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【新興市場の星たち 】ベクトル 代表取締役(CEO)西江肇司 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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良いモノを世の中に広めたいPR最強集団ベクトルが東証マザーズに上場

良いモノを世の中に広めたいPR最強集団ベクトルが東証マザーズに上場

(企業家倶楽部2012年6月号掲載)

〈文中敬称略〉

戦略PR時代の到来
 
 PR事業を軸としたマーケティングを展開するベクトルが、2012年3月27日、東証マザーズに上場した。ベクトルは東京、赤坂にオフィスを構え、従業員は196名、北京、上海とアジアにも展開をする新興企業である。同社はグループ会社で、経営企画、財務、会計、人事、総務及び内部統制・監査/新規事業の開発及びトライアルを行うVECTOR(ベクトル)、その傘下の総合PR事業を行うANTIL(アンティル)とPlatinum(プラチナム)、WEBマーケティング事業を行うSIGNAL(シグナル)、インターネットPRサービスを行うPRTIMESによって構成される。

 同社は企業の広告・宣伝活動支援を手掛けるPR会社である。CEOの西江肇司は自社を「モノを広めるプロフェッショナル集団」と称し、数々のPR事業を展開してきた。ベクトルが手掛る事業は多くのメディアに取り上げられ、その実績力から業界トップの地位を築き上げた。

 ベクトルが掲げるのが戦略PRである。これはマーケティング活動の主軸にPRの観点をおいて、消費者とのコミュニケーションを設計し実行することだ。噛み砕いて言うと、自分たちの商品に関する情報を、うまく世の中に受け入れてもらいやすいニュースに変えて流通させていくことである。
 
 そもそもPR(パブリック・リレーションズ)とは広報活動を表すが、戦略PRのキーポイントは“時流に乗せる”ことである。流行とPRは最もリンクしている。戦略PRは、自分たちが発信したいニュースを一方的にメディアに載せて欲しいと思うのではなく、世の中の流行、事象に上手くリンクさせ、自ら取り上げられるように情報を加工するのである。情報が溢れ返る現代社会で、CMや広告など企業自らが発信する情報に陰りが見えつつある。消費者が価値のある情報と見なすのは、テレビや雑誌の特集、ブログやSNS、ネットの口コミなど第三者の客観的な情報であり、ニュースなのである。

 また、戦略PRは、自分たちの発信したい情報をメディアがニュースとして取り上げるので、基本的にコストはゼロ。効果的で低コストと、正に企業のニーズにぴったりと合っているのだ。「リーマンショック以降の景気低迷で、低コストで効率的にモノを広められる戦略PRの需要が増えている」と西江は分析する。

 この代表例が、同社が手掛けた回転寿司チェーンのスシローだ。「回転寿司特集」で多くのメディアに取り上げられ、最も注目度の高い回転寿司チェーンとして名を売ったスシローだが、そこには戦略PRの様々な仕掛けが隠されている。

 従来の広報では、新店舗のオープン、役員の交代などの企業情報を全面的に出されていた。それでは情報慣れした消費者には全く効果がない。そこで「低価格戦争」「ローカル回転寿司戦争」という戦争の構図を描くのだ。メディアに戦いの中で勝ち続ける企業とマーキングされることで、一気に露出が増える。同時に元気な業界というイメージが演出できるのだ。戦略PRの良い一例といえる。

「メディアの情報量や企業の商品数が増え、広報では効果がありません。私たちは企業の効率的にモノを広めたいというニーズや、消費者の本当に良い商品を知りたいという欲求に応えます」


時代を読み取り話題を仕掛ける

 創業者の西江は、岡山県出身の1968年生まれ。大学在学中からプロモーション事業を始め、年間100本以上のパーティーをプロデュースしたり、学生向けのツアーを企画してきた。大学卒業後、プロモーションを主軸とする会社を立ち上げ、テレビタイアップなどの事業を展開するのだ。

 ある時、西江はプロモーション会社でのクライアントの案件をPR会社に依頼した。しかし、放送当日になり、蓋を開けてみたら、放送されなかった。困り果てた西江は自らPRする決意をし、PR事業に足を踏み入れたのである。これがきっかけとなり2000年から本格的にPR業界に参入した。

 西江は、まずテレビのプロデューサーに片っ端から会いに行った。大学時代からの営業経験を活かし、クライアントからの依頼をテレビ局に飛び込みで持っていった。がむしゃらな若者に新鮮さを感じたプロデューサーたちは、西江を可愛がった。

「創業当初は、PRについて何も知らなかったので、怖いもの知らずで飛び込んで行きました。当時はPR自体の認知度が低く、独学で学ぶしかありませんでした。試行錯誤の日々が続きました」

 アイディアマンの西江を支えるのが優秀な社員である。PRは形のある商品ではないので社員が会社の財産になる。ベクトルには会社を先導する人材が揃っている。

「社員に最低300のケーススタディを頭に入れるよう言っています。そこからうまく学べば殆どのPRの仕事はできます。大切なのは、PR業界で働くのが好きであるかです。」

 3月16日、ユニクロ銀座店がオープンした。世界最大規模の旗艦店としてメディアに大々的に取り上げられた。銀座は外国人観光客が多く訪れるため、英語、フランス語、スペイン語、中国語、韓国語の6カ国語に対応可能というニュースである。

「ただの新店舗のオープンではない。グローバル化が進む世の中に即した戦略がしっかりと織り込まれています。時流に乗っている非常に上手い例です」と西江は高く評価した。

満を持してアジア進出

 今、戦略PRという言葉がブームになっている。業界収益は年々右肩上がりで、中でも宣伝部門の予算とリンクしたPRが急激に増加した。

「我が社の強さは実行力です。アイディアや企画はいくらでも出せますが、重要なのはどう結果を出すか。私たちはモノを広めるためのインフラを持っています。」

 PR事業成功で重要なのは、企業のPRのとらえ方にある。経営の根幹にPRがあるかないかで企業の発展に大きな差がつくのだ。単にPR会社に依頼をすれば成功するわけではない。PR会社と企業は共に力を合わせてやっていくパートナーである。PRで成功する意志があるか、社長自身がPRを重要視し、実行するかが成功の鍵になる。

 ベクトル株は公募価格1000円を16%上回る1160円で初値を付けた。上場を皮切りに、アジア進出への新たなスタートが始まった。狙うマーケットは市場が莫大で、経済成長の著しい中国である。

「中国をあまり遠いところと思っていません。中国はTVが100チャンネル以上あり、マス広告がきかないので、PRの力が重要視されており、その市場が広大です。日本と中国ではスピード感も全く違います。現地に合わせた戦略を立て、まずは海外展開をする日本企業に携わりたいです」

 現在、ベクトルではフェイスブックの新アプリやウェブPR事業も展開している。世の中に“良いモノ”を広めたいをモットーに、アジアナンバーワンのPRグループを目指すベクトルの今後の活躍に期待したい。

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