会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2013年6月号掲載)
1998年の設立から15 年、急成長を続けるスタートトゥデイ。ZOZOTOWN(ゾゾタウン)をはじめとしたファッションEC事業で圧倒的な存在感を示しているだけではなく、仲間が楽しく働ける職場を作るための施策も展開している。昨年は若干の騒動もあったが、常に新しいことに挑戦し続けるスタートトゥデイの次の狙いは一体何か。アパレル業界を牽引する存在として、今後の課題や抱負を前澤友作社長に聞いた。聞き手は:企業家ネットワーク社長 徳永卓三
理念浸透がモチベーション向上のカギ
問 リンクアンドモチベーションの2013年ベストモチベーションカンパニーアワードで1位を受賞されましたね。おめでとうございます。受賞にあたってどんな所が一番評価されたのだと思いますか。
前澤 ありがとうございます。スタッフの「満足度」を点数化した際に、ポイントが一番高かったのが弊社だったということですが、「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」という当社の企業理念をはじめとする、理念の浸透やスタッフのチームワークが評価されたのだと考えています。
問 リンクアンドモチベーションとのお付き合いはどれくらいですか。
前澤 4?5年前からです。きっかけは、リンクアンドモチベーション主催の研修に参加したことでした。リンクさんとはご縁を感じていて、リンクさんの東証2部上場と同じ日に弊社が東証マザーズへ上場したことを覚えています。企業家賞も2008年に一緒に受賞しました。
真面目・感動・カッコいいをキーワードに
問 昨年9月に行われたZOZO COLLE(ゾゾコレ)は大きな潜在価値を持っていると感じました。このイベントの狙いは何だったのですか。
前澤 消費者の方々の予約購入数を増やすのが目的でした。アパレルメーカーは見込み生産で多めに商品を作るため、どうしても売れ残りが出てしまい、処分に費用がかかります。そのために過剰在庫が増えてしまうのを抑えたかった。また、予約購入だと消費者が欲しいデザイン・色・サイズ・数を確実に用意することが出来ます。
問 実際どれくらいの商品が売れたのですか。
前澤 約1億5千万円で、予想通りという感じです。来場者は1万人ほどだったのですが、私としては2?3万人は来て欲しかったですね。
問 1年目で1万人の来場者は立派です。各ブランドの反響はいかがでしたか。
前澤 今回、約200ブランドの出店がありました。集客に関してはまだまだでしたが、基本的にどのブランド様も「面白かったので、次回も是非出店したい」と言って下さいました。
問 収支は合いましたか。
前澤 収支はほぼトントンと言ったところです。
問 それならば、2回、3回と開催してみたらいかがですか。ゾゾコレは若い才能のあるデザイナーの育成だけでなく、世界へファッション情報を発信出来るイベントだと思います。予想以上に効果が見込めるのではないでしょうか。
前澤 そう言って頂けると励みになります。今はやりたいことが沢山あり、優先順位を考えているのが現状です。次回の開催がいつになるかわかりませんが、可能性は感じているので、今後も検討していきたいと思います。
問 他にやりたいことというのは、どのようなサービスですか。
前澤 詳しくは言えないのですが、ZOZOTOWNやZOZOVILLAをはじめとしたEC関連サービス以外の、第二、第三のサービスを今後出していく予定です。
問 いつごろ展開するのでしょう。
前澤 2014年3月期中にとしか申しあげられません。ファッション業界を主軸としたサービスに変わりありませんが、今言えるのは「モノを売る」サービスではないということだけです。
問 ところで、2013年3月期の決算はどのようになりましたか。
前澤 商品取扱高が935億円で成長率16・5%、売上は338億円で成長率6.3%、経常利益は78億円で成長率2.4%を予定しています。利益がもう少し出ると良かったのですが。
問 今後の計画はいかがでしょう。
前澤 2014年3月期中に経常利益100億円は達成できると思います。2012年度はトライアンドエラーな年でもあったので(笑)、今年度は地固めの年にすると決めています。「真面目・感動・カッコいい」をキーワードに、真面目に働き、感動してもらい、カッコいいと思ってもらえるように頑張ります。
問 経常利益100億円は素晴らしい。大手企業でも100億円はなかなか越えられません。昨年、ツイッターで女子高生と配送料について一悶着ありましたが、私はあまり萎縮せず、ベンチャーらしくワクワクさせる取り組みに期待しております。
前澤 実は送料無料はその前から決まっていたことでした。広告宣伝に多大な金額を割くよりも、買って頂くお客様へより良いサービスを提供したいと考えた結果です。
問 そうですか。それならツイッターで口論する必要はなかったですね(笑)。送料無料の取り組みはうまくいっていますか。
前澤 はい。
問 しかし、「タダより高いものはない」と言いますからね。無料競争の結果、消費者に大きなツケが回っていくような気がします。
