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【核心インタビュー】サイバーエージェント代表取締役社長CEO 藤田 晋 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

日本屈指の売上高1000億円企業へ

(企業家倶楽部2011年8月号掲載)

Ameba(アメーバ)事業を主軸に、スマートフォン向けアプリ開発、ゲームコンテンツの提供、海外企業への投資と、新事業を次々と展開するサイバーエージェント。アメーバは会員数1500万人、月間200億ページビュー(PV)を突破し、売上高1000億円企業にも手が届いている。21世紀を代表するインターネットメディア企業を目指す藤田晋社長に、今後の戦略を聞いた。 ( 聞き手は本誌編集長 徳永卓三)


月間200億PVを突破した国内有数のネットサービス

 問 2011年9月期の業績予想は、売上高1100億円、営業利益110億円と好調ですね。一番の要因は何ですか。

 藤田 震災直前までほぼ全般にわたって調子が良かったですし、今期は業績予想を上回るのも確実です。震災を境に、広告代理店業が出稿見合わせの影響を少し受けていますが、「アメーバブログ」をはじめとしたアメーバ事業がずっと好調です。アメーバブログは2004年に開始しましたが、最初の5年間は赤字を出し続け、累積赤字が60億円にもなっていました。しかし2009年9月期第4四半期から利益を出し始め、2010年通期で約24億円、2011年は前期だけで30億円以上の利益を出せており、累積でも黒字転換することができました。アメーバの売り上げは、半分が広告、半分が課金から成り立っています。サービス自体を使うのは全て無料ですが、サービス内でアバターの服や家具を買ったり、ゲームでお金を使うと課金する仕組みになっています。 
 現在の会員数は約1500万人で、月に約60万人のペースで新規会員が増えています。最終的には全世代の男女がターゲットですが、特に人気を集めているのが20代、30代の女性です。モデルや芸能人がアメーバブログを始めたことで、若い女性のコアファンが増え、大きく成長するきっかけとなりました。中高年男性の会員数はまだ少ないですが、ネットメディアを主軸にい女性向けサービスから中高年男性の層へ広げていくことは可能です。またアメーバ事業はブログだけでなく、コミュニティや携帯電話ゲームなど、様々なサービスがあります。スマートフォン向けに年内、100アプリを制作予定なので、そこから新しい層への突破口を開いていきたいと思います。

 問 アメーバの会員数はどれくらいまで増えそうですか。

 藤田 日本市場では約2000万人を超えると、会員数の伸びが鈍化するので、そこから先は一人当たりの利用率を上げていきます。そのときに会員数ばかりを追いかけるのではなく、PV数が重要となります。現在我々は、ヤフー、グーグル、楽天、ユーチューブに次いだ国内5位のPV数で、月間200億PVです。2位、3位とはそんなに差がないので、うまくいけば今年いっぱいで追い抜ける可能性もあります。 
 テレビでは視聴率、雑誌では部数など、明確にベンチマークするべき指標がありますが、インターネットの場合は、会員数、月間利用者数、PV数のどれを指標にするべきなのか、曖昧で設定しづらいのです。我々の場合は最上位の指標としてPV数を設定しており、それを伸ばしていけば売り上げがついてくると考えています。以前から収益度外視で、月間30億PV を達成したら売り上げに繋がるサービスを始め、月間100億PVを突破したら黒字化すると計画してきましたが、その通りに実現することができました。 
 ですから次は、現在の200億PVを3倍の600億PVに伸ばすことを最も重要視していて、必然的に収益規模も3倍を目指しています。これは野心的に聞こえるかもしれませんが、非現実的な話ではありません。600億PV獲得のためには、現在のPV数を、スマートフォンは20倍の200億PV、ガラケー(ガラパゴス・ケータイ)は現状維持のまま100億PV、PCは3倍増加させた300億PVの構成比にする予定です。 
 2013年に営業利益300億円と言う中期目標が、現実味を帯びてきました。2011年9月期は上半期で75億円の営業利益が出ていて、業績予想に対する進捗も良いです。このままのペースで伸びていけば、来年200億円台に乗せ、その後300億円へ届く可能性も高いと考えています。

ネットとリアルの中間を担う仮想空間コミュニティ

 問 アメーバ事業の中でも、アメーバピグが非常に好調と聞いています。どういったサービスでしょうか。

 藤田 自分の顔に似せたアバターを使う、仮想空間でのコミュニティサービスです。仮想空間では、渋谷や京都、沖縄、パリなどへ行ったり、タイムマシンに乗って石器時代、バブル時代に行くこともできます。以前、アメリカ発の3D仮想空間サービス「セカンドライフ」が日本でも流行りかけましたが、あれを手軽に楽しめるようにしたサービスです。我々は2年前から始め、特に若い女性から受け入れられてヒットしました。現在会員は700万人おり、月に約40万人のペースで新規会員が増えています。

