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【核心インタビュー】SBIホールディングス代表取締役執行役員社長北尾吉孝氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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ALAで世界中の人々を健康に

ALAで世界中の人々を健康に

(企業家倶楽部2014年10月号掲載)

 金融の専門家として今なお走り続けるSBIホールディングス北尾代表が、実業家人生最後の大仕事として全力投球するALAとは何か。そして、その可能性とは。

(「聞き手:企業家ネットワーク社長 徳永卓三)


ALAの限りない可能性

問 ALAとは何でしょうか。

北尾 ALA(アラ、5-アミノレブリン酸)は生体内アミノ酸の一種で、エネルギーを作り出す活動をサポートして体の基礎を作りますが、体内で生産されるALAの量は加齢と共に低下すると言われています。ALAには近年の研究で極めて大きなポテンシャルがあることがわかってきました。

問 具体的にはどのような研究が進んでいるのでしょう。

北尾 例えば、心臓バイパス手術後に心拍出量(一回の拍動で排出される血液量)の低下が起こるケースがあるのですが、オックスフォード大学ジョン・ラドクリフ病院循環器内科のアシュラフィアン教授によれば、ALAを手術前に飲むと、この心拍出量の低下をもたらす心筋細胞の細胞死が抑制されることが、動物実験でわかっています。今年度中にフェーズ2段階の臨床試験を英国で申請し、開始する予定です。 
 また、当社の子会社のSBIファーマではグリオーマ(悪性神経膠腫)の術中診断薬「アラグリオ」を既に発売していますが、さらに膀胱癌の術中診断薬として高知大学など5大学が医師主導治験を進めており、フェーズ3の追加試験を計画中です。 
 なお、中東のバーレーンでは、医師の裁量のもと、既に膀胱癌の摘出手術が7例成功しています。あらゆる癌の術中診断に使える可能性を探り、バーレーンでは前立腺がんの手術も予定されています。 
 その他にも現状で、実に様々な疾患とALAに関する研究が進められています。例えば、バーレーンや広島大学では糖尿病、北海道大学ではアルツハイマー、島根大学ではパーキンソン病、埼玉医科大学ではミトコンドリア病、東京大学ではマラリアといった具合です。 
 抗がん剤の副作用による貧血に対するALAを用いた治療薬の研究は、英国でフェーズ1が終了し、埼玉医科大学で医師主導治験のフェーズ2が進行中です。 
 また、今年4月からは日本で医療機器も販売しています。国内で販売中の医療機器は手術時の補助光源で、ALAを用いた光診断、光治療に必要な光学機器の開発も進めています。

 バーレーンでは既にALA25㎎入りの健康食品を販売しているのですが、バーレーン国家保健規制局の許可を得て、その健康食品の箱には「糖質と脂質の代謝を促進」及び「エネルギー産生の促進」と記載されています。また、アラブ首長国連邦の製薬企業ともALA事業の業務提携に向けて交渉中です。

問 世界中で注目されているのですね。

北尾 はい。中でも我々の最大のマーケットは中国です。米国医師会雑誌のJAMAによれば、中国の糖尿病患者数は1億1390万人で、日本の人口と同じくらい。また、その予備軍は成人の2人に1人である4億9340万人にものぼります。現在、復旦大学生命科学院で糖尿病に関するALAの有効性研究が行われています。ALA製品の販売については中国の復旦復華、新希望集団と提携を結びましたし、上海自由貿易試験区にはALA含有健康食品を日本から輸入販売する会社の設立準備を進めています。

問 富裕層向けですか。

北尾 現在の商品だけではそうなりますから、当社グループが出資している中国のバイオベンチャーにて低コストで現地製造する予定で、各種ライセンスを申請中です。来年には下りるでしょう。中国では安価な製品を作って、どんどん普及させたいですね。

問 日中は政治的には厳しい状況にありますが。

北尾 鄧小平が言ったように次の賢い世代に解決を委ねるしかないでしょう。尖閣諸島に関してはお互いの言い分がある。なかなか収まりません。しかし、政治家以外にビジネスの世界では尖閣問題についての話をする人は誰もおりません。ただし、現在は江沢民政権時代の反日教育を受けた人が45~55歳位で行政機構の中枢にいるから、ビジネスを行う上でもなかなか難しい状況ですね。

 中国には昔から「真ん中に咲く華」という中華思想があります。胡錦濤政権になってから再び強調され始め、現国家主席の習近平氏もよく言うのは、「偉大な中華民族の復興」というフレーズです。つまり、長い歴史の中で中国が世界ナンバーワンでなかったのは、産業革命後のわずか300年足らずの間だけだと言うわけです。中国はまた世界での存在感を高めようとしている一方で国内に色んな火種を抱えていますから、軍事をどんどん拡大して、国外に国民の目を向けさせようとしています。

 こうした状況下で日本は、TPPをなんとか実現させ、グローバル経済の中で貿易面で生きる道を確保していかなければなりません。今、韓国と中国の自由貿易交渉がまとまりつつあります。中韓FTAが成立したとすれば、下手したら中国への日本の輸出がガタッと減ってしまうかもしれません。だから早くTPPを妥結しなければならない。農業関係者が反対していますが、世界情勢を考えれば仕方が無いことですね。

