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【トップに聞く】フォーバル代表取締役会長 大久保秀夫 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

中小企業をアジアへ導く道先案内人となる

(企業家倶楽部2010年10月号掲載)

 「日本は電話料金が世界一高い」と外国から揶揄された1980年代、大久保秀夫会長は盟友ソフトバンク孫正義社長と共に巨艦・NTTに挑んだ。3分400円だった長距離固定電話料金は、通信業界の常識を破る「NCC・BOX」の開発により、現在では3分7.5 円ほどにまで価格破壊が進んだ。当時日本最速記録での上場を成し遂げた、熱き企業家はいまカンボジアに目を向けている。その新たな挑戦について聞いた。

孫正義社長と共に電話料金の価格破壊

問 ソフトバンクの孫正義社長と共同で事業をなさっていたそうですね。

大久保 私が起業した1980年頃は、NTTが固定電話機のシェアを独占しており、「日本は世界一電話料金が高い」などと外国から揶揄されるほど電話料金が高かったのです。そこで電話料金の価格破壊をしてやろうと二人で新事業を考えだしました。

問 具体的にどのような事業をなさったのですか。

大久保 1985年の電電公社の民営化以降、通信の自由化によってDDI(現KDDI)や日本テレコムなどの新電電が事業を展開し始めました。しかし新電電の電話料金は、地域や会社ごとに異なり、利用者は一番安い回線を料金表で確認する必要がありました。また電話をかけるときは、ダイヤルの前に0088などの番号を付け加えるなど、非常に手間のかかる作業でしたので、通信の自由化が起きても結局利用者がNTTに偏るという事態が起きていたのです。そこで孫社長と共に、利用する地域ごとに最も安い会社を自動的に選び、さらに0088などのダイヤルも自動的に入力してくれる機械を開発しました。今までは安住していたNTTも電話料金を下げなければならなくなったので、一気に電話料金が下がり、現在の電話料金の安さを実現したと自負しております。

問 それが「NCC・BOX」ですね。常識破りのこの事業に、壁は多かったのではないですか。

大久保 社員を説得するのに苦労しました。孫社長から頼まれた33億円のコミットは、当時のわが社の売り上げとあまり変わらなかったですからね(笑)。また社外の方でも、電話料金の単価が下がるのだから、売上も共に下がり、成功するはずがないと主張する方もいました。ただ、私には「この事業は絶対に成功する」という自信がありました。たしかに、食料や車や家などの消耗品は、価格が10 分の1になったからといって10倍買うかと考えたら、そこまでマーケットは増えないでしょう。

 しかし電話は、料金が下がったら下がった分だけ増えるのです。今まで高かったからおさえていた電話が、なにげないことでも電話しようかということになる。つまりコミュニケーションとは、安くなれば安くなっただけ増えると確信していました。 事実、現在では固定電話機に加え、携帯電話やインターネット電話など様々な手段が生み出され、コミュニケーションは増え続けています。用事がなくても電話をかけたりします。人間はコミュニケーションの動物なのです。

 敵陣の中に事業所を構える

問 それがフォーバルの転機となったわけですね。その後、フォーバルはどのような事業を展開していったのですか。

大久保 当時、国際電話料金が国内電話料金と比べものにならないほど高いのが問題となっていましたので、次は世界の通信のど真ん中であるニューヨークに渡り、国際電話料金を安くしました。
 
 KDDを相手に事業をすることにしたのですが、具体的に、ある交換機をニューヨークに置きました。KDD経由の国際電話をかけるときは、利用者は最初に001のダイヤルを回すのですが、そのダイヤルを回したら、すべてをニューヨークにあるフォーバルの交換機を経由するようにしたのです。
 
 この事業において一番苦労したことが、交換機を作るための資金や技術と、交換機を置くための場所です。万が一、交換機が壊れたら大変なことになりますから、一番安全な場所に置く必要がありました。
 
 そこで選んだのがKDDです。KDDは地震が来ても安全な局社を持っていました。しかしKDDの中にフォーバルの交換機を置くことは、呉越同舟とも言える行為です。普通に頼んでも実現できないと考えた私は、当時の郵政事務次官のOBに会いに行きました。そこで私のビジネスモデルを話し、「ぜひKDDを紹介して欲しい」と心からお頼みしました。すると「いずれこの時代がくるでしょうね」と、本当にKDDの社長を紹介してくれました。
 
 その後、郵政事務次官の方と同席のもとKDDの社長と面会した時、「すなわち、我々がインフラを提供し、あなたがたがそのインフラを使って商売をするということですね。しかし、いずれその時代が来るのでしょう。お金はどのくらい必要ですか」と当時のKDDの社長が、フォーバルに1億円を投資してくださるとおっしゃってくださいました。しかもKDDの中に、フォーバルの交換機を置いてもよいと。
 
 ニューヨークには世界各国のあらゆる通信会社が展開しています。日本のKDDのバックアップは、世界各国の通信会社のたくさんの信頼を与えて下さり、日本の企業もKDDが出資している会社なら安心だし、フォーバルの交換機に送る方が安い、とどんどん利用してくれました。日本からフォーバルの交換機を経由してきた国際電話は、それぞれの国の中で最も安い電話会社に送るようにしました。
 
 これにより、再び国際電話会社は電話料金を安くする必要が生まれ、KDDも電話料金を下げ、それにつられ他の国際電話会社も下げ、結果的に国際電話料金も安くなりました。これは、大きな貢献だと思っています。この事業のために設立したフォーバルテレコムは、2000年に東証マザーズに上場することができました。

