会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2017年4月号掲載)
本格的インターネットテレビとして2016年4月にそのベールを脱いだAbemaTV。いまだかつて無い数々のチャレンジで放送業界の新時代を切り拓く。その強みは何か、可能性を聞いた。聞き手:本誌副編集長 三浦貴保
ド新規のサービスで業界に切り込む
問 2016年4月にスタートしたAbemaTVですが10カ月程経って感触はいかがですか。
小池 認知度や展開を含めてスタート前に考えていたペースよりも早く成長しています。AbemaTVのモデルは実にユニークです。まず事前登録無しで番組を視聴できます。さらに無料で、大量にチャンネルがあり、ユーザーインターフェイスも世の中のトレンドが縦スクロールが多い中、あえて横スクロールの形式を使っています。
問 未だどこもやったことのない新規のサービスということになるのでしょうか。
小池 新規の先を行く「ド新規」であると考えています。AbemaTVは、いまだかつて無い受動型の映像サービスです。
多くのインターネットの動画サービスはYouTubeのように、ユーザーが動画を投稿する投稿型メディアか、ドワンゴのニコニコ生放送のようにユーザーが配信者になってLIVE(生放送)で映像を配信するケースがあります。最近ではネットフリックスやアマゾンビデオのように、映像素材を自分たちで仕入れて、月額課金で見せる方式もありますが、見せ方としてはユーザーが見たいものを検索して再生する形です。
我々の場合はテレビと同じで、番組編成を行っており、AbemaTVのウェブページ、またはアプリを開いた瞬間に放送されているコンテンツを見てもらう形式となっています。従って、いつ見られても番組を提供できるよう24時間映像を流し続ける必要があります。どのタイミングでも何かしらコンテンツが放映されている状態。それが28チャンネル(2017年2月時点)あります。
問 配信されているチャンネル数は30近くと多岐に渡っていますが、AbemaTVは何を狙っているのでしょうか。
小池 ネットTVを見ることを人々の生活に根付いた新たな習慣にすることです。AbemaTVを習慣化するために、まずニュース番組があることが大事と考えました。そこで、ページやアプリを開いた1チャンネル目にはニュース番組が表示されるように作ってあります。他にも、あらゆるユーザーに見てもらえるよう多数のジャンルのチャンネルをラインナップし、その中で興味のあるチャンネルに滞在していただきます。ユーザーが視聴を始めた際のザッピング(リモコンでチャンネルを頻繁に切り替えながらテレビを見ること)はだいたい平均値で10チャンネル前後ですが、見るものが落ち着いてくると3チャンネル前後になります。使っているうちに見るものが決まってきたら、おのずと習慣化しやすくなります。
ウィークリーのアクティブユーザーは年末年始に500万ユーザーを超えましたが、今後はその規模よりあと3~4倍を狙っていきたいです。まずは2倍を目指し、1週間で1000万ユーザーが使っているような状態を作りたいと考えています。
問 AbemaTVを習慣として根付かせるために取り組んでいることを教えてください。
小池 それぞれのチャンネルで24時間ただ映像を流し続けているわけではありません。ユーザーにどういう視聴をしてもらいたいかによって編成の仕方を変えています。例えば平日放送のドラマだと、横の編成を狙っており、比較的人の多い19時に1話ずつ流していきます。そうすると、月曜日に番組を見た人が続きが気になって火曜日も見てくれやすくなります。
逆に週末は時間のある方が多いので、3~4時間続けて同じ番組を流したりと縦の編成を意識しているのです。このような変動的な編成を全チャンネルに渡って綿密に組んでおり、その作りはコンテンツごとに最適化された異なる形をとっています。
ただ、念入りに編成をしてコンテンツを置いたところで、放映されていることを知られていなければ見に来てもらえません。どのような番組が何時から放映されるのかを告知する「番宣」が不可欠です。番組内のどのタイミングで番宣すればいいかを考え、さらにドラマが始まるという告知をスマートフォンの通知にも届けます。これら全てを含めた編成を我々は毎週、放映している全チャンネルで考えています。この編成は他のネット映像配信ではやっていません。AbemaTVだけです。
問 一番見ている年齢層や、一番人気のチャンネルは何でしょうか。
小池 年齢層は10代から30歳前後までの方が多く、男女比は6:4ほどです。人気のチャンネルでは、アニメチャンネル、ドラマ、ニュースの3つがよく見られており、平日昼間でも1チャンネルあたり1万を超える人が視聴しています。
視聴に使われるデバイスはスマートフォンのアプリケーションが8割くらいです。そして10%ずつでPCとタブレット。多くがワイファイ環境下で通信し、視聴しています。
