がみじめだと感じたとき

 ●本当に自分の弱い部分と本音を言いたかったのに、相手の表情から聞いてもらえないと感じたため

 ●信頼感がないから

 ●相手が理解したり、受容したりすることが期待できないから

 ●自分のすべてを見せるほどの信頼関係が築けていないとき

 ●弱さをすべてさらけだすことをためらったとき

 ●途中まで話したら、あまり親身になってくれていない(面倒がっている)ようにみえたから

 ●相手の時間や気持ちに気を遣いすぎてしまったので

 ●恥ずかしいから

Profile 

佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『日経メディカルOnline』、『日経ウーマン』はじめ連載6誌、著書178冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。21年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はinfo@kigyoka.comまで

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