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H.I.S.「変なホテル」を新たな収益源に

H.I.S.「変なホテル」を新たな収益源に

(企業家倶楽部2017年6月号掲載)

 2017年3月15日、東京ディズニーランドがある千葉・舞浜駅近くの、一見、ビジネスホテルのような建物に、大勢の人が詰めかけていた。HISホテルホールディングスの「変なホテル舞浜東京ベイ」がオープンするのだ。15年ハウステンボスに開設した「変なホテル」1号棟に続き2軒目のホテルとなる。

 ロボットホテルとして話題を呼んでいることもあり、セレモニーの会場には100人もの報道陣が詰めかけていた。100室程度のホテル開業にしてはあまりにも仰々しい。それだけこの「変なホテル舞浜」が期待されている表れといえよう。

 10時きっかりにセレモニーが始まった。ひな壇にはエイチ・アイ・エスの澤田秀雄会長兼社長はじめ、日本総研の野田一夫名誉会長ら6人が並び、テープカットが行われた。真ん中を陣取った澤田会長兼社長は、とびっきりの笑顔で輝いていた。「この『変なホテル』は常に変化し、進化するホテル。人の代わりにロボットを駆使して世界一生産性の高いホテルを目指している。100室規模のホテルだと通常30人のスタッフが必要だが、この『変なホテル』は7人で運営できる。人件費を大幅に削減、同規模のホテルと比べて利益率を倍以上に高めることができる。将来の人材不足に対応した新しいホテルのビジネスモデルを創り、世界に展開したい」と熱く語った。

 続いてHISホテルホールディングスの平林朗社長が、ホテル事業の成長戦略について説明。今回開業した「変なホテル舞浜」を含めてグループ全体で13軒あるホテルを、17年度中に30軒に、21年には100軒体制に拡大していく。8月には、愛知県蒲郡のラグーナテンボスに「変なホテル」3号店を開業。この3軒で培ったノウハウをシステム化し、システムそのものを販売していきたいと語った。

 ハウステンボスにある1号店はハウステンボスが運営するが、2号店以降の「変なホテル」はHISホテルホールディングスの展開となる。ラグーナテンボスの3軒目の後は、大阪、京都、中国、台湾、オセアニアへと世界展開の予定が決まっているという。

9種類140体のロボットが活躍

「変なホテル」1号棟からさらに進化したというこの「変なホテル舞浜」を紹介しよう。

 ここでは9種類140体のロボットが活躍、従業員は通常1~2人で回すというから驚きだ。入ってまず目に飛び込んでくるのは、実物大のティラノサウルスの模型だ。その迫力満点の姿に誰もがワクワクする。そしてチェックインを受け付けるのは、2台の恐竜型のロボットだが、インバウンドを睨み、日本語だけでなく、英語、中国語、韓国語にも対応する。

 ロビーの水槽で泳ぐ魚も実はロボットだ。記者会見の後、館内を案内した澤田会長兼社長は、この魚ロボットを掴んでは水槽に放して見せた。そして「ここで魚釣りをやったら子供たちが喜ぶと思うよ」とスタッフに指示。またフロアではゴミ箱ロボットが活躍、ゴミを回収するなど、ここにいるだけで楽しくなる。


エンターテインメント性にこだわり

「ここの『変なホテル』はエンターテインメントにこだわった」と澤田に長兼社長、東京ディズニーランドミ近いこともあり、子供連れのファリーやグループをターゲットとしており、ホテルにいても楽しめるよう、エンターテインント性を追求したという。

 客室はさほど広くはないが2人から4人がゆっくり休めるよう工夫、ベッドは寝心地を優先、業者と共同開発した体圧分散型のマットレスを使用。バストイレは完全セパレートタイプとし、深く広いバスタブを使用するなど、随所に工夫を凝らしている。

 そして全ての客室には、AI搭載の卵型の可愛いコミュニケーションロボット「Tapia」が配置され、お客の滞在をサポートする。この「Tapia」は1号棟に設置されたチューリップ型のロボット「チューリーロボ」より、かなり音声応答の精度が高くなっているという。