 問 高齢者でも楽しめますか。

 藤田 最終的には大人のコミュニティにしていこうと考えており、釣りやカジノに似せたラスベガスエリアなどがあります。そこでコインを買うことで、バカラやルーレットで遊ぶことができ、稼いだお金でアバターの服や家具が買えます。アバターの帽子やカバンなどは100円から300円で買うことができます。アメーバピグだけで1日約1000万円を売り上げています。人が集まるエリアに来ると、大勢から見られている気がして、いつもとは違う服を着ていきたい、新しい鞄を買いたいという気分になるので、皆さんとてもオシャレです。

 問 現実世界との関わりはあるのでしょうか。

 藤田 ブランドとのコラボレーションもやっています。例えばディズニーランドとコラボしたディズニーエリアがありますし、「エイプ」という若者向けアパレルブランドとコラボし、実際の新作商品と同じものを仮想空間で手に入れることができます。手が届く範囲の値段のものだと現実世界で買えますが、希少価値が高く、人気で手に入りにくい物でもアメーバピグ上なら手軽に購入できるという魅力があります。一番高くても500円程度で購入することができ、友達からコメントしてもらえるなどの楽しみもあります。 
 アメーバピグ内のエリア数は現在100程あり、1つのエリアの中にまたいくつものエリアがあります。こういうサービスは他になく、強力な競合もいないため自分達のペースで開拓することができます。そう簡単に作れるものではなく、開発にはエンジニアの高度な技術力も必要です。

 問 ミクシィやグリーとは、どのような違いがありますか。

 藤田 バーチャルソーシャルグラフとリアルソーシャルグラフという言葉がネット業界ではやっています。ミクシィやフェイスブックはリアルな友達のネットワークなので、リアルソーシャルグラフといわれています。一方、モバゲーやグリーは友達ではなく、見知らぬ人たちと遊んでいるのでバーチャルソーシャルグラフです。アメーバは知り合いとも知らない人とも遊ぶことができるという、それらの中間のポジションを狙っています。 
 ブログを知り合いだけに見せるのであればミクシィに書けばいいのですが、アメーバブログは見知らぬ人と知り合いの両方に見てもらうという観点からスタートしています。アメーバピグやツイッターと同じ立場です。
  それだけに、ツイッターができた時には「これは食われるんじゃないか」と思い、正直相当な脅威を感じました。しかし実際は、ブログを書いたらツイッターで「ブログ更新しました」と一言添えてお知らせする、という流れができつつあり、我々にとっては相乗効果が生まれています。

投資先の中国版ユーチューブはIPO目前

 問 海外戦略はどの様に描いているのでしょうか。

 藤田 海外には何度か出て失敗しているのですが、今は地に足が付いた事業を展開しています。基本的に買収などはせず、自前の人材を海外へ送り込みます。事業も日本で流行ったものを、ローカライズして海外で伸ばしていくやり方をしています。アメーバピグの海外版をサンフランシスコのオフィスで展開しており、海外事業全体で月5000万円位の売り上げ規模になってきています。

 一方中国では、なかなか自前で事業をやるのは難しいので、ずっと投資だけしてきました。投資でキャピタルゲインを得ることは可能だと思っていますが、地元へ根付いて事業をやるとなるとそう簡単に利益は出せないでしょう。その辺はかつて失敗しているため、自分達がわかる範囲できっちりやりたいと思います。

 中国市場は一見簡単そうに見えますが、見えない規制やルールが多いため、事業を進めていくのは難しいです。特に海外の会社に稼がせないようによくできていると感じます。インターネットの分野では、海外の会社のサービスを入れないと決めている様で、我々もサービス提供に際してはサイバーエージェント単体ではなく、現地法人と組むことを検討しています。

 また、昨今のネットによる中東革命を中国政府は気にしているので、特にインターネット事業はやり辛い環境にあるかもしれません。その一方で、中国の国内企業はよく育っていて、ツイッターやフェイスブックを真似しただけのサービスが急成長しています。私たちも中国では10社以上へ投資しており、ユーチューブに似た動画共有サイト「Tudou.com」はIPOも近いのでは、と言われています。

