会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2018年10月号掲載)
2018年8月期は売上高 2兆1100億円、営業利益2250 億円を見込み、業績絶好調のファーストリテイリング。アパレル世界第3位の地位を築き、その勢いは留まるところを知らない。総帥の柳井正会長兼社長は、ユニクロ部隊を有明に移転、製造小売から情報製造小売へと転換を急ぐ。グローバルヘッドオフィスを担う有明プロジェクトに自ら名乗りを挙げたのは、ユニクロR&D統括責任者の勝田幸宏氏だ。柳井社長、プレジデント・オブ・クリエイティブ・ダイレクターズのジョンJ氏と共に、総力を結集し完成したユニクロシティ東京。移転して約1年、どんな変化が起こっているのか、勝田氏に伺った。
私がやります!
問 勝田さんが有明プロジェクトに関わるきっかけはどんなことからですか。
勝田 2014年大和ハウス工業と共同で有明に巨大な物流センター建設計画を発表しました。柳井はその6階にユニクロ本社を移転し、ワンフロアで垣根を無くし、服づくりを革新したいと言い出したのです。
問 有明というと陸の孤島というイメージなので驚いたのではないですか。
勝田 当初はネガティブな発想で、柳井が諦めてくれたらいいなと思っていました。ところが柳井の決意は固い。そこでどうせゼロから創るなら、働く環境づくりも含め、新しいユニクロづくりができると思い「私がやります!」と手を挙げました。
問 それはスゴイ。通常オフィスの移転などは総務の仕事ですからね。柳井社長は何と言われましたか。
勝田 願ってもないことだと。そこから柳井とジョンJと私の3人のチームができました。この3人で週1回のペースで打ち合わせを実施、侃々諤々話を詰めていきました。とにかく「有明に行きたい」とみんなが思うようなオフィスを創りたいと考えました。
クリエイションとインタラクション&セカンドホーム
問 この有明プロジェクトのコンセプトはどうですか。また柳井社長から言われたことはありますか。
勝田 コンセプトはクリエイションとインタラクティブの強化。要は相互作用の促進です。もう一つはセカンドホーム。柳井は働く人みんなにとってセカンドホームであってもらいたい、愛着が沸くオフィスにしたいと。
問 セカンドホームとは良い発想ですね。今は自宅より会社にいる時間が長いこともありますからね。それにしてもここは交通の便が悪いですね。
勝田 通勤についてはどの人にも不都合が無いようにと柳井に言われております。今は新橋、豊洲、大井町など数カ所から朝夕の通勤時間帯に専用バスを出しています。
問 先般柳井社長が、全体の設計や家具の選定など、ジョンJ さんがやってくれたと言っておられました。
勝田その通りです。ジョンJが選びましたが、一つひとつを柳井も確認しています。ここには椅子だけでも50種類ぐらいありますが、その全てを柳井自身が座って確かめていました。
自慢は図書室&カフェ
問 柳井社長の気合の入れようは半端じゃないですね。こんなスケールが大きく素晴らしいオフィスは見たことがありません。自慢の場所3つを挙げて下さい。
勝田 一番はなんといってもリーディングルーム&有明カフェですね。
問 あの場に立っただけでこれが企業内図書室かとワクワクしますが、あの書籍はどなたが選ばれたのですか。
勝田 柳井とジョンJと佐藤可士和さんです。たくさんの候補の中から3人が細かく検討して選びました。尤もユニクロの図書室ですから、ファッション、リテール、デザイン関係などが中心となります。
問 錚々たるメンバーが選んだ世界の良書というだけで興味が沸きます。隣のカフェも良い雰囲気ですね。
勝田 あそこも随分こだわりました。素晴らしい音楽とコーヒーを楽しめます。柳井もお気に入りのようですよ。
問 二番目はどこでしょう。
勝田 柳井の社長室です。アンティーク家具を使い落ち着いた設えとなっていますが、実は自慢の社長室となっています。
問 先般柳井社長にお会いした時、社長室の家具なども全てジョンJさんが選んでくれたが、彼の趣味は良いとご満悦の様子でした。
勝田 大変気に入っているようで安心しています。何しろ柳井は週の内4.5回は有明に出社していますから。
問 4.5回ということはほぼ毎日ですね。それだけで柳井社長がいかにこのオフィスを気に入っておられるかがわかりますね。三番目はどこですか。