 実際「クーラーをつけて」と問いかけるとクーラーがつくし、「電気を消して」と話しかければ部屋の電気が消えるという具合だ。実際筆者も「これなら我が家にも欲しい」と思うほどだが、将来はこうしたコミュニケーションロボットの販売も視野に入れている。またチェックイン時に申し込めば、今話題の恐竜の世界が体験できるというVR「ハコスコ」も借りることができるという。

 宿泊価格は1室1泊2人で1万5000円、4人で2万円程度と、周辺のホテルと比較するとリーズナブルだ。

 この「変なホテル舞浜」の特長は、朝食レストラン「ジュラシックダイナー」を設置していることだ。洞窟のようなつくりで、大人も子供も楽しめるようになっている。朝から元気になってもらいたいという意向の元、子供が喜ぶメニューや元気の出るメニューなど約40アイテムを揃えている。料金は大人1800円、小学生以下900円だ。

「変なホテル」1号棟の客室にはお客が気づいたことを書き込むノートが設置してあるが、ここに書き込まれたさまざまな意見や問題を解決、2号店に活かしている。ロビーに設置した大きな恐竜ティラノサウルスや魚ロボットは、お客様からの「ロビーが殺風景で面白くない」という声から生まれたと澤田会長兼社長。今後はそれぞれの立地に合わせ、個性ある「変なホテル」を展開していくと語る。

ホテル業を収益の新たな柱に

 このロボットホテルは人件費を大幅に圧縮できるため、「1棟につき年間約3億円程度の利益がでる」と澤田会長兼社長。21年には100棟を目指すということは、単純に計算しても、大変な利益を叩き出せる勘定だ。「収益では本体の旅行業を上回るのでは?」との問いに「本体を追い越してもらいたい。子供が親を超えるようにね」と笑顔を見せた。

 昨年フランスやドイツなどでテロが相次ぎ、ヨーロッパ旅行客に影響を与えている。利幅の大きい欧州向け旅行客の減少は、旅行業者にとっては死活問題だ。H.I.S.も同様で、業績は芳しくない。16年10月期決算では売上高5237億円(前期比2.6%減)、営業利益142億円(同28・5%減)と低迷。ハウステンボスも熊本地震の影響で減益を強いられた。欧州旅行客の激減だけでなく、訪日観光客の”爆買い”も低迷。2月末に発表した16年11月~17年1月期の営業利益も25億円(前年同期比45・7%減)と落ち込んだ。

 そんな中、この「変なホテル」の展開は新たな収益の柱として希望の星となる。澤田会長兼社長の力がこもるのももっともだ。H.I.S.の社長だった平林氏をHISホテルホールディングスの社長に据え、本気で取り組む計画だ。

 21年までに100軒を掲げるが、これは直営だけでなくフランチャイズ展開やM&Aも含まれる。既に3月21日には、台湾で16施設を展開するホテル会社を子会社化することを発表。16施設のうち、1施設は「変なホテル」に転換するという。

 ホテルのタイプも今回の舞浜のようなエンターテインメント性の高いものだけでなく、出張などのビジネスパーソン向けのタイプも開発。さらに長崎で展開している「ウォーターマークホテル」なども力を入れ、立地に合ったホテルを展開していくという。

「旅行業は平和産業」と常に語る澤田会長兼社長だが、まさにテロの脅威にさらされる今は、旅行業で稼ぐのは容易ではない。そうした中、新たな収益源としてホテル業に力を入れるのは、旅行業とのシナジーも見込まれる。

 格安旅行業H.I.S.を日本最大級の旅行会社に育て、18年間赤字続きだったハウステンボスをV字回復させた澤田会長兼社長。次は世界一生産性の高いホテルでどこまでいくか、「変なホテル」がさらに進化、変化し、世界中に展開される日が期待される。

 12年ぶりに社長に復帰した澤田会長兼社長の頭には次なる展開が見えている。H.I.S.をITを活用した旅行業に変身させ、「変なホテル」でホテル事業を加速、3~5年後に売上高1兆円、利益500~1000億円企業を目指すと語る澤田会長兼社長。ベンチャー魂は枯れることがない。

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