MAGAZINE マガジン

【地球再発見】vol.19 日本経済新聞社客員 和田昌親

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

大国よ、「宇宙戦争」は避けよう

(企業家倶楽部2019年4月号掲載)

「宇宙」は人の心を躍らせる。子供のころ、きれいな星空を眺めて、あの星はなぜいつも同じところにあるのか、星に生き物はいるのか、地球はどうやって出来たのか、不思議な思いにかられたことがあるだろう。

 
 だが、その「宇宙」を自国が制することはできないかと考えるのも、また人間である。アメリカ、ロシアの2カ国が先陣を切り、付属の技術では日本、カナダなど各国が協力している。
 
 表向きは国際宇宙ステーション(ISS、98年署名)のような世界基地があり、平和的に運営されているように見える。ところが、その2カ国主導の領域に中国が割って入ってきた。
 
 中国はISSに参加せず、独自の宇宙開発を続けてきたが、2019年初め、月の裏側に無人探査船を軟着陸させる「快挙」を成し遂げた。これまで世界で20機の探査船が月に着陸しているが、すべて表側だった。この壁を取り払った中国の技術は「世界初」で、米ロもびっくりだったろう。
 
 月の裏側で探査船を操作するには裏側に電波を送る必要がある。中国はその交信ができるように、事前に中継用の月衛星を配置していた。
 
 少し歴史をひもといてみよう。人類初の有人宇宙旅行をしたのは1961年の旧ソ連ガガーリン氏。あわてたアメリカが宇宙開発を加速し、69年に宇宙船アポロ11号で人類初の月面軟着陸に成功した。
 
 中国も黙っていない。99年には動物を乗せ、03年には世界で3番目の有人宇宙飛行を実現した。
 
 そして次の段階として月探査計画に乗り出し、13年には月面(表側)無人探査機の軟着陸に成功。16年までに「宇宙実験船(独自の宇宙ステーションの原型)」とのドッキングと宇宙遊泳技術をモノにしている。
 
 そうした積み重ねがあって、米ロに先駆けて、月の裏側に無人探査機を送り込むことができた。

 中国はトランプ政権も顔負けの「自国第一主義」だ。共産党1党独裁体制だから当たり前のキャッチフレーズだが、その体制が牙を剥いてきたといえる。習近平国家主席は「宇宙強国をめざす」と明言する。一帯一路に代表される最近の拡張主義は宇宙も同じなのかと考えたくもなる。

 宇宙には国境がない。だから領土紛争もない。平和的に相互協力しているうちはいいが、従わない国が出てきたらどうする?

 中国の今後の目標は独自の「宇宙ステーション」建設といわれる。米ロを含めて複数国が運用する現在のISSはいずれ役目を終え、民間に移管する構想もあがっている。そんなタイミングで中国独自の「宇宙ステーション」が出来たら、宇宙に対する力関係が中国主導になる可能性も無いとは言えない。

 ちょっと大げさかもしれないが、将来起こりうる「宇宙戦争」の幕開けにならないか、心配になってきた。どういう戦いになるかは予測がつかない。しかし、冷戦時代の教訓を引くまでもなく、超大国が地球全体、人類全体のために、と考えるとは思えない。

 われわれの孫、ひ孫の世代は人類が考えもしなかった宇宙をめぐる国家対立を経験することになるかもしれない。CGを使った宇宙映画は外敵から地球を守るストーリーが多いが、地球上で宇宙の権利を獲り合う「内戦」が起こったら、それこそ一大事だ。

 筆者のような中高年になると、「100年後の世界」がどうなるか考えることが多くなる。自分は変化した地球の姿を見ることができないから余計に気になる。どの国がどんな形で強国になっているのか、それとも国家の再編が進むのか。

 最近、一般人向け月旅行を企画するアメリカ企業が登場した。でも安心はできない。今年は冷戦終結から30年、有人月面着陸から50年の節目。次の節目に歴史的な「何か」が起こっていなければいいが。

Profile 和田昌親(わだ・まさみ)

東京外国語大学卒、日本経済新聞社入社、サンパウロ、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。

一覧を見る