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【宇宙時代の問題解決】宇宙と女性が世界を変える

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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【宇宙時代の問題解決】宇宙と女性が世界を変える

【宇宙時代の問題解決】宇宙と女性が世界を変える


(企業家倶楽部2020年8月号掲載)

「悩みなんて宇宙規模で考えたら小さいもの」とはよく言うが、そんな悩みでも宇宙と力を合わせることで簡単に解決できるかもしれない。5月某日、PCの画面上に集まったのは総勢30名の女性インフルエンサーたち。「宇宙をもっと身近に感じてほしい」。アクセルスペース中村友哉CEOの想いのもと、ジェネリーノ松前博恵代表と共に「女性と宇宙」をテーマとしたオンラインビジネス会議が開催された。(文中敬称略)

(ジェネリーノ松前博恵代表)

初の女性会議を提案

「正直こんなに沢山のアイデアが出るとは思っていませんでした。普段から自分の専門分野を追求し、社会をよく見て視野を広げている女性達だからこそ出てきたものでしょう」。今回のオンライン会議を終え、笑顔で感想を語るのはジェネリーノ代表の松前だ。

 ジェネリーノとは様々な専門を持つ全国のインフルエンサーコミュニティである。2000名のメンバーが所属し、料理研究家・絵本作家・パティシエなどライフスタイルに関わる専門を持つ女性たちで構成される。13年にわたり積み上げてきた企業とのつながりと所属する女性たちの強みを活かし、イベントやコンサルティング事業を行っている。

 松前と中村が出会ったのは昨年開催された第21回企業家賞授賞式。パイオニア賞を受賞した中村のスピーチに感銘を受けた松前は「女性のライフスタイルと宇宙小型衛星がつながらないか」と考え、女性会議を提案、中村が快諾し今回の会議開催に至った。「初めて中村さんとお話しした時、並々ならぬ柔軟性と、時代を先読み創り上げていく力強さを感じました」と松前は中村との出会いを振り返る。

小さなことから始まる

 開始時間に合わせ、画面上に全国各地から女性インフルエンサーたちが集まると、まずは「果てしなく夢が広がる宇宙の可能性について、堅くならずに和気あいあいと意見を出していただければと思います」と松前が今回の趣旨を説明する。

 続いて「みなさんが普段の暮らしの中で思っていること、感じていることと宇宙をどうつなげていくかという視点で気楽に考えてください。くだらないアイデアだと思ってもそこから新しいビジネスが始まることもあります。ぜひ肩ひじ張らずに意見を出していただければと思います」と中村が挨拶。同じくアクセルスペースから参加するCBO(最高ビジネス責任者)山崎泰教も「宇宙業界は男性が多く、女性のみなさんの視点が貴重です。今日はいろいろと学ばせていただきます」と想いを語った。

(アクセルスペース山崎泰教CBO)

自社のための衛星
 アクセルスペースでは顧客から注文された衛星を作成するだけではなく、自社で運用するための衛星「GRUS(グルース)」を作成している。そしてこのGRUS衛星を使って取り組んでいる事業が地球観測網AxelGlobe(アクセルグローブ)である。

 GRUS衛星では地表1ピクセルあたり2.5m相当の細かさで撮影することができ、滑走路の文字や運河を通行するタンカーのコンテナまで見ることが可能である。アクセルグローブ事業ではこのGRUS衛星を複数打ち上げていくことで世界中を高頻度で観察することができるのだ。

 これにより、農業では作物の生育状況を読み取り農家に伝えることができたり、港を観察することで輸出入の状況を把握し、景気動向を予想するといった使い方もできるかもしれない。「衛星は1基でも世界中を見ることができます。ただ、数が増えることで時間軸としての見方が生まれ、新しくできることが出てくるのです」と中村は参加者にプレゼンテーションを行った。

(アクセルスペース中村友哉CEO)

1つでも多くのアイデアを

「普段考えていることと宇宙とで、もしかしたら何かできるのではないかという、生活レベルのお話をいただければと思っています。自由でワクワクした発想で、一人ひとりたくさんのご意見をいただきたいです」という松前の合図でグループディスカッションはスタートした。

 このオンライン会議に集まったのは、会社経営者・講師など総勢30名の多才な女性インフルエンサーたち。4つのグループに分かれ、各チームに割り当てられたファシリテーターのもと意見を出し合い、最後に全体で発表していく。

