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【スタートアップベンチャー】セルソース 代表取締役社長CEO 裙本理人

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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宣教師ザビエルになったつもりで伝えなさい

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セルソースは脂肪幹細胞の加工を請け負う

(企業家倶楽部2017年12月号掲載)

(文中敬称略)


 東京・渋谷。日本有数の繁華街を誇るこの街の一角に、最先端のバイオベンチャーが施設を構えている。再生医療を手掛けるセルソース。元商社マンの裙本理人が立ち上げた同社は、現在提携医療機関の要請に応じて脂肪幹細胞の受託加工を行う。

 脂肪幹細胞とは、骨、筋肉、脂肪、軟骨などに分化する前段階の細胞だ。患者の脂肪組織から採取して培養し、該当箇所に投与することで、糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞など、様々な病気への効果が期待されている。

 中でもセルソースが注力して製造しているのは、変形性膝関節症治療のための細胞である。この病気は、膝の軟骨や半月板が擦り減ることで、膝に痛みを生じさせるもの。潜在的な患者は日本国内だけで2400万人いると推定され、そのうち820万人以上が膝の痛みに苦しむ。

 変形性膝関節症は足の不自由に直結するため、健康寿命を縮める温床ともなっている。間接的な原因は筋力の低下、加齢、肥満であり、高齢化社会を迎えている日本においては誰もが罹る可能性を秘めた病気だ。「私たちが変形性膝関節症に着目したのも、脂肪幹細胞が応用できる症例の中で特に患者数の多い病気であり、それだけ社会貢献性が高いと判断したため」と裙本は語る。

第三の治療に期待がかかる

 現在、変形性膝関節症の治療方法はヒアルロン酸注射と人工関節置換の二つに大別される。ヒアルロン酸は安価で投与のハードルも低いが、すぐ体に吸収されてしまうため、鎮痛効果は持続しても数日というところ。人工関節は一度入れてしまえば長く持つものの、大掛かりな手術が必要となるため体への負担が大きく、特に高齢者の場合はハードルが高い。一方の脂肪幹細胞治療では、自身の脂肪から摂取した細胞を加工して投与するため体によく馴染み、効果も一定期間継続すると考えられている。

 現行の二つの治療は保険が使えるのに対し、脂肪幹細胞の治療は現在保険適用外だ。しかし、「保険適用になれば確かに患者さんの負担は減るが、医療費を国に肩代わりさせていることには変わらない。大局的な視点に立って社会貢献性を考えれば、保険に頼らずとも低コストで受けられる治療を実現できるよう、各企業は努力すべき」というのが裙本の持論だ。

法的サポートも展開

 セルソースが細胞加工受託と共に柱としているのが、法対策支援事業だ。現在の再生医療等安全性確保法では、再生医療を実施する際に厚生労働省への届け出が義務付けられている。しかし、この手続きは複雑かつ知識を要するものであるため、再生医療を展開できていない医療機関も多い。そこでセルソースは、積み上げてきたノウハウを生かし、このサポートを事業化したというわけである。

 現在、同社が再生医療等安全性確保法についてのサポートを行っているのは60施設以上にのぼる。再生医療の認可が下りる医療機関が増えるほど、セルソースとしても取引先が広がるため、受託業務件数を伸ばすことができる算段だ。法対策支援事業は、セルソースが細胞加工事業を拡大する上でも一役買っていると言える。それはひいては、より多くの患者に再生医療を届ける結果をもたらす。

黒字化こそ不可欠

 セルソースは、日本に50以上乱立する細胞加工受託業者の中でも異色の存在だ。多くのバイオベンチャーが赤字決算に苦しむ中、同社は創業初年度から黒字を計上。二期目となる2017年10月期は売上げ4億5000万円、経常利益1億5000万円を見込み、順調に業績を伸ばす。

 裙本は「黒字でなければ事業が続かず、社会に貢献できない。納税も株主への還元もできません。創業時から黒字を出すことには常にこだわってきました」と語る。前述の法対策支援事業のように、細胞加工受託以外の柱も立てることで、バイオベンチャーに必須となる研究開発への投資コストを上回る収益を上げている。

 もう一つの黒字要因として、合理性を重視した設備投資が挙げられる。セルソースは受注規模から必要な設備と人員を算出し、最適な規模の投資を徹底している。出資や投資を受けると、まず立派な箱物を作りたくなるものだが、同社が細胞加工センターを置いたのは渋谷にある何の変哲も無いオフィスビル内だ。国の査察を受け、認可も取得した同施設の稼働率は、常に100%近い状態を保っている。

ニーズありきで考える

 裙本は神戸大学を卒業後、大手総合商社に就職。ビジネスを創造するのは楽しかったが、より挑戦ができる環境で成長したいと感じた。そんな時、耳に入ったのが、再生医療の実用化を目指した新法のニュースだ。「新法の成立はビジネスが生まれるチャンスであり、起業を決意するきっかけになった」と裙本は振り返る。

 医療事業を選ぶ上で意識したのは社会貢献性と市場規模だ。また、「新法の成立したての再生医療事業であれば、新たなルールの下で大手もベンチャーも同時にスタートを切れるのでチャンス」と感じた裙本。創業初期は、再生医療分野にどのような悩みが多く見られるのか、地道に情報収集していった。

「医師を含む医療関係者にまず話を聞いてもらうのが一番の苦労だった」

 そう語る裙本だが、何回もヒアリングを重ねるうち、「膝の痛み」という誰もが抱える悩みへの十分な解決策が無いことを知る。そして、そこに脂肪幹細胞の技術が使えるのではないかと考えた。

 技術ありきではなく、人々のニーズを把握し、そこへ至るために技術を応用する。社会貢献性を重視し、前職で培ったビジネス感覚を持つ裙本だからこそ、現在のセルソースを創り得たと言えよう。

他の病気へも対応

 現在は細胞加工事業で勢い付くセルソースだが、将来はどのような方向性を目指すのか。裙本は次の三点を挙げる。

 一つ目は、今の技術を他の治療にも応用可能とすること。現在も学会などに積極的に参加し、水面下で研究と医療機関へのアプローチを進めている。「膝の治療で成功したモデルとノウハウを駆使すれば、他の病気にも負担なく展開することができる」と裙本は自信を見せる。

 二つ目は株式上場である。これにより資金を調達し、医療機関からの信頼を集めることで、さらなる事業展開が可能となるだろう。セルソースの目指す社会貢献の姿に近づくため、上場は大きな一歩となる。現在は会社の安定性を高め、上場に向けた組織体制を整えている最中だ。

 三つ目は、多角的な事業展開だ。「他の事業への進出は、M&Aを含めて選択肢にある。脂肪幹細胞を使った再生医療は突破口であり、それだけで企業は100年続かない。会社自体が形を変えて進化していかねばなりません」と裙本。多くの医療機関と提携することで保持している情報網は、新事業を展開する上でセルソースならではの強みとなり得る。IT技術と医療を掛け合わせるなど、可能性は無限大だ。セルソースの今後に、目が離せない。

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