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【地球再発見】vol.16 日本経済新聞社客員 和田昌親

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「日本列島“新”改造論」しかない

(企業家倶楽部2018年10月号掲載)

 

 今でも賛否が分かれる大物政治家、田中角栄元首相の金看板は「日本列島改造論」だった。日本を新幹線や高速道路で結び、地方都市を活性化するアイデアは国全体に広がり、首相になったばかりの田中の著書はベストセラーになった。

 それから40数年経った今年、日本は想定外の自然災害に見舞われている。東日本大震災に続き、毎年のように発生する豪雨災害。工業先進国どころか「災害多発国」の汚名を頂戴しそうである。

 そんな危機意識もあって、「3・11」の被害を教訓に、政府は4年前に「国土強靭化基本計画」を閣議決定した。地方自治体はそれに沿って、「地域計画」をつくり、具体的な対応策を打ち出すことになっていた。

 だが、天災は待ってくれない。「強靭化計画」をあざ笑うように毎年、国土への“攻撃”を仕掛けてくる。「強靭化計画」はもはや、うたい文句ではなく、国土を守る「本気度」を示すものでなくてはならない。

「これまで経験したことのない大雨」とテレビのアナウンサーが叫ぶ「大雨特別警報」は年中行事と化した。それならば、災害対策もリセットし、「これまで経験したことのない新・列島改造論」を広げるべきだろう。机上の空論ではない実行可能計画だ。

 近年の異常気象は日本の亜熱帯化が背景にあるが、日本人は災害に対する「発想」を根本的に変える必要が出てきた。 
 18年7月の西日本を襲った豪雨は220人を超す犠牲者を出し、各県に河川の氾濫、土砂災害の爪痕を残した。今年に限ったことではない。昨年7月初めの九州北部豪雨では、福岡・朝倉市が大雨に飲み込まれた。

 日本人は四季の移り変わりを楽しむが、亜熱帯化によって、そうした文化は後退するかもしれない。句会などで優雅に季語の「梅雨」を読み込む気になれない。なぜなら素人目には梅雨はなくなったと考えられるからだ。

 気象庁は長い間の“習慣”を見直し、国民の命を守ることを優先してほしい。「梅雨入り」だの「梅雨明け」だの、決まり切った予報はもういらない。世界の気候変動の中で、日本に一体何が起こっているのか、が知りたい。日本の春から夏は「豪雨期」と「猛暑期」の2つに分ければ十分ではないか。

 覚えている人は多いだろう。昨年の東京周辺は8月に2回目の梅雨(?)があった。21日間連続の雨を記録、気温も30度を下回る日が多かった。日本の亜熱帯化に合わせて、これまでにない「現代版天気予報」をつくりあげることも一案だ。

「新・列島改造論」のひとつはハザードマップの有効活用である。西日本豪雨で甚大な被害が出た兵庫県倉敷市真備町の場合、大昔から暴れ川に襲われたことがあり、古文書も残っている。地元自治体もそれを知っていて、ハザードマップには「危険区域」と書かれていた。

 あとは自治体の「本気度」だ。再開発計画に着手し、危険な川の流れを変えたり、堤防を作り直すなど、天災に対して先手を打つことができるはず。真備町は工事を始める寸前だったという。

 今年は西日本に被害が集中したが、全国どこでも同じことが起こりうる。東京下町のゼロメートル地帯で河川が氾濫したら、東京が危ない。丘陵地帯にマンションや住宅がへばりつく横浜も危ない。大都市圏の「新・列島改造論」も待ったなしだ。

 いい話もある。日本政府の「本気度」がわかるのは「激甚災害指定」である。安倍首相は7月末、西日本豪雨についてすぐさま「激甚災害に指定する」と発表した。指定を受けると、復旧事業の国の補助率がかさ上げされ、自治体、被災者、みんなが助かる。

 酷暑で東京五輪は大丈夫か、と心配する前に、おもてなし、ではなく「強靭な日本」を世界にみせつけるべきではないか。

Profile 和田昌親(わだ・まさみ)

東京外国語大学卒、日本経済新聞社入社、サンパウロ、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。

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