 まずは簡単な自己紹介から始まり、中村のプレゼンテーションを踏まえ、各自のアイデアを順番に話していく。「今の意見から思いついた」や「その考えが面白い」など各チーム盛り上がりをみせた。

成果を数字で共有する

 あるチームでは、「緑の資源が世の中にどの程度残っているかを毎日の天気予報と同じように知れたらいい」というアイデアが出た。晴れのマークの横にその地域の緑の指数を表示するシステムで、「昨日より何%減っているからみんなで二酸化炭素を減らそう」という意識を喚起させ、日本だけでなくグローバルな視点で取り組むというものだ。

「『みんなで頑張ったから成果が出た』というのは好きな人が多いと思う。でも実際に自分のもとにその成果がフィードバックされることはない気がしませんか」と疑問を投げつつ「そのフィードバックの一つとして、緑の状態を表せたらいいのではないか」と解決策を提案。すると「地球の変化の状況を誰もが見られる状況になったらいい」「自分たちで気を付けていても目に見えないので頑張る気が起きない。そういった数字を天気予報で知らせてくれるのは良いアイデア」など別の参加者も続いた。

ゴミ出しを競争化

 また、日常生活で気になるゴミ出しのマナーについて「空から見てみたらどうか」というアイデアも出された。上空からゴミの出し方と量を観察できるならば、隣接する行政区域で対抗して「あの地域はマナーが良い」などマナーの良し悪しと量などを比べ「『ゴミを減らす競争』にしたら面白いかもしれない」という日常生活に密着した興味深い意見であった。

 その他にも、学校、防災対策などから始まり、「沈没船や埋蔵金を見つけられないか」「衛星を火星に持っていき、不老不死効果が出るようなスーパーフードを栽培したい」「衛星を使った芸術活動ができないか」「地球も宇宙の中のひとつなので衛星を宇宙のために役立てたい」など女性ならではの視点で活発な意見が飛び交うディスカッションとなった。

農業のみならず漁業も助ける

 中村の合図で30分間のグループディスカッションが終了し、各チーム出された意見をファシリテーターが共有していく。4グループ合わせて50個以上のアイデアが発表されたが、衛星を使った見守りやコロナウイルス対策として「三密を避けられないか」といった意見は各チーム共通で出された。「難しいですが、いつか解決策が提供できればと強く思いました」と山崎は応えた。

 中でも驚いたのは「魚など海の生物がどこにいるかを観察し、ダイビングなどで見たい生物を見られるようにするだけではなく、漁の効率化や食育につながらないか」との意見だ。アクセルスペースは東京海上ホールディングスらと共同で衛星画像を活用した赤潮の発生予測に関する共同研究開発合意のプレスリリースを出したばかりである。この共同研究により養殖業などに被害をもたらす赤潮の発生メカニズムを探ることで損害の未然防止・軽減につなげる。山崎は「もうリリースは出ていますが、みなさんからも漁業関連の意見が出てきたので良かったと思っています」と微笑みながら答えた。

宇宙が寄り添う社会へ

 そしてオンライン会議は中村の総評で幕を閉じる。

「本当に面白いアイデアがいっぱいで、社内のメンバーだけでは出せないアイデアがたくさんありました」。何百何千とある世界の宇宙ベンチャーでこのような取組みをしている会社はほとんどないという。

「僕らは新しい社会を作りたい。衛星が提供できる価値によって変えていきたいという想いがあります。そのためには広範囲の人たちにアプローチしてニーズを拾い上げ、その解決に向けて何らかの価値を提供することがとても大事だと考えています。みなさんが普段感じているニーズを大事にしたいと考えているので、松前さんと話をしてこれは必ず新しいビジネスのきっかけになると思い開催しましたが、本当に大成功だと思います」

 アクセルグローブ事業では、今年中に5基の衛星で世界を3日に1度観察できるようにし、2022年までには10基以上で毎日観察できるようになるという。

 今回、「女性と宇宙」をテーマとした30名、2時間の会議で出されたアイデアは50個以上。中には明日にも実践できるものもあったという。もしかしたらもう動き始めているプロジェクトがあるかもしれない。我々の悩みを宇宙が解決してくれる時代はすぐそこまで来ている。  (馬場)

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