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【トップの発信力】佐藤綾子のパフォーマンス心理学第31回

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

トップの話す力は「聞く力」から―「積極的傾聴技法」

(企業家倶楽部2016年1・2月合併号掲載)

「話す力」の中に「聞く力」が結晶した成功者たち
 「企業家賞」の授賞式で、成功した経営者の話を聞いていると、話運びの巧みさに感動します。

 たとえば、ジャパネットたかたの髙田明前社長は「そうでしょう?皆さん」という呼びかけスタイルの「巻き込み話法」が絶妙です。

「人前で話すのが一番苦手でした」と言いながら、今やサイバーセキュリティについて語り出したら情熱を笑顔に包んで聞き手をひきつけたのはハーツユナイテッドグループの宮澤栄一社長でした。

 ユーグレナの出雲充社長もあまりに愛情こめて「ミドリムシはそんな悪い環境だと育たない」などと言うので、エイチ・アイ・エスの澤田秀雄氏から「だから、その育てるとか、生きるとかいう熱心な言い方を聞いていると、ミドリムシは虫だと思うんですよ」と笑いながら質問されていました。

 上記の3人を含め、私が35年間ビジネスプレゼンセミナーの受講者たちを見ていても成功して衆人の注目の的になっている経営者は、皆さん結果的には猛烈な話上手です。

 でも、実はその時点で私たちは大事なことを忘れてしまっているようです。

 それは、彼らがここまでの地位にくる間にどれだけ自分らしい話し方の模索を重ね、社会のニーズを様々な人から聞き取って起業し、しかも起業後は多くの社員やクライアントの言い分をうまく聞き出してきたか、ということです。「聞く力」の積み重ねが結果として「話す力」に結晶したのが成功者。「聞く力」だけの連続で、自分の理念→戦略→計画という一連の行動の明示に至らず黙っているだけの「静かな聞き手」は結局経営者にはなれなかった(ならなかった、と言う本人の言い分も含めて)というのが事実でしょう。「サイレントマジョリティー」(物言わぬ大半の人々)の仕組みです。
 
ニーズを聴き取ってビジネスチャンスにつなげた例 
 一方優れた話力のトップリーダーたちはどうやって「相手のニーズ」や情報を聞き取りながらチャンスをつかんで来たのか。それは聞き取る力にあるのです。

「会社のパソコンでバグが出てこまる。サイバーアタックにやられているらしい」とは、だれしも聞く話です。それに耳を傾けてビジネスにしたのが宮澤さんの仕事でしょう。マーケットのニーズをきちんと聴き取ったための勝利です。

積極的傾聴技法

 では実際のビジネス交渉の場での「聞く作業」のヒントは何でしょうか?相手のニーズを話中の会話の中からたくみに掴んで的確なフィードバックを返していくのが「積極的傾聴技法」(activelistening )です。

 この技法のメリットは相手の信頼感が獲得できることです。

 歴史的には大きくさかのぼりますが、実は営業トークの原点はギリシア時代のアリストテレス(BC384~322)の「弁論術(レトリケス)」にあります。
 
アリストテレスが教えた3つのエトス 
 アリストテレスは目の前の人間が言うことを「それは本当だ」と相手に思わせる力を「エトス」(信憑性)と呼びました。

 このエトスは時間系列で次の3点です。

 ①事前エトス(話す前)、②由来エトス(由来エトス)、③終結エトス(話した後)

(詳細佐藤綾子著「自分をどう表現するか」(講談社現代新書)、「プレゼンに勝つ!魅せ方の技術」(ダイヤモンド社)の2冊参照)

 事前エトスはプレゼンの相手に会う前に相手に関する情報を徹底的にしらべて相手の「関心」、「優先順位」、「能力、あるいは財力、知力」の3点を把握して、的を絞って話せることから発生します。

 それが正に「敵を知り、己を知れば百戦してまた危うからず」です。

 2番目の「由来エトス」は話中の相手とのやりとりのなかで発生してくるエトスです。

 相手の質問には、主旨を正確に把握して的を絞って短く答えましょう。

由来エトスに持ち込む「SOLER原則」

「SOLER原則」はアメリカの営業研修から誕生したことばですが、私のビジネスセミナーで常に成果をあげているスキルです。

 このような聞き方ができると相手は満足感を抱きます。自分の自己表現欲求が満たされ、それによって目の前の相手の言い分もまた、よく聞いてあげよう、と感じる「自己表現の返報性」のしくみです。

 こうしてやりとりが順調に進むと信頼感と「共同体感覚」が生まれ最高の由来エトスになります。

終結エトス

 終結エトスは話が「本当に今日はよかったです。ありがとうございました」などという言葉とともに両者の満足や契約の成立で終る段階のエトスです。

 実はこれにも大原則があります。

 相手がこの対話で絶対にWin-winの感触をもって終わることです。「うまく乗せられた」、「相手のペースで仕切られた」と言う感触を残すと、次の取引につながりません。ここ数年ずっと人気の「ハーバード流交渉術」でも常にこの「ウイン-ウインの交渉術」は重視されています。一方的に自分の主張が勝つことだけを目指す話し方は人間関係を壊します。

 要約すると聞き上手は次の4ステップです。

 1・双方が利益を得るWin-winを守ること

 2・そのために相手のメリットを明示すること

 3・相手の関心や優先順位、美意識、財力などの徹底した情報収集をすること

 4・話中の相手への積極的傾聴技法を守ること


●積極的傾聴(active listening)- SOLER原則

Squarely 真っすぐに向き合う

Open posuture 開いた姿勢

Lean 相手へ少し体を傾ける

Eye contact 相手の目を見る

Relaxed リラックスして聴く

Profile 

佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『日経メディカルOnline』、『日経ウーマン』はじめ連載6誌、著書178冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。21年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はinfo@kigyoka.comまで

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