前澤 お客様はより安いサービスを求めているので、お客様とのつながりを深めるために実施しました。
問 前澤さんは返品についても原則反対のようですが、実際には返品を受けておられますね。
前澤 返品は受けていますが、本心を言えば、出来るだけ少なくしていきたいですね。そうすれば、環境への負荷を減らすことが出来ます。消費者にも正しい商品選択行動をとってもらいたいと思っています。
問 中国ではソフトバンクとの提携を解消しました。
前澤 1年半前にソフトバンクとの合弁会社を作り、アリババのショッピングサイト「タオバオ」に出店し、中国版サイトも作ったのですが、今後の営業戦略を当初より変更することになりました。
問 昨秋は反日デモが多発しましたが、それも影響しているのですか。
前澤 現地の駐在員の話によると、それは関係ありません。中国市場で日本ブランドの強みが活かしきれなかったのが原因だと考えています。日本での成功体験を移植するだけではうまくいかないと強く感じました。まさに「郷に入っては郷に従え」というのが教訓ですね。私や責任者が中国に駐在するぐらい本腰を入れないと、中国でのビジネスは難しかったです。
問 ソフトバンクとの提携は解消になりましたが、孫正義社長は世界的な企業家ですから、これからもいろいろ教えて頂くといいでしょう。
前澤 そうですね。先輩社長としてご指導を仰ぎたいと思います。
賃上げより短時間労働
問 労働時間を1日6時間に短縮した「ろくじろう」が話題になっていますね。狙いは何だったのですか。
前澤 9時から15時まで昼食をとらないで、短時間集中して働く労働スタイルにすることによって、短時間労働の可能性を社会に伝えたかったからです。今の企業は働きすぎだと思います。
問 導入されたのはいつですか。
前澤 2012年5月からなので、約1年前くらいです。
問 スタッフの評判はどうですか。
前澤 スタッフ一人ひとりの労働生産性が25%アップしました。
問 スタッフは労働後の時間をどのように使っているのでしょう。
前澤 習い事や映画、読書から、子供のいるスタッフは育児など思い思いに使っています。このような活動は人として重要なことです。労働後の自由な時間でインプットしたことが、仕事へのアウトプットに繋がり、さらに効率の良い仕事が出来るという好循環が生まれているのを感じています。
問 「ろくじろう」はこれからも続けるのですか。
前澤 これからも続けていきたいですね。将来的には週休3日制に出来たらいいと考えていて、「週休3日でもこんなに効率よく仕事ができるなんて、日本は素晴らしい」と世界を驚かせたいです。
問 アベノミクスで各社が賃上げに動いています。
前澤 私が日本のトップだったら賃上げより先に労働時間を短縮させます。弊社は8時間労働から6時間労働にした際に、実質賃金は33%上がりました。給料が3%や6%上がったところで、労働に対する意欲はそう上がらないと思います。
問 賃金を上げるより労働時間を短縮してあげた方が社員は喜ぶということですね。
前澤 仰る通りです。
自然な社会を目指す
問 今後のアパレル業界の問題点はどのようなところにあるとお考えですか。
前澤 やはり在庫過剰の問題にメスを入れる必要があると思います。そのためには予約販売に力を入れていくべきです。その施策の一つとして、昨秋ゾゾコレを実施しました。現在行っているネット販売は目指す姿の一つでしかありません。
問 では、御社の社会的な役割や使命とは、どのようなものでしょう。
前澤 働くということを自然な営みにすることが使命だと考えています。弊社ではプライベートと仕事の境はありません。なぜなら、人生とは働くこと、人生とは楽しむことであると考えているからです。過剰な成長は何かを犠牲にしています。人の幸せが付いてこなければ、本当の成長とは言えません。
今、会社は互いに競争を繰り広げていますが、今の社会は自然な形ではないのです。進歩した文明、文化、技術を駆使しながら、お互いの発展を願った自然な社会を作っていきたいと思います。
問 前澤社長の考えは理想主義ですね。一見、青くさい所もありますが、企業家やリーダーは常に理想を持ち、理想を語るべきだと思います。理想を聞いた時、社員も大衆も元気が出て奮い立つのでしょう。大いに理想を語って下さい。
前澤 ありがとうございます。理想が実現できるように頑張ります。
P R O F I L E
前澤友作(まえざわ・ゆうさく)
1975 年、千葉県生まれ。 早稲田実業高校在学中に、音楽バンドを結成。高校卒業後すぐにアメリカへ音楽遊学。95年、音楽活動を続けながら輸入レコード・CD のカタログ通販ビジネスを自宅にて創業。自身のバンドはその後メジャーデビューを果たす。98 年5 月に、有限会社スタート・トゥデイを設立(現株式会社スタートトゥデイ)。本格的に事業をスタートする。2000 年、アパレルネット通販に進出し、04 年にファッションショッピングサイトの「ZOZOTOWN」を本格的にオープン。その後も事業を拡大し、07年12月、東証マザーズ上場を果たす。12 年には東証一部に指定換え。08 年、第10 回企業家賞を受賞。