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【地球再発見】vol.33 日本経済新聞社客員 和田昌親

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

新聞の勝ち組、負け組

(企業家倶楽部2021年7月号掲載)

 新聞の未来はどうなるのか?古くて新しい問題だが、「紙」は20~30年後には無くなるという極論もある。新聞社の経営内容は10年前の予測をはるかに上回るスピードで悪化している。仔細に見て行くと、どうやら勝ち組、負け組の色分けがはっきりしてきた。

 数字が物語る。日本全体の新聞総発行部数は2019年末に約3780万部だったのが、20年末には約3510万部と年間270万部も減った。「紙離れ」はそれほど深刻なのだ。

 加えて、新型コロナの影響で広告やイベントの収入がダウンし赤字決算が相次いでいる。通勤電車内でサラリーマンが朝刊を広げる姿はほとんどなくなり、代わりにスマホでニュースをチェックするのが当たり前の光景となった。新聞業界は明らかに「斜陽産業」だ。

 日本だけではない。新聞社の悩みは世界共通である。たとえば英国。デイリーメールは140万部の部数が80万部に激減、ガーディアンは2千人を自宅待機にしたそうだ。フィナンシャル・タイムズ(FT)も従業員給与を1割程度削減したという。

 アメリカの新聞界では廃業が目立つ。読者の減少で過去15年間に全米の4分の1にあたる2100の地方新聞が廃刊したとのショッキングな調査もある。

 理由は簡単。読者の多くが新聞からネットメディアに移行したからだ。このままでは新聞ジャーナリズムが崩壊するとして、世界の新聞界は経営改革に本腰を入れ始めた。「紙媒体」に代わる「有料電子版」の投入である。

 素早く対応したのがアメリカのニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナルの主要3紙だ。NYタイムズの有料電子版購読者数は20年に500万を超し、ワシントン・ポストの有料電子版も20年に300万に乗せた。これに対し米全国紙のUSAトゥデーは有料電子版を提供せず、人減らしや給料削減を強いられている。

 日本の新聞社で「紙」から「デジタル」への転換が最も早かったのが日本経済新聞社である。NYタイムズとほぼ同時期に有料電子版に大きく舵を切った。電子版だけの有料化は難しいとの見方を尻目に有料電子版76万部を確保、200万部の「紙」を支えている。

 筆者が驚いたのは最近の日経編集局の抜本改革である。日本の新聞社(編集部門)は通常、取材対象別に政治部、経済部、社会部、国際部、企業部、文化部という風に分け、記者を配置している。

 日経はその縦割り組織に横櫛を入れ、伝統的な「部」を無くした。政治部と経済部と科学技術部は「政策ユニット」、経済部と証券部などを「金融市場ユニット」という具合に呼び名も変えた。部長は「ユニット長」か「副ユニット長」だ。

 社内はカタカナの氾濫で混乱しているらしいが、これぞ抜本改革、と経営幹部は考えたに違いない。

 一方、日本最大部数の読売新聞社は21年初頭に「スポーツ・エンターテインメント」を新聞事業と並ぶ「第二の本業」とする計画を発表した。「紙」への執着が強い読売新聞の異例の方針転換と言える。

 また朝日新聞社は「不動産事業」の強化を打ち出している。読売や朝日は全国に多くの直系新聞販売店を抱え、その経営を支援する必要もある。

 しかし、「エンタメ」や「不動産」では販売店も救済できないし、新聞社の利益源になるとも思えない。日経の挑戦が成功するかはわからない。でも新型コロナは新聞経営を見直す絶好のチャンスだろう。かつての日常が戻るなんて思わない方がいい。

Profile 和田昌親(わだ・まさみ)

東京外国語大学卒、1971年日本経済新聞社入社、サンパウロ、ロンドン、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。

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