会社を牽引する次の柱へ
問 全く前例のない方式でスタートした結果としては、いまのところ良い方向に振れているという状態でしょうか。
小池 AbemaTVは今までにない要素をふんだんに取り込んでいますが、同時に大コケする可能性もありました。振り幅が大きいというのは斬新ではありますが、同時に大きなリスクを背負うものです。その中で、今のところは上昇傾向で来ていると思っています。
問 リスクを取りながら、この形を採用したのは何か意味があるのでしょうか。
小池 他が既に始めているモデルを少し変え、後追いでやっても成功しません。全く新しいモデルで新しい価値を作っていかないと大きいチャンスは来ないと思いました。同じようなサービスを作ってそこそこの収益を出す選択肢もありましたが、社長の藤田や私も含めてAbemaTVにかける皆の想いが「次の会社の成長を牽引する規模の事業にしたい」とのことだったので、事業の規模を100万人で成功とはせず、数千万人のユーザーが常に使っているようなサービスにするべくスタートしました。
問 今、AbemaTVはどの成長段階でしょう。
小池 我々の事業フェーズはスタート段階でいうと3つのタイミングに分けています。まずスタートの初期タイミング、これから本当に成長するかというタイミング、高さを伸ばしていくタイミング。うまくいけばステップを踏んでいけますが、我々はまだ2ステップ目の「どう成長させていくか」のタイミングです。スタートが良かったからと言って、この先成功するとは限りません。 第2、3ステップまで行って初めて良い状態に入ると思うので、気を抜けない時期です。
1ステップ目で大事だったのが、埋もれないことです。僕らは動画サービスの中では後発だったので、登録情報必要なし、新鮮、たくさんの番組がタダ、使いやすい、フレッシュ、などの要素をとにかく盛り込んだサービスにしました。埋もれない形でスタートを切れれば、初期のタイミングは乗り切れると思っていたので、まずは1000万ダウンロードまでいきたいと思って走り出しました。
問 今はどのくらいダウンロードされていますか。
小池 1300万ダウンロードを超えたところです(2017年2月時点)。初期に想定していた数字は超えることができました。まだ安心はできませんが、埋もれなかったという点では合格と言えるでしょう。
問 テレビ朝日と組んでAbemaTVを始められたのはなぜですか。
小池 もともとAbemaTV開始より前から弊社の藤田とテレビ朝日の早河洋会長は付き合いがあり、藤田はテレビ朝日の番組審議員でもあります。また、弊社の事業の中にアメーバピグという仮想空間のアバターサービスがありますが、その中で「テレ朝エリア」なるものを作って一緒にデジタルグッズを売る共同事業も展開していました。そして約2年前、アメーバで動画事業を始めようと話が出た際、内製のオリジナル番組が肝になると考えました。そのためにはプロの人たちと組まないといけないと思い、藤田が直接、早河会長に相談して快諾いただいたことがAbemaTV誕生のきっかけです。
今でこそニュースやバラエティも放映していますが、我々だけでは何も番組制作のノウハウを知らない状態だったので、テレビ朝日さんと組んで事業を行えていることで助かっている面が多いです。
番組を作るために原宿の竹下通り前と外苑西通りにスタジオを作りました。原宿の「HARAJUKU Abema Studio」では駅前の大通りから見ることが出来る公開生放送ブースを構え、外苑西通りにある「Chateau Ameba」では建物内に全6スタジオを内蔵、週に約40本の番組制作を行っています。
常に大きなチャレンジを
問 御社のAbemaTVに対する熱意はすごいですね。本気度がひしひしと伝わってきます。
小池 社長の藤田も相当強い想いを持って取り組んでいます。意地でもAbemaTVを次の柱にするという意志の元、かなりの時間を使っているのも事実です。その熱意を共に、私もやらせていただいています。
問 今後の抱負としてはどのようなことをお考えでしょうか。
小池 AbemaTVを何がなんでも成功させないといけない。今はその一心です。人々の新たな習慣として定着する状態に持っていくことが当面の目標です。目標が達成できたら次は「アメーバブログ」よりも「AbemaTV」よりも大きい「それ以上のもの」を作ることを考えます。
この業界にいる以上、産業の成長の中で歴史に残るような仕事をやりたいとの気持ちを忘れずに今後も突き進んでいきます。
P R O F I L E
小池政秀(こいけ・まさひで)
1975年生まれ。法政大学卒、1998 年荻島商事(現アイア)入社。2001年サイバーエージェントに入社。2007年Ameba事業本部ゼネラルマネージャーに就任、2011年AMoAd 代表取締役就任、2012 年サイバーエージェント取締役就任、2014 年常務取締役就任、現在に至る。2016年からはAbemaTV 取締役も兼任。AbemaTV の普及に力を注ぐ。