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【著者に聞く】 スリウェルマネジメント社長三ツ井創太郎 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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宣教師ザビエルになったつもりで伝えなさい

宣教師ザビエルになったつもりで伝えなさい

『飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則』三ツ井創太郎 著 同文館出版(1500円+税)

(企業家倶楽部2017年8月号掲載)

「儲かっていない飲食店は99%人が原因。しかし、人の悩みは必ず仕組みで解決出来る」と著者の三ツ井創太郎氏は言う。改善したい、繁盛店にしたいが何から始めれば良いか分からないという経営者や店長に、トップコンサルタントがすぐに始められる具体的な事例を33 の法則にして、惜しみなく紹介する良書。


問題のすり替えと頑張り間違いを止めよう

問 本を出した目的について教えてください。

三ツ井 大学生だった頃、父の経営する会社が倒産しました。資金繰りに苦労する姿を見ていましたので、いつか経営コンサルタントになって、父のように困っている経営者を助けるのが私の夢でした。

 人のマネジメント、チームの作り方、リーダーシップといった経営に関わるノウハウは幼稚園から大学までの間、習う所がありません。外食産業に関わらず、多くの小売店でも問題になっているのが、人に関する問題です。

 店長はアルバイトや部下をどうマネジメントしていいか分からず、精神的にも追い詰められ、悩んでいるのが現状です。具体的な解決方法を誰も教えてくれず、先が見えなくなり、挙げ句の果てには、飲食店の仕事はつらいだとか、小売業は大変なので辞めたいという人が多いのです。

 人の悩みは、仕組みで解決できます。理念浸透や人材採用、人件費の抑制、社長の右腕人材育成など、実践的ノウハウを紹介していますので、まずは1つでも出来るところからでいいので取っ掛かりにしてもらえたら嬉しいです。

問 飲食店経営では、どのような課題があるのでしょうか。

三ツ井 私は料理研究家の栗原はるみさんのアシスタントとして、5年間住み込みして料理の基本を学びました。大学卒業後に飲食企業に就職し、レストランのキッチン、ホール、店長、飲食部門統括責任者を歴任しながら、多くの飲食店の経営者と同様に人のマネジメントで苦労してきたので、現場の悩みがよく分かります。

 その後、コンサルタントとして飲食店の支援をしてきましたが、現場の人は何かしなければと焦り、頑張り間違いをしています。気合と根性で店が良くなるわけではありません。そのうちにスタッフが疲弊していく場面を多く見てきました。例えは悪いですが、武器を持たずに戦場に行くようなものです。そんな現状を見てきて、現場で頑張っている人たちに武器を持って欲しいと思い、この本を書きました。

問 普段はどんな助言をされていますか。

三ツ井 スタッフを教育する立場のリーダーには、分かりやすく説明する為に「宣教師のフランシスコ・ザビエルみたいになりなさい」と話しています。異国の地に行って、外国語で布教活動するって難しいことですよね。人を育て、会社の理念を浸透させるのは同じくらい難しいことです。

 会社を良くしたいという志があっても、それを周りの人に理解してもらうには、業務を見える化したマニュアルや体系化されたメソッドなど、共通言語に当たるシートやツールが必要になります。自ずとリーダーの立場の人は、スタッフの仕事を棚卸しして、伝える準備をしていくようになります。一度、自分の仕事と向き合うきっかけになります。

問 昔から、人に教える時に自分が学ぶと言いますね。人材育成のポイントは、仕事を客観視して、体系化することなのですね。

三ツ井 経営者や店長は自分がやってきたので、考えなくても出来るのですが、人に伝える機会を得ることで、改めて仕事の意味を理解することになります。そのプロセスを経て、業務の仕組み化や人を成長させる土台が出来ることを知ります。

 特に外食産業で多いフランチャイズのスーパーバイザーにこの話をします。同じブランドで展開していても、会社が違ったら文化も違います。

現場で起きるよくある三大間違い

問 三ツ井さんは現場でどんなコンサルティングをしているのですか。

三ツ井 流行っていた店の売上げが落ちる、または一時的に赤字になると、多くの店長は「今は大変だけど頑張ろう!」と精神論で切り抜けようとします。しかし、これは間違いで、さらに重症なのは、問題のすり替えが起こっていることです。

 問題が起こったときにすべきは、問題の本質を探ることです。原因を分析するフレームワークがあるので、どのツールを使えば良いのか、現場レベルで検証する必要があります。小手先のマーケティング戦略で短期的に売上げを回復させても、むしろ問題を広げてしまい、逆効果になります。

 そこで私は、まずは「経営の土台」を作ろうと提案します。目先の出血を止めることにだけ集中すると同じ問題がまた起こります。本来、店をどうしたいのか、土台がしっかり固まり、その後で穴を塞げば、販売促進の効果が出て利益が出るようになります。

問 現場でよくある失敗のパターンにはどんなものがありますか。

三ツ井 現場に入り、店長から話を聞くと一見事実のように聞こえるが、全てフィルターがかかっています。店長は少なからず自己弁護するものです。事実とは違うという認識が必要です。問題は現場に有ると言っても、闇雲に現場に入ればいいというものでもありません。ある程度、数値化したデータや仮説を得てから、本当の課題を洗い出します。

 よくある間違いは、業績悪化の要因分析をせずに行動するパターンです。指標とすべき数字を把握せず、見当違いをしているケースが多いです。

問 物差しがない状態で、不安定ですね。

三ツ井 次に現状分析が間違っているケースがあります。原因が分からなければ、有効な仮説が立てられません。PDCAが重要と分かっていても、現場の人間は、振り返りが苦手で、優先順位が低いのです。

 店舗の業務では、今、目の前にいるお客への接客が最も優先順位が高くなり、意識的に振り返りの時間を作らなければ、せっかくのノウハウも蓄積されません。振り返りの習慣を作ることが改善の一番のポイントです。

ワクワクすることから始めてみる

問 「見える化」が重要と書かれていますね。

三ツ井 優秀な人材が欲しいと誰でも言いますよね。その場合もどのような人材を優秀とするのか定義することを勧めます。店長がざっくり優秀な人材をイメージしていても、それではコミュニケーションが取れず、伝わりませんよね。

 その時も堅苦しく考えるのではなく、「優秀な人材ってこういう人かなと書き出していく。こんなスタッフがいたら店が良くなるな」とワクワクしながら作ることです。

 経営者の成長意欲をスタッフに伝染させていけるかどうかにかかっています。スタッフを巻き込んでワクワク感がある会社は業績も伸びています。

問 読者にメッセージをお願いします。

三ツ井 今回は飲食店において発生する人に関する問題に対して、33 個の解決法を紹介しています。もちろん全てを実践する必要はありません。どこから手を付けていいか分からないと悩んでいる人がいたら、ワクワクしてトライしてみたいと感じたことから始めてみて欲しいと思います。1つ課題が解決したら自信が付くことでしょう。

 頑張り間違いをしないで欲しい。気軽にこの本を手に取って貰えたら幸いです。

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