会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2019年12月号掲載)
1.女性は弱いか?
今日本で不思議な本が売れています。チョ・ナムジュ原著、訳斎藤真理子「82年生まれ、キム・ジヨン」韓国で100万部を突破し、映画化が決まったこの小説は大変な差別の中で、ほぼ絶望に近い虐げられ方をして、苦闘していく主人公キム・ジヨンさんの物語です。
「日本の50年前かな」とあらすじを読んで思っていた私は吃驚仰天しました。この本を読んだ日本女性たちの声がNHKでいくつも拾われていたのです。「泣きながら読みました」とか「私とそっくりです」、「結婚出産と同時に職場に戻れなくなっています」などと。
Amazonの評価でも4.7を記録しました。それを聞くと今の日本の女性も弱そうです。現に私の友人のS女子大学のB理事長とつい最近お話をしたときも、今女子大生の中には「一番の望みはなにか?」と聞かれて、「駐在員の妻になることです」と答えた学生がいたとのこと。もちろんその人が多数派とは言わないけれども、B理事長がハーバード大学を出てバリバリとキャリアを切り拓いてきた人ですから学生のその言葉とのギャップは非常に大きく感じられます。
本当に日本の女性は今も韓国の女性と同じように弱いのか?そう思って別の調査を見た時に愕然としました。世界における、管理職女性の数を調べたデータです。「管理職女性比率の国際比較」、これは各国統計局の数字を労働政策研究・研修機構が発表したものです。それによると、22か国中女性の管理職数が最も低いのは韓国で1.9%。その次に低いのが日本で2.4%でした。
要するに世界22か国中どん尻から2位が日本の管理職女性数ということになります。「情けないなぁ。これだけ男女雇用機会均等法や働き方改革が叫ばれてきた割にはどうなっているの?」と思う向きも多いでしょう。
私が分析した別表を見てください。1981年『愛して学んで仕事して』という女性の三立を奨める私の最初の本が出た時、これが出来ている女性がまだ物珍しい時代でしたから、5年間で23万部を突破しました。一部の女性たちが“中ピ連(中絶、ピルを認める連盟)”が「結婚するな!出産するな!」と叫んで歩いている中で、結婚もし、出産もし、仕事もするという三立を提案した本です。これが男性中心の「ワンオペレーション時代」です。次は85年で「男女雇用機会均等法」が施行された頃です。一応、雇用の人数は女性も同じようにとらなければならない。というニュースを聞いて「ここまで来たんだな」と思ったことをよく覚えています。でも実際はまだまだ雇用が均等ではない。今年「働き方改革法」が施行されても、まだ女性たちの管理職数は日本の企業の中ではあまり多くはない。それが現状です。
2.女性管理職は伸びている
それでも、10月2日(水)日経新聞が一部上場企業の3月決算企業を対象にした調査の中で、女性の役員数は4年で2倍になっていたのです。別表参照。すごいなぁと思います。私の仲の良い友人のご子息は「㈱味の素」の部長をやっていますが、同社では女性初の社内取締役が誕生し、彼の食卓の話題になったということでした。
実際に調査対象となった上場企業において、女性役員が4年で2倍になっているのだから、なるほど、そうなのでしょう。
では女性の働き方をどう解釈したらいいのか。はっきり答えが見えています。
女性は2極化しているのです。頑張って男性と対等に働き役員になる女性達。一方、「総合職は無理です。一般職にしてください」と言ったり、「夫の扶養控除範囲の金額で働きたい」と言ったりする上昇思考が弱い、上昇できないと思い込んでいる女性達がいる。
3.なぜ女性リーダーは伸びたのか?
伸びている女性リーダーの共通点は、「打たれ強い」ことです。少子化の中で甘やかされて育った子供たちは男でも女でも大人になって会社に就職して、まるきり仕事が出来ていないのにちょっと怒られるとへこみます。けれど、女性であるということだけで、十分に叩かれてきた女性たちは多少叩かれてもめげもしない。
読者の女性の皆様はご存知の方もいるでしょう。米国弁護士のナンシー・ヤマグチさんがいい例です。「散々打たれて打たれて、それを乗り越えたとき、妊娠出産で上司からの評価が急に下がり、別の会社に移り、今はイキイキやっている」と言っていました。妊娠出産を経て、余計強くなって男性の部下たちに慕われている女性ボスは私の周辺にもたくさんいます。私自身もそうでした。男性助教授が3本論文を書く間に6本書いて教授になりました。打たれたから強くなった。打たれることも餌にした。彼女たちの共通点はそこなのです。英語のことわざで「もしも人生があなたに酸っぱいレモンをくれたら、甘いレモネードを作りなさい(If life gives you lemon, make lemonade.)」というのがあります。
酸っぱいレモンとは男中心の社会で苦労すること。でもその中で甘いレモネードを作る。そんな才能が女性にはある。弱そうに見えてたくましく、ニコニコしているけど強いのが、本当にリーダーになる女性たちなのでしょう。男性もこういう女性達と組んだ方がより生産性があがると思われます。
「女性だから頼りない、使えない」は今や死語です。男性でも女性でも使える人は使えるし、頼れる人は頼れる。性差ではなく個人差です。
Profile
佐藤綾子(さとう・あやこ)
博士(パフォーマンス心理学)。日大芸術学部教授を経て、ハリウッド大学院大学教授。自己表現研究第一人者。累計4万人のビジネスマン、首相経験者など国会議員のスピーチ指導で定評。「佐藤綾子のパフォーマンス学講座」主宰。『部下のやる気に火をつける33の方法』(日経BP社)など単行本194冊、累計323万部。