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【先端人】ワンダーウォール代表 インテリアデザイナー 片山正通氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

人が集まり店を流行らせるためにデザインがある

人が集まり店を流行らせるためにデザインがある

ユニクロのニュ-ヨ-ク店
(企業家倶楽部2010年1・2月号掲載)

世界的なスポーツメーカーNIKEフラッグシップストア原宿、ユニクロのニューヨーク旗艦店やパリ旗艦店、ピエール・エルメ・パリ青山などのデザインを手懸け、今、最もホットなインテリアデザイナーとしてその名を馳せるワンダーウォール代表の片山正通。人が集まる人気店のバックには必ず片山がいるといわれるほどだ。客をいざない、ワクワクさせる片山のデザインの魔力に、今、世界中が注目している。 (文中敬称略)

佐藤可士和に巻き込まれた

「佐藤可士和さんとの出会いは2006年2月、ユニクロのニューヨーク店のオファーをもらった時」と語るインテリアデザイナーの片山正通。聞けばとんでもないスケジュール。断るつもりで佐藤のオフィスに出向いたが佐藤のユニクロニューヨーク旗艦店に対する明快で強烈なコンセプトと情熱に衝撃を受け、引きずり込まれることになる。

「可士和さんに巻き込まれたという感じです」と語る片山は嬉しそうだ。佐藤にはユニクロの根幹を変えていくという強い使命感が漲っていた。

 建築家やインテリアデザイナーは、自分のフォルムを作ってそれをリピートしていくのが通常だ。しかし片山の手法は異なる。常にニュートラル。プロジェクトごとに新しい答えを見つけ出す。佐藤はその片山を評価していた。だからこそユニクロ世界戦略の戦いの同志として片山を選んだのだ。

ユニクロここにあり

「ディレクションしたのは私だが、店舗デザインは片山正通さん。思い通りのあっと驚くようなデザインをしてくれた」と佐藤。二人の偉才が共鳴し、ユニクロニューヨーク店を際立たせた。

 普通にはありえないスピード感。場所はニューヨーク・ソーホー、売場面積約1000坪という規模感。クリエイターは佐藤可士和、舞台も役者も揃っていた。日本を代表して、ニューヨーク・ソーホーに店舗を作るということは、かっこいいとか綺麗とかそういう次元を超えていた。つまり「ユニクロここにあり」という名刺を置くことだったと片山。

「ユニクロのあるべき姿を提示して欲しい」とのミッションを受けた佐藤は、コンセプトを『美意識のある超合理主義』と定めた。片山はそのコンセプトを受け、約1000坪の店舗のデザインをひねり出す。ユニクロを率いるファーストリテイリング会長兼社長の柳井正に初めて会うとき、片山は自分が考えた模型を持参した。柳井はそれを喜び「早いですね」と。初めての出会いだったが、ずっと知り合いだったかのようにピタリときた。

 2月のスタートで秋にはオープンという通常ではありえないスケジュール。「もしそのタイミングで間に合わなかったら、1年遅らせてもいい」と柳井は言った。しかしそれはだめだと言っているようなもの。これは走るしかないと決意した。

商品が主役

 2階へと続く踊り場にある、7メートルの吹き抜けは圧巻。このスケール感をどう見せるかが片山の仕事である。そして片山は天井いっぱいまで商品を展示することを思いついた。商品の持つ力を思いっきり引き出した。店舗中央の階段について柳井に直談判したところ「上がりたくなる階段だったらいいですよ」と柳井。大胆なデザインが投入されていった。

 実は柳井からは「建築が目立たないようにデザインして」と言われた。つまり商品が目立つデザインにして欲しいとの要望である。それは片山が最も得意とするデザインである。片山のデザインはあくまで商品が主役である。7メートルの吹き抜けに、商品が超整理整頓され、色のグラデーションとなって整然と並ぶ姿は圧巻、ニューヨークの人々を驚かせた。

「柳井さんに片山さんは僕と考え方が似ていると言われた」と笑顔を向ける片山。そこで柳井に尋ねた。どこが似ているのか? 柳井は2つあると明言した。一つは片山はアーティストではなくビジネスマンとしての発想を持っていること。従って「お客様が集まってこそいいデザイン」という考え方をもっている。もう一つは境遇、「私は洋服屋のせがれだが、片山さんも家具屋の息子。子供の頃から商売を見て育ってきて、お客様が買ってくれてこそ商売という発想が染み付いている」と柳井。つまり子供の頃から商売というDNAが植えつけられている。そこにアートではなく、ビジネスとしてのデザインという考えが貫かれているのである。だからこそ片山を訪ねる経営者が多い。

パリにユニクロがきた

 片山と佐藤の2人の偉才がタッグを組み、ユニクロの世界進出の旗印は見事に成功を収めた。そして09年10月にはパリ旗艦店がオープンした。

 場所はオペラガルニエと通りを挟んだ、百貨店が立ち並ぶ一等地である。売り場面積は約650坪。ニューヨークと違って、商業ビルではなく銀行が使っていた歴史ある建物。これをどう表現していくか。外観はいじれないので、ビルのクラシックなイメージを活かし、斬新な部分を融合した。パリ店では最先端の日本やテクノロジーのイメージを際立たせ、「現代のサムライという感じを打ち出したかった」と片山。

