会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2016年10月号掲載)
7月5日、東京・日本橋のロイヤルパークホテルで開催した第18 回企業家賞授賞式にて、企業家賞審査員長でエイチ・アイ・エス会長、ハウステンボス社長の澤田秀雄氏と、同じく企業家賞審査員であるジャパネットたかた創業者の髙田明氏が対談を行った。議題は、企業トップのあるべき姿や、失敗した時のモチベーションの保ち方、今後の展望など多岐に渡る。途中、参加者だけでなく、第18 回企業家大賞受賞者のストライプインターナショナル石川康晴社長からも質問が飛び出た。
澤田 まず、トップの仕事とはどうあるべきかについて語りましょうか。企業は社長次第です。本当に素晴らしい理念や熱意を持ち、努力できる社長が率いる企業は必ず勝つ。トップの立場で何が一番大切かというと「人を育てる」ことでしょう。
髙田 人材育成に関して、スキルはマニュアルを作れば教育可能です。しかし昨今は、そうした部分にばかり目が行き、夢を語る経営者や上司が少なくなっている気がします。
人は自ら成長していかなければ夢を実現できません。私は67年間、「失敗」が無い人生でした。本当に一生懸命やったことは、たとえ結果が出なくても「失敗」ではありません。私は20数年間、食事時間は常に10分、社長室は一回しか使っていません。本当にそれくらい、ずっとスタジオに立ち続けたのです。どうすれば皆さんに商品の魅力が伝わるか、お客様目線で試行錯誤し続けました。だからこそジャパネットは皆さんにご支援いただけたのだと思います。
澤田 一回目の失敗で「なぜ失敗したのだろうか」と考え、もう一回チャレンジする。また失敗して、原因を考え直し、もう一回チャレンジする。3回目に成功すれば、最初の2つの失敗は帳消しになるのです。そして、「成功した」と周りも評価してくれる。失敗したまま止めてしまうから、「失敗」になってしまうのです。
髙田 常に一生懸命やっていれば、失敗を失敗と思わなくなります。その結果、いつのまにか「成功」という言葉が出てくるのかもしれません。
「社長を辞める」と宣言
髙田 今までで一番の試練は2013年のことです。液晶テレビが売れていた2010年、売上げの6割をテレビが占めていました。その2年後、テレビが売れなくなり、利益が半減。会社が潰れるとは全く思いませんでしたが、年が明けた2013年、「過去最高益を達成できなければ社長を辞める」と宣言しました。結果として、売上げ1423億円、利益154億円まで回復。その翌年の2014年はさらに増収増益を達成しました。
覚悟すれば、こういう奇跡も起こせる。前へ前へと常に変化する中でも、創業期の精神に戻らなければなりません。なぜ利益を回復できたかと言うと、今まで目を向けて来なかったエアコンなど、他の家電に力を入れ始めたのです。そして東京にスタジオを作り、社員をたくさん採用しました。危機でも決してひるまず、通常とは逆のことをした。そうしたら社員がよく動いてくれました。
その結果、私は社長を辞める決心がつきました。もう若手に任せても大丈夫だと思ったのです。今年就任した若社長は最高の増収増益を達成する勢いで頑張っていて、応援しています。
澤田 私は山一證券系の協立証券再建が試練でした。山一證券が潰れた時に「是非助けてほしい」と頼まれ、二度断ったのですが、先方も熱心でしたから最終的に引き受けました。旅行業界のことは今まで手掛けてきたので大体把握していましたが、金融や証券のことは全く分からなかった。当時は金融庁からの検査が厳しく、行政処分・営業停止を二度も受けました。スタッフも半分くらい辞めてしまって、赤字続き。そのうち銀行もお金を貸してくれなくなって、お金がみるみるうちに無くなり、正直キツかったですね。お陰様で、今は黒字化し、株式上場の際の主幹事を務めるまでになりました。
やはり異業種に手を出すのは良くないと痛感しましたね。経営する上で便利なのは、代打を立てられるところです。人生において自分で経験できることは限られますから、後にモンゴルのハーン銀行を再建した際には、優秀な人材を見つけてきて、その道のプロに任せました。
つらい時こそ明るく元気に
髙田 それでは、参加者の方からの質問にお答えしようと思います。
問 失敗した時に落ち込むことがよくありますが、気力を保つコツなどありますか。
髙田 物事を達成できない原因は2つあります。一つは自分自身が自分を信じていないこと。自分を信じなかったら誰が自分を良い方向に変えていくのでしょうか。
もう一つは「できない」という考えに囚われてしまうこと。できない理由ばかり言う暇があったら、まずはその事実を受け入れて、10数%の「できる」可能性を100%に膨らますための施策を打ちましょう。