ネット時代に適したコミュニティ型ゲームを提供

 問 自社コンテンツを他社へ提供する事業も最近始められましたね。どのような事業でしょうか。

 藤田 SAP事業(ソーシャル・アプリケーション・プロバイダ)と呼んでいます。通常のゲーム業界では、ニンテンドーDSやPS3などのプラットホームへ、コナミやスクウェア・エニックスがゲームコンテンツを提供しています。それと同様に、我が社がゲームメーカーとなり、モバゲー、グリー、ミクシィ、フェイスブック、アップルストアなどのプラットホームへゲームコンテンツを提供するのがSAP事業です。2011年上半期は約34億円売り上げていますが、SAPの世界的最大手の米国企業「ジンガ」は、創業から4年程で売上高670億円になるよ企業家倶楽部 2011年8月号・46アメーバ内の藤田社長(チェックのハット帽子を被った中央のアバター)うな新しく有望な市場です。

 アメーバピグ自体をコンテンツとしたSAP事業も行っています。アメーバピコという名称でフェイスブックに提供していて、月2000万円の売り上げが立ち始めています。現在SAP事業には約50タイトルありますが、最も売り上げがあるのは、ミクシィへ提供している「星空バータウン」で、ミクシィ内でも常にランキング上位をキープしています。

 「星空バータウン」はミクシィ内で自分のバーを作り、友だちが飲みに来る、自分も友達のところへ遊びに行くというゲームで、一種のコミュニティでもあります。もっとお酒の種類を増やしたいとか、バーの内装を整えたい時に課金するシステムとなっています。誰かに「素敵なお店ですね」と褒めてもらったり、会話が楽しめたりと、現実を代替できる部分があります。また、グリーに提供している「コーデマニア」は、女性がスタイリストとなってファッションコーディネートをして遊ぶゲームです。これらは、月間の売り上げがタイトル1本あたり約7000万円になります。

 問 一般的なゲームコンテンツとの違いは何ですか。

 藤田 PS3などで遊ぶ通常のゲームは、発売後ヒットしても、しばらくすると忘れられてしまいます。しかしインターネットゲームは、発売してから運用し続け、1個の事業のように毎月伸ばし続けていくため、継続率が高いのです。
 SAP事業とは逆に、アメーバがプラットホームとなり、アメーバ内で作っているゲームもあります。例えると任天堂がマリオのゲームを作っている様なものです。月に5000万円以上売り上げているタイトルもあります。

 通常、ゲームを作るのであれば、ノウハウのあるゲームメーカーの方が強いはずです。しかしインターネットゲームでは、ネットのコミュニケーションやネットワークをよく理解した作りが重要となります。そこで我々の様なネット企業が意外と良いゲームを作ることができるわけです。

エンジニア採用を強化して開発に注力

 問 スマートフォンについて、どう考えていますか。

 藤田 スマートフォンへ主戦場が移り変わるのは、誰の目から見ても明らかです。海外ではパソコンの代替物としてスマートフォンを使っているようですが、日本はガラケーの代替物として使っているようなので、ガラケーで流行ったコンテンツが形を変えて、スマートフォンでも流行っていくと思います。

 今でもガラケー向け事業は展開していますが、全社で最も力を入れているのはスマートフォン向け事業です。まだ売り上げになる前の先行投資の段階ですが、グループ会社を含めて70ラインで新サービスを開発しています。通常1ラインあたり、技術者、プロデューサー、ディレクターなど合わせて5名前後で進めています。今後はより一層数多くのエンジニアが必要となってきます。我が社はかつて広告代理店としてのイメージが強く、営業社員が多かったのですが、2012年新卒採用からエンジニア採用の方が多くなりました。

 問 定評のある営業部隊に加え、技術部隊も強化されているわけですね。

 藤田 我々は「アメーバを中心としたインターネットメディア企業を目指す」と言い続けてきましたが、これがようやく実を伴ってきた感じがします。創業当初から、メディア事業を手がけていたものの、メディア企業として認識されないという悩みを抱えていました。それなりに大きなインターネットメディアは持っていても、楽天、グーグル、ヤフーのようにフラグシップとなるメディアを持っていなかったのです。私は、アメーバがフラグシップメディアとなるように育ててきたのですが、それがやっと形になってきました。「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンに向けて、これからも新たな挑戦を続けていきます。

Profile

藤田 晋(ふじた・すすむ)

1973年、福井県鯖江市生まれ。1997年青山学院大学経営学部を卒業後、人材紹介・派遣事業を行うインテリジェンスに入社。1998 年同社を退職し、株式会社サイバーエージェントを設立、代表取締役に就任。インターネットに特化した営業代行事業を経て、インターネット広告会社として急成長し、2000年3月、東証マザーズに上場。史上最年少26歳の上場企業社長として注目を集める。著書に「ジャパニーズ・ドリーム」「渋谷ではたらく社長の告白」「藤田晋の仕事学」「憂鬱でなければ、仕事じゃない」などがある。

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