会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2020年4月号掲載)
やっとまともな世界ランキングが出てきた。「世界最高の国」という調査で、日本は世界第3位(2020年、1位はスイス)になった。昨年は2位だから、ひとつ下がったけれど日本人としては実に誇らしい。 誰でも自分の国がどんな評価をされているのか、知りたい。だから世界ランキングが注目されるが、一方でやたらに「怪しいランキング」がある。となれば、この「世界最高の国」も怪しい部類なのかと思いきや、これが普遍的、多角的内容のしっかりした調査なのだ。
調べたのはアメリカのペンシルベニア大学ウォートン校。日本企業がこぞって留学生を送り込む経営学修士(MBA)で有名な大学だ。調査開始はごく最近の2016年というから、「本物の調査」を世界に送り出そうと考えたのではないか。
彼らでなくても、”まやかし調査”がこんなに多いと、日本の評価はそんなに低いのかと感じることもしばしばだ。
たとえば、国連の関連団体が発表する「世界幸福度ランキング」。冗談半分に眺めているが、それでも気になる。1位はフィンランドで、10位以内の半数が北欧諸国である。日本はメキシコ、ブラジルより低い58位というから驚きだ。
続いて世界銀行の調査。立派な組織だから常識的な評価かと思うが、さにあらず。「世界ビジネス環境ランキング」では1位がニュージーランド、2位がシンガポールで、日本は中国、韓国より劣る34位だ。
がっくりきたのは英国の教育専門誌が扱う「世界大学ランキング」だ。19年の調査では1位がオックスフォード大学で、これは納得。しかし日本の東京大学はなんと42位、京都大学に至っては65位という低位にいる。日本はトップ100にこの2校しか入っていない。
ちなみに中国の精華大学は22位、シンガポール国立大学は23位で東大よりはるかに上位にいる。中国やシンガポールが上位なのは論文数、教育投資、留学生数など特殊な要素を極端に重視しているからで、純粋な「学力」評価とは異なる。
加えて、上位10校には英米偏重の傾向があり、英語に強い大学という偏った評価をしているのが気になる。
ダボス会議で有名な「世界経済フォーラム」は毎年、国際競争力ランキング(1位はスイス)を発表している。この調査はまだましだが、それでも日本はシンガポールや香港の後塵を拝し、9位に甘んじている。
女性の活躍度となると日本はもっと悲惨なことになる。QUICKファクトセットの調査では「1人以上の女性取締役がいる上場企業の割合」は日本が49位(1位はノルウェー)と低迷している。日本のビジネス界が女性登用で後れをとっているのは事実で、この部分が下位なのは仕方がない面がある。「怪しいランキング」が多い理由は様々だ。調査主体の思い込み、調査項目の偏りが大きいことは言うまでもないが、どの調査でも北欧諸国の評価が高いのはなぜか。
まずは経済規模に比べて人口が少ないことが大きい。フィンランドやノルウェーは約500万人、スウェーデンも1000万人程度だ。人口が少なければ、社会福祉や教育の充実も楽にできる。そのうえ水力や木材資源は使い放題だ。
また歴史的にスウェーデン、ノルウェー、デンマークは王政を貫き、政治の安定が保たれたこともある。ただ、日照不足によるうつ病や自殺率が高いという弱点もあり、国全体としては過大評価の感がある。
ともあれ「世界最高の国ランキング」とは大胆な名前をつけたものだ。韓国では「何で日本が最高の国?」といったやっかみ半分の声があるようだが、東京五輪も近づいているから、日本はPRに活用したらいい。
Profile 和田昌親(わだ・まさみ)
東京外国語大学卒、日本経済新聞社入社、サンパウロ、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。