 10月1日のオープン初日は長蛇の行列ができ、パリっ子を驚かせた。「そこが佐藤可士和のすごいところ」と片山。パリコレ中ということもあったが、プロモーションが素晴らしくパリ中がユニクロに染まった。パリ在住の片山の友人が「ユニクロがすごいことになっている」と電話をくれたという。

「可士和さんはアートディレクターとかクリエイティブディレクターという次元を超えて、企業のコンサルティングの分野まで踏みこんでいる。ビジネスや経営も分かる方、私にとっては最高に刺激的な人」と片山は絶賛する。

人を呼び込むデザイン力

 常時約20のプロジェクトを抱えているという片山の仕事は多岐に亘る。ここで勝負をかけたいという企業家がワンダーウォールの門をたたく。

 アパレルの通販サイト「ZOZOTOWN」で急成長を遂げるスタートトゥデイ社長の前澤友作もその一人である。幕張にある本社のインテリアデザインを依頼したのだ。前澤という人間、そして会社の魅力に惹かれて2つ返事で引き受けた。平均年齢26歳という若い集団。ワクワクするエントランス、ガラス張りの全てが見渡せる会議室など、斬新なデサインを提案した。

 パティスリー界のピカソと呼ばれるフランスのカリスマバティシエ、ピエール・エルメの日本初の路面店「ピエール・エルメ・パリ青山」も片山の手によるものだ。エルメと意気投合した片山は、日本のコンビニが好きというエルメの意向を受け、コンセプトを?ラグジュアリー・コンビニエンスストア“と定めた。買いやすく見やすい、それでいておしゃれな店舗を提案した。逆に2階のバー・ショコラはシックで高級感のある雰囲気を演出。ラグジュアリーな空間の中でいただくショコラはまた格別だ。

 そしてニューヨークの高級食料品店ディーン&デルーカの東京ミッドタウン店も片山のデザインと知り、思わず納得した。商品のマルシェともいうべき、商品の持つ力を表現する店舗デザイン。何でも揃っている食のミュージアムに仕立てたと片山。まさにここには世界中の食料品が揃う。そんな力強さと情報力をもった店舗となっている。さらに日本人に合わせて清潔感と透明感を演出した。商品の持つ圧倒的な存在感が客を魅了し、思わず入りたくなる店に仕上がっている。

NIKEフラッグシップストア原宿

NIKEフラッグシップストア原宿

 その片山が満を持して創り上げたのが、NIKEフラッグシップストア原宿である。

 若者たちが闊歩する東京・原宿。原宿駅から表参道に入ってすぐ左に09年11月14日、「NIKEフラッグシップストア原宿」が完成、話題を呼んでいる。中に入ると競技場のトラックを再現した床面に驚かされる。片山がイメージしたのは「プレイグラウンド」という。スポーツに参加したくなるような場所にしたかったと語る片山。店の中にいるだけでスポーツの楽しさが体感できるようなデサインとなっている。一階の壁は無数の靴底がデザインされ美しいフォルムを形成。店の中央には2階に誘う階段。頭上にはシャンデリアのようにおびただしい数のシューズがディスプレイされ、思わずシューズを買って走りたくなる。商品の持つ魅力を徹底して際立たせる、まさに鬼才片山のなせる業なのである。世界に冠たるスポーツ用品ショップNIKEが日本のフラッグシップ店を片山に依頼したことでも、片山の実力がうかがえる。

アートとデザインは違う

 ところで今や世界的インテリアデザイナーとして活躍する片山だが、その才能はいつから開花したのか。「子供の頃は野球少年。音楽好きでバンドにも興味があった。デザインなんて全く縁がなかった」と片山。父親から家業の家具屋を継ぐためにインテリアデザインの学校への入学を勧められ、この道に足を踏み入れた。しかしすぐにデザイナーになるという発想もなかった。その後さまざまな経験を重ね、今日の世界的インテリアデザイナーとしてのキャリアを積み上げてきた。

 アートとデザインは違うと明言する片山。1億円の作品を1人の人が10個買ってくれれば終わってしまうのがアートとしたら、1000円の商品を多くの人が買ってもらうようにするのがデザインだというのだ。つまり「お客様が買ってくれなければデザインではない」ということだ。お店を流行らせるためにデザインがあると明快に語る。まさに人に認められてこそデザインが生きるということなのである。

 家具屋の息子として父親の日々の努力を見て育ったこと、これがアートでなくビジネスとしてのインテリアデザイナーを育んだといえる。「商品が持つ力を存分にお客様へ発信すること、これが原点」と語る。

 今後はまだまだ特殊と思われているデザインを、もっと当たり前のものにしていくのが目標と片山。夢は「私にしか出来ないことをやる。こういう状況だったら片山に頼むしかないよねと言ってもらえるようになりたいですね」。さらに世界中の仕事がしたいと目を輝かせた。既に南米、北米、オーストラリア、アジア、ヨーロッパ、ロシアなど世界中からオファーがきているという。アートではなく、人が集まりたくなる片山のデザインを世界が注目している。デザイン力で世界中の人々をワクワクさせられる片山正通は日本の誇りである。(M)

プロフィール
片山正通(かたやま・まさみち)1966年岡山県生まれ。2000年株式会社ワンダーウォール設立。インテリアデザインに加え、建築デザインディレクション、プロダクトデザイン等も手がけ、独自のバランス感覚とデザイン構築力で海外からの評価も高い。2008年には海外出版社より「Wwall Masamichi Katayama  No.2」が発売された。www.wonder-wall.com

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