今のジャパネットがあるのは、10数年前にスタジオを作ったことです。商品のサイクルはものすごく早く、「新製品」と謳った商品も、放送局にテープを渡して放映する頃には「新製品」ではなくなってしまいます。スピードが大事で、スタジオを自社に作らなければならないと感じました。スタジオを作った当初、スタッフはゼロ。放送許可もいただいて、放映まで3カ月しかない段階で、派遣会社も使って20人から始めました。その後、時間をかけてうまく運用し、一番のピーク時には自社スタッフが100人いました。可能性を一生懸命考えた結果です。自分を信じ、できることを考え続ければ、あとはほとんど気力で達成できると思います。
澤田 私もその通りだと思います。長い人生、失敗もあれば落ち込むこともある。そういう時は、嘘でもいいから明るく元気に振る舞うことが大切です。そのまま暗くなっていくと自信まで無くしてしまいます。状況が悪い時ほど明るくいれば、案外早く立ち直れます。
髙田 どんな問題にも原因があって、それを突き詰めると結果がある。例えば、病気になった際には病原を探さなければ、いくら薬を付けても治りません。問題の原因を見つけて解決するのが人生です。それをずっと続けていたら、結果的に自分の成長に繋がり、人にも幸せを与えられます。あまり複雑に考えず、シンプルに今を一生懸命生きる。ただこれだけです。
無駄なことなど無い
問 どのようにして企業をここまで大きくすることができたのでしょうか。
澤田 どんな企業も、最初は数名の小さな規模からスタートしています。大きな目標、夢を持つことが大切だと思います。
私は若い頃、4年間ドイツにおりました。当時の欧州では結構安い航空券があったのですが、日本に帰国すると、どの旅行代理店も高い商品しか扱っておらず、これはビジネスになると思いました。
当時、私は27~28歳です。小さなマンションにあるオフィスにお客さんが来ても、「このチケット、すごく安いですね」と関心を持ちながら、「また考えて来ます」と言ったきり、二度と戻りませんでした。若者が小さなオフィスで半額のチケットを販売しているものですから、きっと詐欺だと思われたのでしょう(笑)。
お客は1週間に1~2人くらいしかおらず、半年間は暇でしたから、近くのパチンコ店に置いてあった徳川家康の伝記や三国志を読み漁りました。それが戦略、マーケティング、歴史の勉強になった。マイナスの状況でも、やり方によってはプラスになります。事業を止めようと考えた時も、本に「石の上にも3年」と書いてあったのを思い出しました。
髙田 若い時は、夢は漠然としていてもいいと思います。何かをやると決めても、その通りいかないことが多いですからね。チャレンジしてみたら徐々に関心が出て来て、そこから夢へと繋がっていく。人生で無駄なことは何一つ無いのです。積み上げていけば、必ず後に生きてきます。
澤田 「継続は力なり」です。これも、本に書いてありますよ。
決して軸をぶらすな
石川 洋服から事業を始めたストライプインターナショナルですが、現在インテリアや化粧品などライフスタイルの商品に手を広げています。お二人が事業領域を広げる際の要諦をお教えください。
澤田 「選択と集中」と言って、自分の得意な分野に人・物・金を集中させ、世界一にします。手を伸ばすなら関連業種がいいですね。私は様々な分野に手を出しすぎて反省しています。全く違うビジネスに挑戦すると、勉強しなくてはならず、大変ですから。それでも、まだ新しいことにチャレンジしようと考えています。
髙田 私は化粧品や中国展開も勧められましたが、あくまで家電が中心でした。自分の持っている軸を絶対にぶらしてはいけません。黒色と白色を混ぜたらグレーになるように、今持っている強みから新しい業態や商品、サービスを作ることは可能です。
したがって、全くの新規分野をあえて開拓する必要はないと思います。「アパレルを通して世の中に貢献する」という信念から繋がるものはたくさんあるでしょう。
人生は素晴らしい
澤田 現在ハウステンボスで実験的に進めていることが2つあります。まずはエネルギーの開発・販売です。電気は現代の生活に絶対必要なものですが、原子力や化石燃料に頼るのはあまりよくありません。自然エネルギーの生産性を向上させ、電気を安く供給することで世の中に貢献したいと考えています。
もう一つはロボットカンパニーを作ることです。すでに「変なホテル」でロボットを手掛けています。今まで人間がやりづらかったことをロボットに替わってもらう。世界のロボットメーカーが来て、新しいプログラムを開発しています。
髙田 私はもう経営はしていませんが、「世の中に貢献する」というジャパネットの理念を引き継いでくれた社員に対して、後方支援できたらと思っています。
私は伝えることの大切さを30年かけて学びました。伝わらなかった時には、商品を買ってもらえなかった。ビジネスでも政治でも同じです。いかにコミュニケーションをとっていくことが大事か。講演の機会をいただくことも多いので、「人生は素晴らしい。一度きりですから、意義のある人生を送りましょう」と伝えていく。私は今67歳ですが、そんな老後をあと50年続けたいと思います(笑)。