会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
左:俺のBakery&Cafe支配人 飯田卓也 右:俺の株式会社代表取締役社長 坂本 孝
(企業家倶楽部2017年1・2月合併号掲載)
俺のフレンチ、俺のイタリアンで名を馳せた俺の株式会社が、今般ベーカリーカフェに進出、話題を呼んでいる。ブックオフの創業者から飲食業界に転身した社長の坂本孝氏は「料理人にマネジメントを……」と経営者の育成に余念がない。坂本社長と“ 日本一の食パン”で彼の期待に応える飯田卓也氏の2人に繁盛の極意を伺った。(聞き手: 本誌副編集長 三浦貴保)
問 「俺の……」といえばミシュランの星付きのシェフが高級材料を使った本格料理を、リーズナブルな価格で食べられるというのが特長だと思っていたので、今回、俺のベーカリー&カフェを出店すると聞き驚きました。なぜパンですか。
坂本 今は時代がどんどん変化しています。その波に一番乗り遅れているのは飲食業かもしれません。中華料理にはいろいろありますが、餃子をつくらせたら絶対日本一という人がいるでしょう。それこそが本当の職人だと思うのです。フランス料理や中華料理は多岐にわたっているので、スペシャリティが出てこない。そこで一つのものを極める方向に行こうと思ったのです。
問 今は良いお店はお客様同士が口コミで広げています。
坂本 ベーカリーカフェで、すごい行列ができている店があると知って……。そこでフレンチ一筋でやってきた飯田卓也さんをトップに、俺のベーカリー&カフェのマネジメントを身に着けてもらおうと。今回、私は店名とマークだけ決めて、あとは卓さんに任せました。
日本一の食パンで勝負
問 この店の特長をご教示ください。
坂本 日本一の食パンを作ろうと考えています。コッペパンやあんパンはつくらない。食パンのみで勝負し日本一になる。この店の一番のコンセプトは料理人がマネジメントすることです。
問 俺の生食パンを食べたら、びっくりするほど美味しかったです。日本一を目指すといってもパンづくりは難しいのではないですか。
飯田 私自身パンの職人ではないので、まずは素晴らしいパン職人を探すのに苦労しました。榎本哲さんという凄いパン職人に出会うことができました。
問 どの位、探したんですか。
坂本 日本中、猛烈に探しました。
問 何人も探してようやく出会えたのが榎本さんですね。食パンだけとなると、かえってプレッシャーが大きくないですか。
飯田 目指すところに向かって1年かけて検証してきました。日本一の食パンをつくるというところから入りましたので、素材探しから始めました。小麦粉は北海道で何日も探して、キタノカオリをメインとした独自配合に行きつきました。
問 食べた時の自然な甘さがすごいですね。
飯田 俺の生食パンの色は少し黄色みかかっているのも粉の特長です。生で食べることをお薦めしています。
問 ミルクにもこだわりがあるのですね。
飯田 岩手の中洞牧場のミルクを使用しています。先方から「値段が高いからやめたほうがいい」といわれましたが、ぜひにとお願いしました。ここのミルクを使ったら今までを超えるものができた。中洞牧場は非常にこだわった牧場です。
問 何が違うんですか。
飯田 飼育の環境が全然違う。放牧で餌も草のみで、本来あるべき姿で飼育しているので牛に全くストレスがない。そこから出る牛乳は美味しいのです。
問 なんともいえない柔らかさや甘さはこのミルクの力もあるのですね。それで食パン1本1000円になるわけですか。
飯田 ミルク自体も一般の5~10倍のお値段です。しかし、食パンの重さも1キロあります。
問 パン職人はどうやって育てたんですか。
飯田 この食パンは技術力が必要で、ミルクが暴れ馬というか、日によって仕上がりが全然違うので相当気を使わないと常にいいものができない。日本一の食パン作りのスタッフが集まっています。
問 それだけでもワクワクしますね。パンもカフェも行列しています。
飯田 カフェも想像以上に多くのお客様に来ていただいています。
問 サンドイッチメニューもすごい。特に卵のサンドイッチは感動しました。
