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【ベンチャー・リポート】

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Japan Venture Awards 2012ミドリムシの研究開発を行うユーグレナが経済産業大臣賞を受賞

Japan Venture Awards 2012ミドリムシの研究開発を行うユーグレナが経済産業大臣賞を受賞

(企業家倶楽部2012年6月号掲載)

 (文中敬称略)

未来を切り開く挑戦者たちを表彰

「Japan Venture Awards2012(以下JVA)」の最終審査議会が2月22日に六本木ヒルズ森タワーアカデミーヒルズで行われた。JVAは地域経済と雇用を支える“創業”や、将来の日本経済を牽引する“ベンチャー”企業の経営者を広く紹介することで、創業の機運を高め、創業の促進を図るために開催された。

 主催は独立行政法人中小企業基盤整備機構。社会性、革新性、国際性などに優れた事業を行い、リスクを恐れず挑戦している起業家を表彰する。2000年からスタートし、今年は応募件数66企業の中から選抜された11 名が受賞、歴代含め受賞者は総勢200名となった。

 受賞者の分野はバイオ、医療、環境、飲食などバラエティーに富み、南インドでの鉱山労働のボランティア経験を活かしたジュエリーの製造・販売事業のHASUNA代表取締役の白木夏子や、設立当初からグローバル市場でのシェア獲得を目指し電動バイクを製造販売するTerra Motors代表取締役の徳重徹がいる。さらに、東日本大震災で破滅的な打撃を受けた陸前高田市できのこの生産を行う、きのこのSATO販売代表取締役の佐藤博文らが受賞した。

植物と動物の性質を持つ生物

 大賞の「経済産業大臣賞」に輝いたのは、ユーグレナ社長の出雲充だ。同社はユーグレナ(和名ミドリムシ)の培養技術を軸に機能性食品や化粧品、バイオ燃料などの環境関連技術の研究開発を行っている。

 出雲は東京大学在学中、学外活動の一環でアジア最貧国のバングラデシュを訪れた。そこで世界に存在する貧困の現実を目の当たりにし、その時に抱いた世界規模の貧困や栄養事情の解決に対する熱い思いが、同社設立へと繋がった。

「14年前にバングラデシュに行った時、世界の総人口は60億人でした。2011年10月末日の国連人口計画によると、世界の人口は70億人を突破しました。この14年間で世界の人口は10億人も増えたのです。そして食料不足のために苦しむ人々が、正に10億人います。私たちはミドリムシで世界中に栄養素を届け、世界の人々の健康に貢献したいと思い、7年前に創業を決意しました」

 バングラデシュから帰国して2年、出雲は貧困問題解決のため、様々な植物の栄養素を研究していた。そこに農学部の後輩である鈴木(現在の同社研究開発担当取締役)が、単細胞生物のミドリムシを提案したのだ。ミドリムシは光合成により二酸化炭素を吸収し、栄養素を体内に蓄え成長していく。また、動物のように細胞を変形させて移動することも出来るので、生物学上植物と動物の両方の性質を持つことになる。59種類もの栄養素を持ち、人体が摂取した際の栄養吸収率が非常に高いのも特徴である。つまりミドリムシは、地球上で唯一、植物と動物どちらの性質も持ち、生物の中で最も多くの栄養素を持つ非常に珍しい生物なのだ。

 ミドリムシに魅了された出雲は、これを環境問題、食糧問題に役立てようと考えた。二酸化炭素の削減に役立ち、多くの栄養素を少量で摂取できるので輸送も容易である。これは問題解決に貢献すると出雲は確信を持った。

 しかし、課題があった。ミドリムシの大量培養に成功した前例は無く、不可能とさえ言われていたのだ。ミドリムシは栄養豊富なため、すぐに他の微生物に食べられてしまう。屋外で大量に培養するなら尚更である。

 そこで開発されたのが培養液である。ユーグレナは世界で唯一ミドリムシの大量培養に成功したのだ。これにより培養量が増加するだけでなく、周辺環境の変化にも対応しやすいことから安定的な生産の確保が可能になった。

ミドリムシで飛行機を飛ばす

「私たちは近い将来、石油の燃料で飛行機を飛ばすのではなく、ミドリムシの燃料で飛行機を飛ばしたいと思っています。今は荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、必ず実現させてみせます」

 出雲は受賞スピーチで夢を語った。

 現在、ユーグレナが最も注力しているのがミドリムシの燃料化だ。ミドリムシが二酸化炭素を吸収し、成長する際に出す油脂分を原料に燃料を作り出す。ミドリムシ由来の燃料は、石油などの化石燃料と違い枯渇する心配もない。

 同じバイオ燃料では、サトウキビやトウモロコシが有名だが、これらの植物は食糧としても生産されているため燃料としての消費が増えると、結果的に食糧価格高騰に繋がってしまう。これに対して、ミドリムシの種類は食用と燃料用で異なるため、バイオ燃料の課題を克服できるのだ。二酸化炭素の排出量は増加せず、温暖化の防止に貢献することが出来るので、画期的な新エネルギーと言えるだろう。

 しかし、燃料化にはコストの壁がある。化学製品より石油が安いように、ミドリムシ燃料も低価格でなければならない。今後は、コスト競争力を発揮できる形での事業展開を目指している。

 ユーグレナの研究開発の根底にあるのは食糧問題、環境問題である。同社ではサプリメントや雑炊などに製品化しており、1枚に2.2億匹のミドリムシを含んだクッキーアソートは、1箱1週間分3150円で発売されている。環境問題においては燃料に使えるミドリムシが発見され、事業の目的にますます厚みが出てきた。今後のユーグレナの事業展開について鈴木は語る。

「ミドリムシは全ての産業に事業展開できます。マーケット規模も大きいです。事業展開できる余地があれば、医薬品や生物素材として、プラスチックなど様々な分野に展開をしていきたい」

 大賞のユーグレナに対して、審査委員長の柳孝一は「ミドリムシはCO2と水と光で増殖する魔法のような生物です。機能性食品から、飼料、汚水処理、バイオジェット燃料など用途が多様で、夢のあるものですね」と語った。

 ミドリムシで食料や燃料を自給できる日本を作ると熱く語った出雲氏。ミドリムシが世界を救う日は近いかもしれない。

 授賞式の後には、ベンチャー企業の海外展開や若手企業家の創業などのテーマでセッションが行われた。震災による経済影響を受けながらも、復興支援や地域、世界に貢献する企業が果敢に挑戦している。彼らの今後の活躍に期待したい。

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