出会いが生まれるストリート
勝田 部屋ではありませんが真ん中を貫いているストリートですね。あのストリートを皆が行き交い「久しぶグレートホール受付リーディングルーム有明カフェストリートポーチアンサーラボり!」とか「ちょっといいですか?」なんて声を掛け、立ち話から仕事の話に繋がります。ストリートにたくさんのベンチ、ポーチやラウンジが続き、その奥にワークスペースが広がっている。このポーチやラウンジがある意味「土間」の役割を果たしています。部屋に上がるとかしこまっちゃうので、靴を脱ぐ前の土間で立ち話というのがいいんですね。柳井は「奥のワークスペースに座っている人は仕事をしていると認めない」なんて言うほどです。
問 随分長いストリートで、しかも曲がっているので迷子になりそうです。
勝田 日本の城下町をイメージして作っていますが、ストリートはアッパー、ミドル、ダウンタウンと3つあり、それぞれに集会所をつくりました。第1の集会所が「アンサーラボ」、2カ所目が「リーディングルーム」、3カ所目が一番奥にある「グレートホール」です。
問 「アンサーラボ」はどんな場所ですか。
勝田 ここはインターネットを使用し調べものをしたり、データを使ってプレゼンをしたりと幅広く使えるワークスペースとなっています。リーディングルームはリアルの書籍が並んでいますが、アンサーラボはデジタルライブラリーのイメージです。困ったときにここを活用すれば答えが導き出せるという、まさにアンサーラボです。
問 多くの人が集まってプレゼンをしていたのがわかりました。一番奥のグレートホールはかなり広いようですね。
勝田 1300人入ります。毎週ここで朝礼をやっていますし、世界中のユニクロの店長が集まって会議をしたり、研修をしたりといろいろ活用しています。8カ国語の同時通訳の設備もあります。
振り返ったら柳井社長!
問 有明に移転して丁度1年強となりますが、実際の効果はいかがですか。
勝田 確実にコミュニケーションが活発になっていると思います、しかも圧倒的に質と量が拡大している。そういう意味では想定以上です。
問 柳井社長がここに週4.5回も来ているということ自体、大成功ということでしょうか。社員に接する機会も多くなったのではないですか。
勝田 柳井もよくリーディングルームやカフェを利用しているようで、当初は「振り返ったら柳井社長」という状況に、社員たちも戸惑いがあったようですが、今はすっかり慣れたようです。
問 柳井社長と社員の距離感が縮まったということですね。世界中からアパレルだけでなく、いろんな業種から問い合わせや来訪者が増え、それだけでもここを作った意味はあると言っておられました。
勝田 世界に名を轟かせるような方を柳井が案内していることもあり、驚くとともに大変刺激になります。実は想定以上に有明オフィスが人気で、みんなここに来たがっています。今は1100人ですが、増えすぎて机を入れたりすれば、ゆとりが無くなり、普通になってしまう。そこで私はここでも手を挙げ、有明の総務を兼務し、ストイックにやっています。
有明から世界に発信
問 そのストイックさが柳井社長と合うのでしょうね。勝田さんの今後の抱負をお聞かせ下さい。
勝田 この会社に入社して12年。当時は下着と靴下は見えないから「ユニクロでいいや」という状況。でも、それではいけない。「ユニクロがいい」にしたいと宣言したのを覚えています。今では随分変わりました。
私はこのユニクロ有明オフィスを世界のユニクロのブランディングのきっかけにしたい。ここには世界中のユニクロ2000店の店長が集まりますが、ヘッドオフィスとしての緊張感と清く正しい行動に触れ、自分たちもそのように行動したいと思ってもらいたい。そしてこの場所をブランディングの心臓部とし、世界に発信していきたいですね。
有明本部(Ariake Office)東京都江東区有明1-6-7-6F UNIQLO CITY TOKYO
P r o f i l e 勝田幸宏(かつた・ゆきひろ)
1964年生まれ。1986年青山学院大学卒業。4 月伊勢丹入社、92年バーニーズ・ニューヨーク本社出向、94年 バーニーズ・ジャパン出向。98 年ポロラルフ・ローレン ニューヨーク本社入社。99 年バーグドルフ・グッドマン入社、2001年取締役統括部長に就任。05年ファーストリテイリング入社、執行役員ユニクロR&D統括責任者、17 年有明総務・ES推進も兼務。