飯田 ダシが入っていますが、火の入れ方も普通のだし巻きではなくて、フレンチのテクニックを使っています。
問 卵としっとりやわらかい食パンが絶妙の味わいです。人気メニューベスト3を教えてください。
飯田 1番は厚焼きたまごのサンドイッチで、圧倒的に人気です。2番目はイベリコ豚カツサンドイッチ。「俺の」らしさということもありますが、肉を食べているという感じで本当に美味しい。
問 卓さんのような料理人の知見が凝縮されているんですね。
飯田 3番目は淡路玉ねぎのグラタントーストです。「俺のフレンチTable Taku」の人気メニューをアレンジしました。普通のカフェにできないことをやりたいとの想いが込められています。
問 スタートして1カ月、マネジメントの仕事はいかがですか。
飯田 一料理人が企画書から事業を立ち上げるという機会はめったにありませんので、大変感謝しております。予想以上のすべり出しで、食パンは一日10回焼きますが、500本が毎日完売しています。
ロングランの味を
問 「俺の」らしさをどうやって出していくのですか。
坂本 やはりテーマは日本一。しかし味はロングランにしないと意味がない。飽きないで人の心の中にぐっと染み込む味を作り出す。
問 印象に残る味ですね。この繁盛ぶりを見たら、出店要望が来るのではないですか。FC展開についてはいかがですか。
坂本 卓さんが何人もいればいいんですが。機械で作るわけでなくて人が作るので難しい。
問 良いパン職人さんを確保するのが先決ですね。一カ月経って、課題も見えてきていると思います。
飯田 ここは良いスタッフが揃っていますので、このまま成長できたらいいと思います。
メンバーは皆、厳しすぎず楽しく。楽しいけどゆるすぎず、モチベーションを持ってやっていける環境ができています。
問 皆さん明るくて伸びやかで、卓さんらしい店になっていますね。これまでの「俺の」と比較し、カフェだとお客様の層が広がるのではないですか。
坂本 今まで銀座中心のロケーションでしたが、ここは公園みたいなところ。気軽に来店されます。犬の散歩の途中の方も多い。
問 ベーカリーカフェは日常ですから、客層が広がったと思います。「俺の」の認知度を上げるにはいいですね。
飯田 今までと客層が違う。とくに女性、マダムの率が圧倒的ですね
人を育てることから
問 坂本社長、次はどんな展開を考えていますか。
坂本 目新しいものを追うのではなく、今の業種業態のお客様満足度を高めることを一番に考えています。特にサービス、接客に力を入れることで2割の伸びしろを埋めることができる。
問 今までは立ち席を3.5回転で回すということでしたが、最近は椅子に座れるようになりました。それだと回転が悪くなる気もします。
坂本 オペレーションがよくなっていますから、効率は落とさず生産性が上がっています。まだ余力がありますので「目指せ日本一のサービス」です。
問 海外展開についてはいかがですか。
坂本 中国に2店舗、韓国に1店舗ありますが、韓国にもう1店出店します。我々は、原材料からつくるフルサービスのテーブルサービス業。単品のファーストフードとは違います。海外よりまだ国内にマーケットは沢山ある。
問 四国の松山市に出店するとお聞きしました。
坂本 俺のフレンチをフランチャイズで2017年4月出店予定です。思っているより「俺の」の知名度が高いので驚きました。
問 他の地域から出店要請がきそうですね。
坂本 そういう面でFC1号店は焦らず一つひとつ大切にやっていきます。
問 国内での今後の展開はどうでしょう。
坂本 今は35店舗ですが、まずは20ある政令指定都市に俺のフレンチ、イタリアン、その他と3店舗出すとすれば計60店。十分市場はあると。しかし慌てずゆっくり落ち着いて。いちばん大切なのは人を育てること、人が育った分だけ店が出せる。
問 株式上場の予定についてはいかがですか。
坂本 2017年には上場したいと考えています。
問 俺の株式会社が上場すれは、坂本社長は2度株式上場させた社長になりますね。今後の夢をお聞かせ下さい。
坂本 飲食の学校を作りたいというのが当初からの夢。人を育てることが私のライフワークです。
飯田 この事業を成功させ、皆と10年後も笑っていたいですね。