問 農業はそもそも厳しいですからね。

北尾 農業従事者の平均年齢は66歳です。そしてGDPに占める農業の割合はの1%程度しかありません。しかもどんどん農業従事者が減っている。食料自給率をカロリーベースで計算して、「4割を割って問題」だとしていますが、戦時中のあれだけ輸入が難しい時でも作物が作れた。日本は農業よりも、日本にはほとんどない石油、天然ガスといったエネルギー問題などをより深刻に考える問題があるでしょう。


ALAとの出会い

問 ALAを取り扱うこととなった経緯をご教示下さい。

北尾 現在SBIファーマCTOの田中徹氏が、コスモ石油の中央研究所に在職していた当時、生産コストを大幅に下げたALAの大量生産に成功しました。コスモ石油としては肥料や飼料を手掛けていましたが、薬の開発には莫大な費用がかかりますし、石油会社としては、人体に関わる事業に踏み込むのは難しかった。

 そんな折、当時のコスモ石油の岡部会長と木村社長からALAについて相談を受け、その可能性に惚れこんだのです。私は大学進学時に医学部に行きたいと思っていましたし、当社グループでも次世代の成長産業としてバイオ分野のベンチャー企業に積極的に投資をしていますから、興味をそそられないわけがありません。そこで、当社が85%、コスモ石油が15%を出資して現在のSBIアラプロモファーマを設立しました。現在、製薬部門をSBIファーマが販売部門をSBIアラプロモが担っています。

問 SBIアラプロモが手掛ける、歌手の郷ひろみさんを起用した健康食品「アラプラス」のテレビCMが好評ですね。国内の販売は好調ですか。

北尾 まだまだこれからですが、アラプラスはコマーシャルで認知度が非常に上がりました。取扱店舗数もコマーシャル開始前の約600店から3000店を超え、近日中に5000店を達成したいと思っています。現在は、健康食品や化粧品のアラプラスシリーズを販売中です。

 ALAへの関心は高く、エーザイでもALAを配合した健康食品「美チョコラエンリッチ」を販売するなど、他社でとのALAを配合した商品の取り扱いもが増えてきています。提携も視野に、流通網、チャネルを使って一気に伸ばしていきたいと思っています。

 マラリア原虫に対するALAの抑制効果の研究も東京大学や東京工業大学と進めています。マラリアに苦しむインドやアフリカの人にこそ飲んでもらいたい。近い将来大幅にコストを下げて、世界中のどんな人でも買えるように安く供給できるようにしたいと思っています。


神が我にALAを与えたもうた

問 なぜ、金融のプロがALAなのでしょうか。

北尾 若いころからインターネットに慣れ親しんだ層は、金融取引をインターネットで行うことに抵抗がありません。ですから、経営は時間の関数で、SBIのインターネット金融事業関係は、今後自然と着実に伸びていくと思います。投資事業も専門家がグループ内に多く育ってきました。海外での金融サービス事業はまだ、私がやらなければならない部分があるでしょう。6月にはロシアで当社が50%出資するヤールバンクがオンラインバンキング事業を開始するなど、金融事業の海外展開を推進しています。

 私はこれまで、インターネットの価格破壊力を武器に、ネット証券を作って手数料を大幅に下げ、ネット銀行を作って高い預金金利を実現させ、損保会社では大幅に保険料を下げてきました。しかし、ネットでの金融取引のユーザーは、現状は基本国内に限られています。投資はやはり富裕層が中心です。それに対し、健康でありたいという想いは全世界の全ての人々が共通する願いとなります。

 今年、私の右腕だった前副社長の井土太良さが57歳の若さで亡くなりました。とても辛かった。何度も検診に行け、煙草をやめろと言っていましたが、病気が見つかったときは手遅れでした。現在当社グループでは、一流の医師を迎え、最新鋭の設備を備えた東京駅のすぐそばにある東京国際クリニックという病院の設立、運営を支援しています。当社の役員は必ず、ここで人間ドックを受けてもらいます。また、医療の専門用語がわかる通訳をつけることで、中国の富裕層向けに日本での検診ツアーも可能でしょう。

 直接的に世界人類に貢献できる最後の事業として、私は命懸けでALA事業に挑みます。振り返ると、私の最後の事業として、天はALAという物質を与えたもうたのではないかとすら思えます。あと数年で1兆円事業になると私は信じています。

問 ぜひ、実現させてください。

北尾 何でも、夢を描き、それを信じて突き進まなければなりません。(ソフトバンクの)孫さんも創業当初から売上を豆腐のように1兆2兆と数えるような企業を作るという心意気でやってきたんですから。私も彼を見習って、孫さんに負けないくらい夢を描き、それを具現化していきます。

P R O F I L E

坂本 孝(さかもと・たかし)

1940 年山梨県甲府市生まれ。オーディオ販売や中古ピアノ販売、化粧品販売などいくつかの自営業を経て、1990 年にブックオフコーポレーションを創業。中古本チェーンとして16年で900店舗まで拡大し、古本業界の流通に変革をもたらした。現在は飲食事業の展開に取り組んでいる。1999 年度第1回企業家賞人材育成賞を受賞。

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