 ブロードバンド分野でのセコム

問 大久保会長はこれまでに3社も上場されたそうですね。当時の最速記録でフォーバルを上場させたそうですが、現在のフォーバルの主力事業とはどのようなものですか。

大久保 ブロードバンド事業がメインです。フォーバルは徹底的に法人に軸を置いています。この約30年間、この軸は絶対にブレさせませんでした。最近は法人も携帯を使うなど、企業の固定電話と携帯が一体となる時代がきていますので、これからは法人への取り組みが本格化すると思います。
 
 その中で、現在はセキュリティ関連の業績が一番伸びています。ブロードバンドになると、膨大なデータをやりとりできるようになるので、その分セキュリティの重要性が高まります。つまりブロードバンドが増えれば増えるほど、コンテンツは多くやりとりされ、資金もやり取りされるようになります。そのためネットワークを24時間監視しする必要性が出てくるので、セキュリティ関連のニーズが、どんどん高まってきていますね。

問 具体的にどのようなサービスを提供されているのですか。

大久保 主に、24時間常にお客様のパソコン状態をチェックするサービスを提供しています。ウィルスが入った、温度が上がった、変なアクセスがある、このようなお客様が気付かないような事態でも、我々のセンターが24時間監視しているため、すぐに連絡できます。

問 ある意味で、ブロードバンド分野でのセコムのようなイメージでしょうか。

大久保 全くその通りです。我々は「フォーバルしてますか」といいます。実は普通の泥棒より、ネットワークの泥棒のほうが恐いのです。こちらの方が一回で大きなお金を持っていかれますからね。さらに恐いのが、お客様の個人情報の漏洩です。これは下手すれば、桁違いの損害賠償になります。視点を変えて考えてみると、ハッカーにとってはブロードバンド化は天国です。彼らはつけいる隙をねらって、苦労せず昼間に堂々と盗んでいきます。

問 セキュリティ事業というのは日進月歩で、泥棒もどんどん進化していきますよね。

大久保 そうですね。ですから技術の進歩をしていかなければいけない。常に戦いなのです。こちらが考えても、相手もさらに考えるので、常に技術進歩したサービスを提供することが最も重要です。

 「モノ」を売るのではなく「コト」を売るプロになる

問 そのためにも技術者の養成には、力をいれているのですか。

大久保 フォーバルは社員全員に、営業マンと名乗るのをやめさせました。我々は「モノ」を売るのではなく、「コト」を売るコンサルタントに名前を変更しました。「このパソコンを使うことによって、事業はこのように変わります」、「このインターネットを使うことによって、このような対価があります」といった「コト」、つまりノウハウを売るのです。
 
 そこで、社内全体で資格の取得を推進しています。コンサルタントとしてお客様に会ったとき、名刺をしっかりと見せ、自分はこういったプロであるとお客様もわかるほうが、安心して接することができます。それがこれからの時代で一番価値があると思っています。5年ほど徹底し、かなり高い取得率になりました。今では情報通信のコンサルタントとしてだけではなく、経営にも関与する総合コンサルタント部門もできました。
 
 この30年間で、山ほどの失敗と少しの成功をしてきましたが、そのケースをひとつずつ分析すると、ひとつの法則が浮かび上がりました。この法則を、今度は今までお世話になってきた顧客の皆様に恩返しをするため、提供しようと考えています。
 
 実際に、コンサル事業はコンサルティングを開始してからたったの1カ月か2カ月半で、来客数が40%伸びるなど、急激に成果は出ています。成功している企業はこの法則をしっかりとクリアしているのです。大企業はもちろんしっかりとやっています。しかし中小零細企業はしっかりとできないのです。だからなかなか伸びません。しかし裏を返せば、簡単に伸びる素地があります。

問 つまり中小企業向けの法人サービスを主に展開しているわけですね。

大久保 はい。しかし国内だけでは限界があるので、現在ベトナムやカンボジアなど、アジアを中心に現地法人をつくりました。アジアに日本の中小企業を導こうと、現在尽力しております。中小企業はとても良い技術を持っていますが、跡継ぎがいないことが非常に問題になっています。しかし、若い人材はアジア諸国にはたくさんいます。ならば中小企業をアジアに連れて行けばいいということです。しかも労働賃金は40分の1です。
 
 若い労働力が集まる場で、しっかりと技術を継承すれば、工場が日本になくても事業は伸びます。我々は現在、カンボジアではレンタルオフィス提供や現地視察ツアー同行、現地法人設立、人材採用支援などを通して、全面的にバックアップしております。

問 中国はどのようにお考えですか。

大久保 中国は、もはや中小零細企業は行くべきではないと思います。特に沿岸部についてはものすごい競争で、中小企業にはチャンスがありません。
 
 すでにタイやベトナムも競争が激しくなっています。やはり次はカンボジアだと思っています。カンボジアについては商圏が生まれない理由がまったく見いだせないほど確実だと思っています。ですからカンボジアに、中小零細企業を早く進出させようとしています。
 
 日本はもう少子高齢化になっていますので、法務省がよほど外国人の労働者の枠を広げない限りはなかなか厳しいのが現状です。ならばこちらが動くしかありません。そこで、リスクがなくて進出できる道をフォーバルが作らせていただこうと思ったのが、このアジアへの道先案内人としての役割です。これもコンサルタントのひとつだと考えており、この事業を通して日本の経済を活性化させたいと願っております。

P r o f i l e

大久保秀夫(おおくぼ ひでお)

1954 年、東京都生まれ。國學院大学卒業後、アパレル関連企業を経て、1980 年フォーバル(旧新日本工販)を設立。ビジネスフォンの販売を開始する。1988年に設立から最短記録( 当時)で店頭市場(現・ジャスダック)に株式公開。フォーバルの2010年3月期連結決算は売上高322億600万円、経常利益4億7700万円。現在、同社代表取締役会長。

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